相次ぐメルセデス製エンジンのトラブル、一因は最終年にかけるホンダF1の情熱と意地
メルセデスのトト・ウォルフ代表によると今季型M12パワーユニットのICE(内燃エンジン)に頻発している信頼性に関する問題は、F1最終年に掛けるホンダの情熱と意地が一因のようだ。
前戦ロシアGPではバルテリ・ボッタスとニコラス・ラティフィという2台のメルセデスPUユーザーが年間上限基数を超えるエンジン交換を行い降格ペナルティを受けた。共に信頼性に関わる理由からであった。
問題を抱えたボッタスのPUは、ロシアGPの2週間前に開催されたイタリアGPで卸したばかりのフレッシュなものであったが、伝えられるところによると僅か1戦で寿命に達したようだ。
そして、2ポイント差でマックス・フェルスタッペンに対してチャンピオンシップをリードするルイス・ハミルトンが今回、第16戦トルコGPで4基目のICEを開封し、10グリッド降格ペナルティを受けた。信頼性の問題はタイトル争いに影響を及ぼしている。
今季末でF1を去るホンダはラストイヤーで有終の美を飾るべく、開発を前倒しして2022年仕様のパワーユニット(PU)を先行導入させた。
燃焼効率の向上を目標に、カムシャフトのレイアウトを変更して大幅なコンパクト化と低重心化を図るなど、一切の妥協なく突き詰められた第4期ホンダF1の集大成にして執念の結晶だった。
田辺豊治テクニカル・ディレクターはこれを「HRD Sakura及びミルトンキーンズの開発部隊の最終年にかける情熱と意地の表れ」と表現した。
ホンダ技術者の熱意と努力は結実し、RA621Hは高いパフォーマンスを信頼性を発揮した。識者の中にはV6時代の覇者メルセデスを凌ぐ「ベストエンジン」と評する者も現れた。
これによって最強の称号をほしいままにしてきたメルセデス製パワーユニットの優位性は失われた。
The Raceが伝えたところによるとトト・ウォルフは、今季型V6エンジンに相次いでいる一連の問題は、レッドブル・ホンダとの激しいチャンピオンシップ争いに打ち勝つべくエンジンを酷使した事が原因だと考えているようだ。
「パワーユニットの性能限界を超えて運用し始めると、ある段階で幾つかの障害が発生するものだ」とトト・ウォルフ。
「2014年にハイブリッドエンジンが導入されて以来、我々の(今季型)パワーユニットは最も高い信頼性を誇っている」
「限界に挑戦したことで例えば内燃機関に異常なノイズが発生する等してトラブルに至った例があった。あの時点では何が問題であるかをまだ完全には理解できていなかったからだ」
「我々はこれまでに再利用できなくなったエンジンを何基か抱える事になった。パーツを再設計する事ができないため、今は問題を抑えることが重要だ」
メルセデスは今回、フルコンポーネントではなく懸案のICEのみを交換した。これによりハミルトンはイスタンブール・パークでのレースを最後尾ではなく11番グリッドからスタートする事になったわけだが、他のコンポーネントは本当に残りのシーズンを乗り切れるのだろうか?
トト・ウォルフはターボやハイブリッド、その他補機類などは「素晴らしい状態で、問題なく限界マイレージの範囲内に収まっている」として、何も心配していないと主張。正しい判断を下したと自信を見せた。
とは言え、F1は来シーズンの初戦でパワーユニットをホモロゲートする。以降の開発は原則として凍結され、少なくとも2024年までは同一仕様を使い続けなければならない。
つまり現在抱えている問題が後々まで後を引く可能性があるわけだが、トト・ウォルフは期限内にこの問題を解決すると約束した。
「如何なるものであれ、来年に弱点を持ち越すことはない。なぜならその存在を理解しているからだ。そして今はこれを抑制するための解決策を見つけることが重要だ」
4基目の投入によってハミルトンは、残り7戦を2基のエンジンでやりくりする事になる。