2014年8月22日のF1ベルギーGPフリー走行を見学に訪れたマックス・フェルスタッペンとヨス・フェルスタッペン、トロロッソのガレージ内にて
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データより”感覚”…マックス・フェルスタッペンの育て方…希代の天才ドライバーは如何にして至ったか?

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デビュー初期こそ、頭に血が上り不必要なドライビングと言動を繰り返す事も珍しくなかったが、今やマックス・フェルスタッペンはその天性の感覚だけでなく成熟さと判断力を身につけ一貫性を手にした。

希代の天才ドライバーは如何にして作られたのか?

出走106回、表彰台2回、獲得ポイント17点。息子と比べると父ヨスのキャリアは目立ったものではなかったが、当時は最も成功したオランダ人ドライバーと見なされていた。

フットワーク在籍時の1996年にカート王者のソフィー・クンペンと入籍。翌年にマックスを授かった。F1での現役生活に別れを告げた後は、自身より優れたレーシングドライバーに…との想いから、人生の多くを息子マックスに投じた。

マックスがカートを始めたのは4歳半の時だった。当時マックスは、友達がカートに乗っているのを見て自身もやりたいとせがんだが、ヨスはこれを突っぱねた。だが涙を流しながら懇願し続けた事で最終的に母親が折れた。最初はレンタルカートだった。

ヨスはかつて、レッドブルとのインタビューの中で「数周も走ると、あいつはコース全体を全開で走行したんだ。結局1日だけやって、すぐに大きなカートを買ってやったよ」と明かしている。

マックスは9歳の時にベルギーとオランダでチャンピオンを獲得すると、13歳で国内レースを離れて舞台を世界へと移し、その初年度にいきなりWSKユーロシリーズとWSKワールドシリーズを制覇。そして16歳でレーシングカートの最高峰、KZクラスで世界チャンピオンとヨーロッパチャンピオンに輝いた。

ヨスはマックスが学校に行っている間は作業場でカートの整備に取り組み、週末になるとオランダとベルギーを中心にヨーロッパ各国をバンで駆け巡り息子のレースに付き添った。

マックスは機械イジりが好きなタイプではなかったが、ヨスはマックスに対して積極的にメカを学ばせた。

「当然、マックスにはキャブレターの組み立てもやらせていた。ドライバーにとって必要な感覚だからね」

マックスも父の意向を理解していた。「僕はドライブする方が好きだったけど、仕組みを理解する事はすごく重要な事だと思っている」

ドライビングに関しては、データに頼る事を許さず徹底的に感覚を磨かせた。ウェットコンディションの場合どこにグリップがあるのか、タイヤの履歴の違いが挙動にどう影響するのかと言った事を、データからではなく実際のドライビングを通して感じ取らせるよう仕向けた。

マックス・フェルスタッペンとヨス・フェルスタッペン、2019年F1イタリアGPにてcopyright Red Bull Content Pool

マックス・フェルスタッペンとヨス・フェルスタッペン、2019年F1イタリアGPにて

マックスはスポンサーイベントの一環として行われた昨年末のデビッド・クルサードとの対談の際、マシンのセットアップとデータとの関係について問われると、カート時代を引き合いに出し次のように答えた。

「父さんは時々、カートに何か変更を加えて僕をコースに送り出すんだけど、何処をイジったのかは教えてくれないんだ。だから僕は感じ取るしかなかった。それが彼の教え方だった」

「でもその結果として、新しいパーツがクルマに装着された時、何が変わったのかを上手く理解できるようになるんだ」

「でも同時に、”何も感じないなら何も言うな、嘘をつくな”とも言っていた」

「実際のところ、例えばチームが新しいフロントウイングを僕のマシンに取り付けたとしても、僕がデータを見て確認する必要はないんだ」

「データというものは僕が言った内容をチームが確認するためのものであって、ドライバーの僕が自分のラップトップを開いて、”ああ、こうなったのか”と言った感じに使うものじゃない」

マックスの抜きん出たマシンコントロールは、このように感覚を研ぎ澄ませ続けてきた結果、形作られたのだろうか。

レッドブルのF1マシンは2019年と2020年の2シーズンに渡ってリアに問題を抱えていた。僚友アレックス・アルボンとピエール・ガスリーはその予測不能な挙動に対応できず幾度となくスピンを喫したが、マックスは滑り出す瞬間にこれを感じ取り対処していた。

感覚・知覚に重きを置いているとは言え、フェルスタッペン親子は何もデータを軽視しているわけではない。

マックスは「ブレーキに関するグラフを45分間見ていても、それだけじゃ何も変える事はできない。コースに出て、理解し、試行錯誤する必要があるんだ」と付け加えた。

単に遺伝子が決定的な役割を果たしたという可能性もある以上、結局のところ、データより直感を重視させる”教育方針”と、マックスが傑出したF1ドライバーへと成長した事との間に因果性が認められるかは分からない。

ただそれを踏まえても、今日のフェルスタッペンへと至るその道程を垣間見るのは興味深い。