2021年9月11日のF1イタリアGPスプリント予選のスターティンググリッドに着くアルピーヌA521
Courtesy Of Alpine Racing

F1新規参戦、アンドレッティだけじゃない! PU供給「事前合意」を取り付けたもう1つのチーム

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2026年のF1グリッドに着く可能性があるのはアンドレッティ・キャデラック・レーシングだけではない。国際自動車連盟(FIA)の「関心表明プロセス」開始に向けて意欲を示しているもう一つの組織がパンテーラ・チーム・アジア(Panthera Team Asia)だ。

分配金の減少を理由に、既存のF1チームの大部分はグリッドの拡大に否定的なスタンスを貫いてきた。FIAもまた、同じ様に新規参戦チームの受入に消極的な姿勢を見せていたものの、2023年の到来と共に変化が訪れた。

モハメド・ベン・スレイエムFIA会長の号令により、FIAはF1参戦を目指す候補者達に門戸を開いた。それが、参戦に足る組織であるか否かを評価するための「関心表明プロセス」だ。

これに対し、予てよりF1参戦に向けてプロジェクトを進めてきたマイケル・アンドレッティ率いるアンドレッティ・グローバルがGM傘下のキャデラックとの提携を発表。分配金減少を盾とする反対派に対する説得材料を打ち出し、いち早く関心表明プロセスへのエントリーを表明した。

キャデラックXT5クロスオーバーのリアハッチに取り付けられたロゴCourtesy Of General Motors

キャデラックXT5クロスオーバーのリアハッチに取り付けられたロゴ

パンテーラ、PU供給で事前合意

だが、開かれたF1への扉を野心を以て眺めているのはアンドレッティだけではない。

それが、かつてSMPレーシングで取締役社長を務めていたベンジャミン・デュランと仏出身の元レーシングドライバー、ミシェル・オーツによって2019年1月28日に共同設立されたパンテーラ・チーム・アジアだ。

パンテーラは当初、次世代グランドエフェクトカーが導入される予定であった2021年のF1新規参戦に向けてプロジェクトを進めてきたものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックがすべてを奪い去った。

新しい技術レギュレーションの導入は延期され、集めた資金は飛散。進めてきたマシン開発は凍結され、パワーユニット(PU)供給に関してルノーとの間で進めてきた話し合いも頓挫した。

F1新規参戦を目指すパンテーラ・チーム・アジアのロゴcopyright Panthera Team Asia F1 Team

F1新規参戦を目指すパンテーラ・チーム・アジアのロゴ

パンテーラのチーム代表を務めるベンジャミン・デュランはPlanetF1とのインタビューの中で、中止していた計画を再開する用意があることを認め、関心表明プロセスへの申請に対する「準備はできている」と主張。2026年の新規参戦に意欲を示した。

更に、F1マシンに欠かせないPUに関しても既に、既存のサプライヤー、すなわちルノー、フェラーリ、メルセデス、レッドブル(ホンダ)の中のいずれかの1社と「事前合意」を結んでいる事を明かした。

ただ契約を締結しているわけではないため、潜在的なPUサプライヤーとも接触を重ねていると言い、名前こそ出さなかったものの「アジアの幾つかのメーカー」との間でPU供給に関して協議している事を認めた。

噂では韓国のヒョンデ(現代自動車)が2026年以降の次世代PU供給に関心を持っているとされる。

アンドレッティのPUはホンダに非ず?

GMのマーク・ロイス社長が明確に否定しなかったことから、アンドレッティの搭載PUに関しては、燃料電池開発やEVの共同開発において2013年以降、GMとの提携を拡大しているホンダを予想する声も挙がっている。

セルジオ・ペレスの11号車レッドブルRB18のエンジンカバーに復活したホンダのロゴ、2022年10月7日F1日本GP FP1Courtesy Of Red Bull Content Pool

セルジオ・ペレスの11号車レッドブルRB18のエンジンカバーに復活したホンダのロゴ、2022年10月7日F1日本GP FP1

それにはホンダの2026年F1復帰が大前提となるが、現実的なシナリオではないと見る向きが多い。

2021年末のF1撤退と共に電動化領域へと振り返られたリソースを再配置し、組織を再結成しなければならないにも関わらず、ホンダは2026年まで3年しか残されていない今もなお、再参戦を正式表明していない。

無論、表向きには撤退しながら現在もレッドブル及びアルファタウリにPU一式を供給し続けるという摩訶不思議な状況を貫くだけにホンダの考えは計り知れず、最高峰の舞台にカムバックする可能性はゼロではない。

だがそれでもなお、そんな将来不確かなメーカーをアンドレッティとキャデラックが信頼に足るパートナーとして選ぶとは考えにくいというわけだ。

将来的にはさておき、少なくとも現時点でのPU自社開発の可能性はなく、理性的な帰結としては、キャデラックとの提携以前にPU供給に合意していたルノー(アルピーヌ)が唯一の選択肢だと見られている。

カスタマーチームを持たない唯一のPUサプライヤーであるルノーは自社PUの搭載チーム拡大に意欲的だ。

アップグレードされたアルピーヌA522をドライブするフェルナンド・アロンソ、2022年7月1日F1イギリスGPCourtesy Of Alpine Racing

アップグレードされたアルピーヌA522をドライブするフェルナンド・アロンソ、2022年7月1日F1イギリスGP

参戦のタイミングについてアンドレッティは当初、2024年を目指していたが、「関心表明プロセス」の詳細に関しては未だ明らかにされておらず、審査も数ヶ月単位となる見通しであることから、新PU規定が導入される2026年より前に新チームの誕生を期待する事は現実的ではないだろう。

アンドレッティとパンテーラの新規参戦が認められた場合、2026年のF1は全12チーム、計24台へとエントリーが拡大する可能性があるが、それ以上に多くのマシンがグリッドに着く可能性もゼロではない。

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