関係修復は不可能?外野が騒いでいるだけ? “離婚前夜”のフェラーリとベッテル
今季末で袂を分かつスクーデリア・フェラーリとセバスチャン・ベッテル。”離婚前夜”にある両者の関係は、もはや修復不可能なのだろうか? それとも外野が騒いでいるだけで心配する程の状況ではないのだろうか?
シルバーストンでの苛立ちの無線に続き、スペインGPでのフェラーリとベッテルのコミュニケーションが末期的であるとして話題を集めている。
すれ違う意思疎通、苛立ちと呆れ
ベッテルは元より無線で多くを語るドライバーではないものの、カタロニア・サーキットの予選では、レースエンジニアのリカルド・アダミがただ延々と一方的に話しかけるのみで、ベッテルは一度もこれに応えなかった。
また翌日の決勝ではタイヤ戦略を巡る意思疎通に問題が発生し、ベッテルが不満をあらわにする場面があった。
2ストップを行うとしてプッシュするよう指示があったため、ベッテルは数周に渡ってタイヤをいたわる事なく攻めていたが、その後に突如1ストップについての意見を求められたのだ。
活字にしてしまうと分かりづらいが、ベッテルは決して怒鳴ったりはせず、ただただ呆れたように声の抑揚もなく、次のようなやり取りを繰り返した。
- ピット
- このタイヤで最後まで走るプランについてどう思う?
- ベッテル
- ったく。だから、さっきどうするのかを聞いたんじゃないか。もうこのタイヤで3周もプッシュしてるんだよ?
- ピット
- 分かってる。ただ確認したいんだ
- ベッテル
- よりけりだよ。状況による。あと何周走れば良いのさ?
- ピット
- 16周。(このタイヤで行くには)5周足らないと考えてる
- ベッテル
- 他の人たちのペースは?
- ピット
- (1分)22.6秒
- ベッテル
- 分かった。ここで君に宿題。彼らが22.6秒で最後まで行くとすると、僕が前に留まるためには何をしなきゃならない?
- ピット
- 後で折り返す
- ピット
- 23.4秒か23.5秒で最後まで走る
- ベッテル
- 分かったよ。やるよ。頑張ってみよう。失うものは何もないんだから
70周年記念GPの際も、ピットインのタイミングを判断する際はトラフィックに注意するよう事前に伝えていたにも関わらず、23周目にタイヤ交換を終えて戻った場所が集団のド真ん中であったため、ベッテルが「頑張って踏み止まってみせるけど、キミらが台無しにしたんだからな!」と無線を飛ばすシーンがあった。
緊張関係を否定するチーム代表とベッテル
フェラーリのマッティア・ビノット代表、2020年F1スペインGPにて
こうしたやり取りの一部が国際放送で流れた事もあり、フェラーリとベッテルの関係悪化への懸念が高まっているが、マッティア・ビノット代表は「疑問に思った事をオープンに議論しているだけ」であり、ドライバーの意見を取り入れて柔軟に判断を下している事の現れだとして、緊張関係にあるとの憶測を否定した。
また当のベッテルも、一連のやり取りは「普通のコミュニケーション」であり、無線の一部のみを以てチームとの関係性を判断するのは誤りだと主張した。
更に、跳ね馬のレース戦略部門を統括するイナーキこと、イグナシオ・ルエダは「近年のレース運営はかなり複雑であり、今季は各チームのパフォーマンスが拮抗しているため、周回ごとにシナリオが変わってしまうのも事実」「戦略は数学的モデルに基づくものだが、実行するのはコンピューターではなく生身のドライバー。よって戦略策定のプロセスにドライバーを関与させ、なぜそうなのかを理解させる事が重要」などとして、戦略を巡る無線でのコミュニケーションに問題はないと説明した。
離婚前夜の関係は非常に気まずい、とブラウン
内部関係者がこぞって緊張関係を否定する一方、F1のスポーティング・ディレクターを務めるロス・ブラウンは、離婚前夜を迎えている両者は「非常に気まずい関係」にあると指摘する。
テクニカルディレクターとして、そして代表としてチーム運営に関わった経験を持つブラウンは「セバスチャンとフェラーリは共に、関係が終わりを迎えようとしていることを認識している。その様子を見るのは辛いものがある」と語り、両者の間に”亀裂”がある事は明らかだと主張する。
「離婚届は既に受理されているのに離婚が成立していない。彼らは今、そんな時期にいる。それは非常に気まずいものだ」
「ドライバーとチームの相性は非常に重要だ。ドライバーはチームの一員であり、失敗も成功もチームとともにある。こうした動的な要素を管理することは(チームにとって)常に課題だ」
「ドライバーが”もう必要ない”と言われた時、それはチームにとって最も困難な時期のひとつとなる。ドライバーはチームが自身を必要としていないことを知っているため、すぐに亀裂が現れる。チームには、こうした状況を最善の方法で管理する責任がある」
「私自身も辛い経験をしてきた。そのため、このような状況に置かれたドライバーが手に負えない事は知っている」