2020年8月02日、イギリス・ノーサンプトンで開催されたシルバーストーンでのF1イギリスGPを前にパドックで話をするレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表とフェラーリのマッティア・ビノット代表
Courtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブル、ホンダ継承不可の場合はフェラーリとF1パワーユニット契約を締結していた?

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ホンダが知的財産権(IP)の使用を拒絶していた場合、あるいは2022年からのパワーユニット開発が凍結されなかった場合、英国ミルトンキーンズのチームは2022年以降のF1で「レッドブル・フェラーリ」を名乗っていた可能性がある。

今シーズン限りでのホンダのF1撤退を受け、V8時代の常勝チームは日本のエンジンメーカーに変わるパワーユニット(PU)サプライヤーとの話し合いを行った。世界最高峰のフォーミュラでPUを供給しているのはホンダの他にメルセデス、フェラーリ、ルノーの3社のみで、いずれも自らのワークスチームを参戦させている。つまりはライバルだ。

レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表はポッドキャスト”Beyond The Grid”の中で、ホンダ撤退発表以降の各PUサプライヤーとの交渉の舞台裏の一部を明かして、ホンダのIP継承案が頓挫した場合、マラネロ製のエンジンを搭載する事になった可能性が高いと示唆した。

「まずは既存のサプライヤーと話し合うことが最も自然だった。トト(ウォルフ、チーム代表)は明らかに乗り気ではなくメルセデスとの話し合いは早々に終わった」とクリスチャン・ホーナー。

「ルノーは、レッドブルのようなチームへの供給を強く望んではいなかったし、おそらく最も意欲的だったのはフェラーリだと言えるだろう」

既に自らのワークスチームを持つサプライヤーからPUの供給を受ける場合、共同開発という形が取れないため、レッドブルは先方都合で開発されたPUをベースに車体開発を進めるというハンデを負わなければならない。

当然この場合、空力的な妥協は不可避であり、パワーユニットとシャシーの完全なる統合がトップ争いを繰り広げる上での最低条件である事から、レッドブルは既存サプライヤーとの交渉を一旦棚に置き、ホンダに提案を持ちかけた。

「幾つか検討したものの、カスタマーになるという事はあらゆる制約を受け入れなければならないという事であり、特に(来年)新しいレギュレーションが導入されることを考えると、非常に受け入れがたいことであったため、我々は可能性を探り始めた」

「レッドブルらしいあり方でこの課題に取り組み、ホンダとの契約をまとめることができるかどうかという可能性をね」

最終的にホンダの合意を経てレッドブルは2022年以降、現行「RA621H」をベースとしたホンダのパワーユニットを「レッドブル・エンジン」とネーミングし、ミルトンキーンズのファクトリーで独自にパワーユニットを運用していく事で満額の解決を得た。

「これは強調されるべき大きな一歩だ」とクリスチャン・ホーナーは力説する。

「エンジンサプライヤーとして自分たちの運命をコントロールし、すべてをミルトンキーンズのひとつ屋根の下でまかなう事ができるわけだからね。この体制でやっているのはフェラーリのみだから、我々はこれに続くチームとなる」

レッドブルにはPUを開発できるだけのノウハウも設備も人材もなかったため、HRD Sakuraが生み出したホンダPU技術の継続使用に際しては、2022年からの開発凍結が必要不可欠だった。

そこでレッドブルはF1と国際自動車連盟(FIA)に対し、開発が凍結されない場合、撤退も辞さないとの強い姿勢でロビー活動を展開。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックへの対処としてコスト削減の必要性が求められていたという背景にも助けられ、最終的に凍結は合意をみた。

とは言えやはり、撤退は現実的なプランではなかったようだ。

撤退に伴うチーム売却についてのディートリッヒ・マテシッツ(レッドブルのオーナー)の考えについて問われたクリスチャン・ホーナーは「(売却という)選択の余地がないという結論に彼自身が達したのだと思っている。ヘルムート(マルコ / チーム首脳)は(参戦継続に)とても協力的で、それを強く推し進めていた。あれは間違いなく正しい決断だった」と語った。