F1レース前の音楽事情:チームメイトの迷惑を承知で爆音を垂れ流す者、自分の楽曲を聴く者、アゼルバイジャン国歌を推す者
決勝レースに向けた準備の仕方は人それぞれだ。シャルル・ルクレールは時に、自分の音楽を聞き、ランド・ノリスは隣の部屋にいるチームメイトの迷惑を承知で爆音を垂れ流し、カルロス・サインツは自己対話に勤しむ。
肉体的にも精神的にも非常に過酷な世界最高峰のレースを前に、F1ドライバーのレース前準備という面で、音楽はどのような役割を果たしているのだろうか。
ピアニストのソフィアン・パマートと共に、4曲入りのピアノアルバム「Dreamers」をリリースするなど、ステアリングを握る傍ら鍵盤を叩くルクレールは、レース前に映画のサウンドトラックのようなインストゥルメンタルな音楽を聴いて、モチベーションを高めることが多いと明かした。
「僕は映画の音楽みたいなインストゥルメンタルを聴く。クルマに乗り込む前にモチベーションとかエネルギーを高めてくれる音楽が好きなんだ」とルクレールは語る。
「滅多にないけど、今年のモナコGPみたいに、もし緊張しすぎていたら、落ち着いた音楽を聴いて、レースに向けて緊張をほぐすこともあるけど、基本的には、インストゥルメンタルを聴いてモチベーションを上げてる」
自分の楽曲を聴くことはあるのか?と問われたルクレールは「モナコの前には聴いたよ。いつも聴いている曲よりも落ち着くからね」と答えた。
キミ・ライコネンのように、自然体ながらも揺るぎない芯を持つオスカー・ピアストリは、隣の部屋でノリスが音楽を大音量で垂れ流す中、集中力を高めていく。
「正直、僕は何も聴かないんだ。(モーターホームが持ち込まれる)ヨーロッパでは、ランド(ノリス)が大音量で音楽を流しているから、結局はそれを聴くことになるけどね」とピアストリは語る。
「それぞれが好きなものを聴けば良いと思う。でもザントフォールトなんかは、どんなに落ち着いた感じの曲を聴いても、その効果は疑わしいけどね」
「グリッドで演奏される音楽は大抵、僕の好みだけど、場所によってはちょっと騒々しい時もあって、エンジニアと話すために大声を出さなきゃいけないのが少しイライラすることもある。でも、雰囲気作りには欠かせないよね」
ルクレールから「僕の曲、聴いてる?」と尋ねられたピアストリは、「いや(笑、ないけど、聴いた方がいいかもね」と返した。
レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコがかつて指摘したように、ピアストリとは対照的に、ノリスはメンタルがやや弱いふしがある。
ノリスは、日曜のレース前は「常に同じ食事」を取る。ポーチドエッグかスクランブルエッグをトーストにのせて、アボカドを添えたもの以外は「食べられない」のだそうだ。
また、レーシングスーツに着替える時は「フル・ボリューム」で音楽をかける。「上の階にいるみんなが迷惑に思っていても気にしない。隣の部屋にいるオスカーにも聞こえるほどの大音量だけどね」と笑う。
サインツは、そもそもレース前に音楽を聴く必要がないと語るが、曲の冒頭から雄大かつ壮大なメロディが展開されるアゼルバイジャン国歌はお気に入りだという。
「つまらない答えかもしれないけど、僕は聴かないんだ。レース前はすでに気持ちが高ぶっていて、鳥肌が立つくらいだから、音楽でさらにテンションを上げる必要はないんだよね」とサインツは語る。
「むしろ自分と対話することが多い。テンションを上げる必要がある時はウォームアップをしっかりやる。落ち着く必要がある時は、少し時間を取ってリラックスする」
「ここ、アゼルバイジャンで僕を奮い立たせるものといえば、アゼルバイジャンの国歌かな。グリッドに立っている時に力強く鼓舞される感じがして、いいんだよ」