
前代未聞の“F1加速不能”はなぜ起きた? 前例なき条件で雨天用制御の「バグ」が表面化、赤旗中にソフトウェア更新
アクセルを踏んでもマシンが加速しない――2026年F1第16戦バーレーンGPのフォーメーションラップで複数台を襲った異常について、国際自動車連盟(FIA)は、極端な低速走行をきっかけにソフトウェアの不具合が発生したためだと説明した。
決勝当日のセパン・インターナショナル・サーキットは、レース開始直前に豪雨に見舞われた。その結果、開始は40分遅延。その後のフォーメーションラップでは、フロントロウのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)やルイス・ハミルトン(フェラーリ)らが加速不能に陥り、複数のマシンがコース上に停止したため、赤旗が提示された。
レース再開までにはさらに53分を要した。その間に各チームのマシンにはソフトウェアのアップデートが施された。この一連の作業に要した時間は約20分だったという。
2026年シーズンとしては初のウエットレースであり、雨天での走行機会が少なく、十分な検証が及んでいなかったことが今回の問題発生に大きく影響した。
FIA声明「前例のない組み合わせ」で異常発生
レース後、FIAはこの異例の状況について説明する声明を発表した。
「バーレーンGPのフォーメーションラップでは、低いエンジン回転数、低グリップのコンディション、ウエット時のエネルギーマネジメント設定、そしてセパン・サーキットのセクター構成という前例のない組み合わせにより、複数のマシンで意図しないパワー喪失が発生した」
「その結果、FIAの技術部門は、レース中断中に全チームに配布したアップデート版のソフトウェアを通じて、一部のセクターにおけるエネルギー制限を解除した。これにより各チームは、レース開始前にパワーユニット(PU)へ必要な変更を施すことが可能になった」
「この問題は、テスト中にも、グリッドへ向かうラップ中にも、FIAまたは各チームによって検出されていなかった。FIAは各チームおよびパワーユニットメーカーとともに、この問題について全面的な検証を行う」
雨天時には安全上の理由から、特定のセクターにおいてMGU-Kの出力が350kWではなく最大250kWに制限される。問題が発生したのは、この250kW制限区間だったとされる。
こうしたPUの制御には、FIAが管理するソフトウェアとFIA標準ECU(SECU/車載制御コンピューター)が使われている。このソフトウェアは、FIA、各チームおよびPUメーカーが共同開発している。
どのようにして加速不能に至ったのか?
セパンのフォーメーションラップでは、セーフティーカー先導の中、一部のマシンがかなり低速まで減速した。その後続では車間が詰まり、ほとんど停止するほどまで速度を落としたマシンもあった。
今季は熱エネルギー回生システム(MGU-H)が廃止され、ターボをアシストする仕組みが失われた。そのため、エンジンが低回転の状態ではターボが十分に機能せず、この状況でスロットルを踏み込むと、ドライバーが要求するトルクを発生させようとシステム側が電動エネルギーを過剰に使用し、バッテリーが急速に枯渇する。
こうしてバッテリー残量が失われる中、想定外の極低速域に入ったことでソフトウェアが異常な制御ループに陥り、一部のマシンではアクセルを踏んでもエネルギーを展開できなくなった。その結果、駆動力が発生せず、停止寸前あるいは完全停止に至ったようだ。
赤旗中断中のアップデートにより250kW制限が解除されたことに加え、意図的に低いギアを選択してエンジン回転数を維持することで、ひとまずこの問題を乗り越えた。
一方で、単に電動アシストが失われただけでなく、アクセルペダルを踏んでも内燃エンジン(ICE)の回転数が一切上がらなかった問題については、現時点で原因が判明していない。
オリバー・ベアマン(ハース)は「アクセルペダルが突然効かなくなった。まるで接続されていないみたいで、エンジンはただアイドリングしていた」と語っている。
考えられるのは、制御トラブルによってフェイルセーフ(障害発生時の安全機構)が作動し、SECUがドライバーからのアクセル操作を受け付けず、要求トルクを「0」または「最小アイドリング状態」に上書きしたシナリオだろう。
現行のF1マシンには、アクセルペダルとICEをつなぐ物理的なワイヤーやメカニカルなリンクは存在しておらず、SECUがその間を取り持っている。
トンバジス、検証不足を認め「申し訳ない」
イギリスのモータースポーツ専門誌『Autosport』によると、FIAのシングルシーター部門を統括するニコラス・トンバジスは、ソフトウェア上に「バグ」があったと説明し、レースを待ち続けた観客らに謝罪しつつ、今回の件に対する理解を求めた。
「今年は[タイヤ開発テストを含めて]ウエットでの走行が非常に少なかったため、我々が望んでいたほど広範囲にソフトウェアをテストできなかった。そして、いくつかの状況が重なったことで、このバグが表面化した」
「問題の発生を受け、担当者は何が起きているのかを非常に早く把握し、強い時間的プレッシャーの中でソフトウェアのアップデート作業を行わなければならなかった。それを各チームに配布し、各チームはマシンにインストールする必要があった」
「レースを待っていた観客や、ほかの皆さんにとっては5時間にも感じられたかもしれない。それは理解できるし、申し訳なく思っている。ただ、今回の問題を考えれば、対応はかなり早かったと思う」
雷雨とマシンに相次いだ技術的トラブルにより、2度の開始遅延を余儀なくされた2026年F1第16戦バーレーンGPでは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポール・トゥ・ウインで今季初勝利を挙げた。
マリーナベイ市街地コースを舞台とする次戦シンガポールGPは、10月9日のフリー走行1回目(FP1)で幕を開ける。