1954年型メルセデス、F1マシン史上最高額の82億円で落札―伝説的王者ファンジオとモスがドライブ
ファン・マヌエル・ファンジオとスターリング・モスがドライブした1954年型メルセデス・ベンツ W196 R ストリームライナー(Mercedes-Benz W 196 R Stromlinienwagen)が、ドイツ・シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ博物館で開催されたRMサザビーズのオークションにて、5,115万5,000ユーロ(約82億円)で落札された。
史上最高額のF1マシン
この落札額は、F1マシンのオークション史上最高額となり、2013年に1,960万ポンド(約38億円)で落札された1954年型メルセデス・ベンツ W196を大きく上回る記録となった。
今回落札されたシャシー番号00009/54のW196 Rは、1955年のF1イタリアGPでモスがファステストラップを記録した際のマシンであり、同年のブエノスアイレスGPで5度のF1王者ファンジオが優勝した際にも使用された個体だ。
近年、クラシックF1マシンの価値は急上昇しており、2023年にはルイス・ハミルトンがシルバーアローで初勝利を挙げた2013年型メルセデス「W04」が1,880万ドル(約29億円)で落札された。また、F1の元CEOであるバーニー・エクレストンが所有する希少なF1カーコレクションも、100億円以上の落札額が見込まれている。
1955年シーズン終了後、メルセデスはF1から撤退。このW196 Rは、1965年にインディアナポリス・モーター・スピードウェイ博物館へ寄贈され、その後約60年間にわたり保存・展示されていた。今回、初めて民間のオーナーに譲渡されることとなり、優れた保存状態が維持されていたことも、高額落札の要因の一つと考えられる。
W196 R ストリームライナーの特徴
W196 Rは、1954年と1955年のF1シーズンにメルセデス・ベンツが投入した伝説的なマシンであり、その革新的な技術と卓越した競争力により、当時のF1界を席巻した。実際、ファンジオがこのマシンを駆り、1954年と1955年のF1ワールドチャンピオンを獲得したことは、その優秀さを証明するものと言える。
ストリームライナー仕様は、オープンホイール仕様のW196 Rと比較し、ホイールをカウル内に収めることで、ストレートでの空力性能を最大限に高めた設計となっている。一方で、タイトなコーナーが多いサーキットでは操縦性が制限されるため、オープンホイール仕様の方が適していた。メルセデスはサーキットの特性に応じて両仕様を使い分ける戦略を採用していた。
搭載されたエンジンは2.5リッターの直列8気筒で、デスモドロミックバルブ機構とボッシュ製の高圧燃料噴射システムを採用。最高出力は約290馬力で、当時のF1マシンとしては最先端の技術が導入されていた。
さらに、車体には軽量かつ高剛性のマグネシウム合金が使用され、従来のアルミニウム合金製シャシーと比較して約30kgの軽量化を実現した。これにより、優れた加速性能とコーナリング性能を確保し、レースでの競争力を大幅に向上させた。