F1デビューイヤーのマックス・フェルスタッペン、トロロッソ
Courtesy Of Red Bull Content Pool

F1将来の双璧…フェルスタッペン獲得の背景に”クレイジーなアイデア”あり、とレッドブル

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「若すぎる」そんな批判を受けながらも、鮮烈なF1デビューを果たしたマックス・フェルスタッペンも今年でF1での5シーズン目を迎えた。ダニエル・リカルドという才能溢れる兄貴分を失った今、フェルスタッペンは一段と成熟度を増し、レッドブル・ホンダを率いる、否、F1を代表するドライバーに相応しい存在感を見せている。

獲得のカギは”クレイジーなアイデア”

だが、レッドブルが”クレイジーなアイデア”を実行に移さなかったとしたら、次世代のF1ワールドチャンピオン最有力候補とみなされる若きオランダ人ドライバーは、今頃メルセデスでルイス・ハミルトンのチームメイトを務めていた可能性もある。バルテリ・ボッタスの代わりに2020年にシルバーアローへと移籍するのではとの噂が絶えないが、メルセデスはジュニア時代にもフェルスタッペン勧誘に動いていた。

「ヘルムート(マルコ)が”クレイジーなアイデアがあるんだけど”って言ってきたんだ」とクリスチャン・ホーナー。Formula1.comのインタビューの中で、2013年にフェルスタッペン獲得に動いた際の裏話を披露した。

「彼は、”もしマックスを本当に手に入れたいなら、トロロッソのシートを提供しなきゃならないと思う”なんて言うんだ。当時の彼が15歳だった事を考えれば、本当にパンチの効いた意見だった」

「でも私もまた彼の意見に完全に同意した。マックスにはそれに足るだけの能力があると感じていたからね。一気にF1へとステップアップする事を疑問視する人も多かったが、彼はそれだけの才能を備えたドライバーだった。彼には他のドライバーにはない独特な何かがあったから、決断は難しいことじゃなかった」

ガレージ内でクリスチャン・ホーナー代表と談笑するレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン、F1オーストリアGPフリー走行にて
© Getty Images / Red Bull Content Pool、クリスチャン・ホーナー代表とマックス・フェルスタッペン

レッドブルはフェルスタッペンへ寄せる高い期待と評価を、育成プログラム契約を結ぶ前にF1のシートを約束するという”行動”によって表現し、メルセデスとの獲得競争に打ち勝った。まさに前例のない”クレイジーなアイデア”であったと言える。

異例の大抜擢に声を失った父ヨス

レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは、トロロッソのシートをオファーした際のエピソードを明かし、フェルスタッペンの父ヨスが驚きのあまりに声を失っていた事を打ち明けた。

「ヨスを呼んでこう言ったんだ。”我々は前例のない事をやる。フォーミュラ1だ”とね。沈黙が流れたよ。私は”ヨス?ヨス?ヨス?”と呼びかけたが、それでも沈黙が続いていた。彼は信じられなかったんだ。2・3日後にグラーツ(フェルスタッペンの母国オーストリア第2の都市)で打ち合わせを行い詳細を詰めた。我々はその後すぐに契約を結んだ」

マックス・フェルスタッペンと父のヨス
© Getty Images / Red Bull Content Pool、マックス・フェルスタッペンと父のヨス

ヨスが驚愕したのも無理はない。フェルスタッペンは2013年にカートの世界選手権を制した後、2014年にFIAヨーロッパ・フォーミュラ3選手権に参戦し、本格的なシングルシーターデビューを果たしたばかりであり、初のシーズンを終えてすらいない状況だったのだ。だが、父親が声を失った一方で、息子の方はまったく気にしていなかった。

「あまり気にしなかったよ」とフェルスタッペン。「そういう事はマネージャーと父に任せていたからね。僕としてはコース上で自分の速さを証明するだけだった。契約を結ぶ時、父は”本当に良いのか?”って確認してきたけど、僕は首を縦に振った。確かに早過ぎるって意見もあったと思うけど、僕のキャリアにおいて”史上最年少”はごく普通の事だったからね」

契約を済ませたトロロッソは、その年の日本GPでフェルスタッペンをシートに座らせた。17歳3日での初の公式セッションデビューだった。鈴鹿での金曜1回目のフリー走行に出走したフェルスタッペンは、同じマシンを駆るダニール・クビアトから0.4秒遅れの12番手で初のセッションを終え、翌2015年にカルロス・サインツのチームメイトとして17歳165日での史上最年少F1デビューを果たした。

勝利への飽くなき探究心が生んだ頑固さ

デビュー後、フェルスタッペンは「若すぎる」との批判を黙らせる。開幕オーストラリアで史上最年少出走(17歳165日)を、続く第2戦マレーシアでは7位でチェッカーを受け史上最年少入賞(17歳180日)記録を樹立。F1初年度はFIAルーキー・オブ・ザ・イヤーをはじめとする各賞を総なめにした。

だがその一方で荒っぽい走りも目立ち、一年でペナルティポイントを8点科せられた。「勝ちたいと思う気持ちが強すぎたため、最初の頃はそれが少なからず問題になった」とヘルムート・マルコ。「彼はフリー走行の時でさえ、プッシュしていたんだ。例えば昨年(2018年)のモナコGPでは、3回目のフリー走行でクラッシュを喫していまい、優勝のチャンスを失ってしまった」

「積極的過ぎるアプローチにはマイナス面があったわけだが、彼は苦労と共にこれを学んだ。彼は、勝てるだけのクルマを持ちながらも、愚かな間違いのために全てを失ってしまった事に気付いたのだ。彼は辛抱強くあるべきだと学んだ」

「彼は他人の意見に耳を傾ける人間ではあるものの、時にそれが難しいこともある。だからこそ、議論を通してその意見が正しいと納得させる事が必要だ。だが彼は非常に頑固でもある。ある考えに固執する傾向があるからだ。でも、それが前向きな方向を見据えたものである限り、それは強みになる可能性がある」

「もし意味のある話し合いをすることができるならば、彼は”そうだね、僕が間違っていた”と即座に言わないまでも、いつかはそう口にしてくれるだろう」

フェルスタッペンは更に化ける、とホーナー

先輩株のリカルドがルノーへと移籍し、チームを率いる立場となったフェルスタッペンは、俯瞰的な視点と一貫性を身に着け、前年までとは比べ物にならないほどに飛躍的な成長を遂げた。レッドブル・ホンダのリードドライバーとなった2019年、フェルスタッペンは3回の表彰台を含むキャリア最多タイの9戦連続入賞を達成。フェラーリを抑えてドライバーズチャンピオンで単独3位につけている。

引きべき所で引き、攻めるべき所で徹底的に迫る。そのクレバーなベテランの如き走りは、5シーズン目とは言えどもまだ21歳のドライビングとは信じ難いものがある。グリッド最年長のキミ・ライコネンの年齢に達するまで後18年。クリスチャン・ホーナーは、フェルスタッペンの腕はまだ成長途中だとし、今後更に化ける可能性があると考えている。

「彼はますます強さを増しているし、それにまだかなり若い。私に言わせれば、彼はまだ真のポテンシャルのスタートラインに立ったに過ぎない。経験を積めば積むほど、彼は恐ろしく円熟していく事だろう。フェルスタッペンやシャルル(ルクレール)は、将来を背負って立つ人材だ。二人は今後10年でF1の双璧をなす事になるだろう」