ホンダF1の現場統括責任者を務める田辺豊治テクニカル・ディレクター、2021年7月2日F1オーストリアGP金曜プレスカンファレンスにて
Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

ホンダF1「依然としてNo1エンジンではない」パワー向上疑惑…欧州記者から怒涛の質問ラッシュ

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ホンダF1の現場統括責任者を務める田辺豊治テクニカル・ディレクターは、レギュレーションで許可されていないパフォーマンス・アップグレードによって馬力を向上させたのではとの疑惑を否定した。

ホンダは第7戦フランスGPでICE(内燃エンジン)を含む2基目のパワーユニットを投入。このタイミングでレッドブルはストレートでのパフォーマンスを引き上げ、メルセデス陣営はホンダの2基目を「アップグレード」と表現した。

「アップグレード」が意味するものはやや曖昧で、レッドブル陣営はこのコメントをシーズン中に認められていない「パフォーマンス・アップグレード」を示唆するものとして受け止めた。故にクリスチャン・ホーナー代表とマックス・フェルスタッペンは、トップスピードの向上はドラッグの低いリアウィングによる恩恵だと繰り返し強調した。

ホンダF1にとっての最後のパワーユニットとなる今季型「RA621H」は、前季型を根底から見つめ直して再設計された意欲作だ。

燃焼効率の向上を目標にホンダはバルブ角を変更し、カムシャフトのレイアウトを変えて低重心コンパクト化を図り、ボアピッチ(気筒の間隔)を狭くすることでエンジンの全長を短くしてサイズダウンを達成した。

こうした取り組みにより信頼性と馬力が引き上げられただけでなく、シャシーへの組み込みやパッケージングという点も改良される事となり、チーム側はエアロダイナミクス開発という点でアドバンテージを得る事となった。

ある独メディアの推計によるとホンダは2基目の投入によって約15馬力の向上を果たしたともされ、この話題はパドックで高い関心を集めている。実際、第9戦オーストリアGPの金曜会見では田辺豊治TDに対する欧州の記者達からの質問が矢継ぎ早に飛んだ。

”15馬力”報道についての見解を問われたホンダF1の現場指揮官は「本当であればとても嬉しいのですが、事実ではありません」と答え、潜在的なパワーが引き上げられたわけではないと否定した。

「現在のレギュレーションでは、シーズン中にパフォーマンスアップデートを行なう事ができませんので。そのため我々の2基目のPUはスペックや性能の面で1基目と同じものになっています」

では信頼性の向上によって、より高出力のエンジンモードを稼働させる事ができるようになったのだろうか? そう問われた田辺豊治TDは現行レギュレーションの規定を説明する事で答えとした。

「パフォーマンスの向上はホンダやチームによる努力の賜物です」

「現行のPUレギュレーションでは変更点を提出する必要があり、信頼性、コスト、ロジスティックスを理由とした変更しか認められていません」

「まずはかなり詳細な資料をFIAに提出し、その変更が承認されると、FIAはすべての文書を他のPUメーカーに配布します。よって実際にパーツや仕様を変更するには他のPUメーカーの承認も必要となるわけです」

「こうした詳細な調査が必要とされているのは、かなり以前の事ですが、信頼性の向上のために変更を加えてパフォーマンスを向上させたチームがあったためです。そのため我々はパフォーマンスの変更には細心の注意を払っています」

「シーズン中にパフォーマンスを向上させることはできません。それがその疑惑に対する私の答えです」

ではパワーユニットの総出力は変わっていないが、当初から備わっていたポテンシャルをより多く引き出せるようになったという事なのか? 田辺TDは「そうですね」と返す。

「シーズン前テストからこの20・21年型の新型PUを使い始め、我々は少しずつ使い方を学んできました。そして弱点を改善し、強みを引き出してきました。基本的な仕様、性能は同じですが、トラックサイドでのパフォーマンスは向上していると思います」

ベース性能を向上せずに実際のコース上でのパフォーマンスを向上させる、とは一体具体的にどういうことなのだろうか?

「まずはPU、ICE、ERSシステムへの理解を深めることです。その上で週末毎にICEとERSシステムのバランスの取り方のシミュレーションを行い、ラップタイムという観点からPUの使い方を最適化していきます」

「今は技術指令書によって予選と決勝で同じエンジンモードを使わなければならないため、こうした作業は以前よりも楽ではありません」

「つまりシミュレーションを経てサーキットに足を運び、実際の走行を経て計算結果をアップデートし、パフォーマンスを最大化するのです」

なお、プレシーズンテストを経て信頼性に懸念材料が確認されたため開幕以降はエンジンを低出力モードで運用する事となり、2基目の投入によって本来のパフォーマンスを発揮できるようになったとの見方もなされていたが、田辺TDはこれも否定した。

2基目のパワーユニットが”アップグレード”でないとしても、ホンダPUを搭載するレッドブルRB16Bはメルセデスの追随を許さないパフォーマンスを発揮しつつある。

もとよりシーズン開幕前の段階から「グリッド最強エンジンはホンダ」との評価もあったわけだが、「ホンダは最強エンジンと共にF1を去る事になると感じているか」との問いに対して田辺TDは依然としてNo1エンジンではないとの認識を示した。

「我々は他のPUメーカーと比較して自分たちのポジションを分析し続けています。これはシャシー性能を含めての分析ですので、低ダウンフォースが速さに繋がっているクルマもあれば、エンジンパワーの性能が寄与している場合もあり、判断は少し難しいです」

「ですが現在の結果を見ると……やはり我々は依然としてナンバーワンではありません。先ほど申し上げたようにICEのように純粋なパフォーマンスを向上させることはできませんので、現行のハードウェアをより効果的に使うためにチーム側のエンジニアと共に取り組んでいます」

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