
英メディアから“消えた”ホーナー疑惑報道─その実態、進行する法的手続
英国メディアはここ数カ月にわたり、クリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)に関する疑惑を事実上報じることができなくなっているようだ。オランダのDe Telegraafによると、ホーナー側の申し立てを受けた英国の労働裁判所が発した報道制限命令が理由だ。
これにより、英国のすべてのメディアは本件に関する報道を禁じられ、命令が解除されるまで新たな情報を伝えることができないとされる。実際、BBCやガーディアン紙などの主要報道機関も、初期報道の後は本件について沈黙を続けている。
一方、英国の管轄外にあるオランダやイタリアなどのメディアは引き続き取材・報道を行っており、情報が海外メディアに依存するという状況が続いている。
報道制限の背景と労働裁判所の判断
この報道制限命令は、ホーナー側が秘密保持や当事者のプライバシー保護を理由に申請し、英国の労働裁判所が認めたものとみられる。労働裁判所は雇用主と従業員の紛争を扱う法廷であり、著名人案件においては報道差し止めが出されることもあるが、F1チーム代表に関わる本命令の発令は異例といえる。
適用範囲は英国国内に限られるため、海外メディアの取材活動に影響は及ばない。しかし、この措置により英国メディアは訴訟の進展や新たな証拠について一切報じることができず、国内の報道機関は沈黙を強いられている。
疑惑と社内調査の経緯
本件の発端は2023年末、レッドブル・レーシングの女性従業員がホーナーによる不適切な行為や支配的言動、性的嫌がらせを訴えたことだった。このニュースはF1界に大きな波紋を広げた。
これを受け、レッドブルの親会社であるRed Bull GmbHは外部の法律家による独立調査を実施。その結果、2024年2月末に「ホーナーに不正行為なし」と結論づけた。
女性従業員はこの調査結果を不服として、再度、申し立てたが、別の独立した勅選弁護士による再調査の結果、2024年8月に棄却された。この結果を受け、レッドブルは「社内手続きは全て完了した」と声明を発表し、問題について公的なコメントを控えるとした。
しかし、社内調査の過程で、この女性従業員は停職処分を受け、その後解雇されており、これが新たな争点となっているようだ。ホーナーは一貫して疑惑を否定し、「匿名の憶測にはコメントしない」との姿勢を貫いている。
法廷闘争へ─2026年1月に口頭弁論
社内で救済を得られなかった女性元従業員は、英国の労働裁判所にホーナーおよびレッドブル社を相手取って提訴したとされる。和解に達しない限り、この裁判は2026年1月に口頭弁論を迎えると伝えられており、詳細は明らかではないものの、訴訟内容はセクハラ被害の救済要求および不当解雇に関する争いと見られる。
ホーナーは騒動の中で辞任を考えたことはないとしており、裁判でも全面的に争う構えと考えられる。