マクラーレンの2004年型F1マシン「MP4-19」に搭載されていたメルセデス・ベンツ製3リッターV10エンジン「FO 110Q」細部
Courtesy Of Stephan Bauer ©2020 Courtesy of RM Sotheby

あの鼓動がF1に復活?2028年「V10再導入議論」が進行―揺れる未来のエンジン戦略

  • Published:

FIA(国際自動車連盟)が、2028年シーズンを目途にF1へV10エンジンの再導入を検討していることが明らかとなった。これは、よりシンプルかつ低コストなパワーユニット(PU)を実現するという長期的な技術方針の一環として、持続可能燃料との組み合わせを前提に議論が進められている。

V10エンジン復活案は、F1が近年進めてきた電動化路線からの大きな方針転換を意味する。これまでの電動化は、アウディの参入やホンダのF1復帰を後押しする要因となっていたが、現在の議論は「コスト削減」と「技術の簡素化」に軸足を移しつつある。

FIAシングルシーター部門責任者のニコラス・トンバジスは、「持続可能燃料の進展により、よりシンプルなエンジンへの回帰が現実的になった」と述べたうえで、「世界経済の影響を踏まえ、F1もコスト抑制策を講じる必要がある。現行および2026年仕様のPUは明らかに高額すぎる」と懸念を示した。

2026年新PU導入を目前にした議論、OEMの姿勢も変化

2026年から導入予定のV6ターボハイブリッド(内燃機関と電動出力の比率が50:50)は、ホンダを含む各メーカーがすでに大規模な開発を進めているため、これをわずか2シーズンで打ち切りV10へと移行する案はあまりに大胆に思われる。

だが、持続可能燃料の実用化は一歩ずつ進んでおり、PUメーカーの間でも、電動化のトレンドはかつてほど一枚岩ではなくなっているようだ。

トンバジスは、「2026年のエンジンに関する議論が行われた2020年から2021年当時は、電動化の流れが支配的だった。だが現在は、OEM(自動車メーカー)の見解も当時とは変わってきている」とし、2028年あるいは2029年を目標に、PUメーカーとともに新たなPUの在り方を検討していると語った。

V10導入は現行規定の見直しにも波及か

V10エンジン復帰案の浮上により、2026年から施行される新型V6ターボ規定自体を見直すべきかどうか、という第二の議論も始まっている。

だが、この案には大きな問題点がある。アウディや、フォードと共同で独自PUを開発中のレッドブルなど、現行PUを持たない新規参入メーカーにとっては、こうした見直しは大きな影響を及ぼしかねない。

これについてトンバジスは、「まず問うべきは、数年後に異なるPUコンセプトに移行したいかという点だ。これが長期的な判断を左右する」と述べ、「どのような変更をするにしても、それは広範なコンセンサスが必要であり、FIAが一方的に変更を押し付けることはない」と強調した。

「仮に将来的なPUの変更が決まったとしても、その間(2026〜28年)にどう対応するかはまた別問題だ。我々は決して一方的に変更を押し付けるようなことはしない」

トンバジスはまた、F1が将来的な経済変動に耐えうるシリーズであるためには、コスト削減を平時から進めることが必要だとも指摘した。

FIAは今後、各PUメーカーと協議を重ねながら、2028年以降のPUの方向性を明確化していく方針であり、ファンからの支持も根強いV10サウンドが、サステナビリティと共存する時代が訪れるかどうか注目される。