マルコ退任劇の裏側。二桁億円を伴う「勇退」か、それとも”独断専行”が招いた「更迭」か

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レッドブル・レーシングの重鎮として20年にわたりチームを支えてきたヘルムート・マルコの退任が正式に発表された。公式には「自発的な契約終了」、いわゆる円満退任と説明されているが、その裏では、巨額の金銭授受や激しい内部対立があった可能性が報じられている。

”英雄”への高額な退職金

ドイツのタブロイド紙『BILD』によれば、今年7月にチーム代表のクリスチャン・ホーナーが解任されて以降、親会社レッドブルGmbHの内部では、ホーナーに限らずマルコを含めた体制刷新を求める動きが強まっていたという。

その空気を察知したマルコが、事態を先読みする形で退任を受け入れたと伝えられている。

同紙はまた、契約が残っていた2026年分の年俸に相当する約1000万ユーロ(約18億円)が、マルコに支払われる見込みだと伝えた。これは、セバスチャン・ベッテルやマックス・フェルスタッペンらを発掘し、計14回の世界タイトルをもたらした20年間の功績に対する「ゴールデン・ハンドシェイク(高額な退職金)」だとされる。

サーキット・オブ・ジ・アメリカで優勝したレッドブルのマックス・フェルスタッペンと共にトロフィーを掲げるDr.ヘルムート・マルコー2022年F1アメリカGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

サーキット・オブ・ジ・アメリカで優勝したレッドブルのマックス・フェルスタッペンと共にトロフィーを掲げるDr.ヘルムート・マルコー2022年F1アメリカGP

一方で、この退任は名誉ある勇退ではなかった可能性も指摘されている。

ホーナー追放後の独断専行

公式には辞職とされる今回の決定だが、その背景にはホーナー解任後に顕在化したマルコの独断専行があり、レッドブル首脳陣による事実上の更迭に近いものだったとの報道もある。

オランダの複数メディアによると、長年の政敵だったホーナーが去った後、マルコは自身がチームの全権を掌握したと誤認していたとされる。その象徴が、若手ドライバーを巡る契約問題だ。

今夏には、内部で合意に至っていなかった段階で、アーヴィッド・リンブラッドをレーシング・ブルズと契約させたとされる。

さらに、株主やローラン・メキーズ代表、オリバー・ミンツラフCEOらが育成対象外と判断していたアレックス・ダンとも、独断で契約を結んだと報じられている。これに経営陣は強く反発し、契約解除を命じた結果、レッドブルは多額の違約金を支払うことになったという。

ただし、マルコ本人は地元紙『Kleine Zeitung』のインタビューで、「ばかげた噂に過ぎない」と否定している。

ガレージで話を交わすレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコとレッドブル・スポーツ担当責任者のオリバー・ミンツラフ、2022年11月19日F1アブダビGPのFP3にてCourtesy Of Red Bull Content Pool

ガレージで話を交わすレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコとレッドブル・スポーツ担当責任者のオリバー・ミンツラフ、2022年11月19日F1アブダビGPのFP3にて

そして、決定打になったとされるのが、先日のカタールGPを巡る発言だ。

マルコは、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が、ランド・ノリス(マクラーレン)を故意に先行させたと公然と非難。後日、謝罪したものの、この発言をきっかけに、アントネッリにはSNS上で殺害予告を含む1000件以上の誹謗中傷が寄せられる事態となった。

ベッテルとフェルスタッペンという二人の世界王者が象徴するように、若手の才能を見抜く「眼」は確かだった。だが、真相の全てが明らかになっていないにせよ、組織の規律と現代の倫理観との乖離が、82歳の重鎮をパドックから退かせる結果を招いたのだとしても、不思議ではない。