なぜハースの再審請求は却下されたのか…トラリミ見逃し疑惑のF1アメリカGP、車載映像の証拠としての有用性
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トラックリミットの見逃し疑惑を経て国際自動車連盟(FIA)のスチュワードは、提出された証拠が要件を満たしていないとして、2023年10月22日のF1アメリカGPのリザルトの見直しを求めたハースF1チームの再審請求を却下した。
ただ同時に、サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)のターン6を含む各コースにおけるトラックリミットの監視を巡る現状は「完全に満足できるものではない」として、2024年シーズンの開幕までに「更なる改善策」を見出すべきと「強く勧告」した。
再審理行わず却下
ハースは11月3日(金)、FIA国際競技規定第14条に基づく再審請求権の行使を要請した。これはアメリカGPに関するスチュワードの2つの決定、つまり最終リザルトと、走路外を走行しながらもペナルティを逃れたアレックス・アルボン(ウィリアムズ)に関連する文書を対象としたものだった。
聴聞会は8日(水)にオンライン上で開始されたものの、「提出された内容を独自に検討する機会」が必要との理由で一時中断され、翌9日(木)の再開を経て却下の決定が下された。再審理は行われなかった。
ハースからは小松礼雄エンジニアリングディレクターと社外法律顧問のアンドレア・フィオラバンティが出席した。召喚されたアストンマーチン、ウィリアムズ、レッドブルの他に、マクラーレンとフェラーリが別途の許可を得て聴聞会に加わった。
F1アメリカGPのスチュワードはデレック・ワーウィック、フェリックス・ホルター、アンドリュー・マラリュー、デニス・ディーンの4名が務めた。
ハースは各車のオンボード映像から、アルボンとローガン・サージェントのウィリアムズ勢、セルジオ・ペレス(レッドブル)、そしてランス・ストロール(アストンマーチン)がターン6のエイペックスで複数回に渡ってトラックリミットを越えたと主張した。
再審請求は「スチュワードの決定」に対して再審理を請求するものだ。
アルボンに関してはトラックリミット違反があったにも関わらずペナルティを科さないとの決定が下されたため、ハースはこれに関する文書の見直しを要求する事ができたが、他の3名に関しては同様の決定や調査が下されたわけではなく文書も存在しないため、ハースはリザルトそのものをターゲットとした。
ハースの主張に対してライバルの計5チームは、オンボード映像は決定が下された時点において利用可能であったとして、再審請求の要件の一つである新規性を有していないと反論した。対してハースはチームが当時、これらの証拠を入手できなかったと主張した。
スチュワードは聴聞会を一時中断とし、ハースの提出物が再審請求の要件である「決定の時点で利用できなかった重要かつ関連する新たな証拠」に該当するか否かを検討したうえで、ハースの要請を却下した。全ての証拠は決定の時点でスチュワードとハース双方が利用可能なものであった事が確認された。
車載映像、証拠としての有用性
ただしアルボンの車載映像は「少なくとも幾つかの明らかな違反を示すように見えた」ため「重要」だとスチュワードは指摘した。
だが同時に、過去の判例から「トラックリミットの違反はほぼ例外なく、トラックリミットの境界線に対するクルマの位置をはっきりと確認できる適切な解像度を持つ固定CCTVカメラからの証拠映像に基づいて執行されるのが一般的だ。ターン6のCCTVカメラはコーナーのエイペックスをカバーしていなかったため、その基準を満たしていなかった」とも説明した。
また、オンボード映像は当該カメラが設置されたマシンの前走車両の潜在的な違反を確認する上では役立つが、カメラが設置された車両そのものの違反を判断するうえでは「役に立たない」との考えが示された。
さらにオンボード映像は、全ての車両と全てのラップに対して一貫したルール適用を行うための証拠としては不十分、不適切な側面があり、原則的には車両の位置を明確に確認できる十分な解像度を持ったCCTVカメラの映像証拠が必要とも指摘された。
聴聞会におけるアストンマーチンの主張によると、FIAは全てのチームに対して過去に何度も、トラックリミットはオンボード映像だけをもって判断されるものではないと明確に通知していた。
ターン6において潜在的なトラックリミット違反が生じていたにも関わらず、これを適切に処分できない現状に対してスチュワードは不満を表明し、現状を打開するための解決策を迅速に見出す事を関係者に強く勧告した。