ホンダ、セナ以来30年ぶり戴冠!衝撃最終周でフェルスタッペン大逆転、角田は殊勲4位 / F1アブダビGP《決勝》結果とダイジェスト
2015年のF1復帰から7年。ホンダが撤退を前にした最終戦で大逆転優勝を果たし、遂に悲願のFIA-F1世界選手権制覇を成し遂げた。
2021年シーズン最終第22戦アブダビGPの決勝が12月12日に行われ、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が最終周にルイス・ハミルトン(メルセデス)を交わして劇的なポール・トゥ・ウインを飾った。
この結果フェルスタッペンは8点差で7度の王者ハミルトンを退け、オランダ人初のF1ワールドチャンピオンに輝いた。ホンダエンジン搭載車両のチャンピオン獲得としては1991年のアイルトン・セナ以来30年ぶりの快挙。
3位表彰台はカルロス・サインツ(フェラーリ)、4位はレッドブルと同じくホンダ製F1パワーユニットを搭載するアルファタウリの角田裕毅という結果となった。日本人ルーキーは過去最高位でデビューイヤーを締め括った。
角田裕毅のチームメイト、ピエール・ガスリーも5位と、アルファタウリ・ホンダは最高の形でシーズンを締め括った。前日の予選で初めて僚友を上回った角田裕毅は決勝でも初めて、隣のガレージのドライバーを上回った。
史上最多22戦のシーズン、決着は最終戦の最終ラップ
ハミルトンの3連勝によって最終戦を前に、両者はドライバーズチャンピオンシップで同一の369.5ポイントで並んだ。シーズンフィナーレを迎えるに際して同点で並ぶのは71年のF1の歴史の中で2度目。激動のタイトル争いはそんな最終レースのファイナルラップで決した。
ポールポジションのフェルスタッペンはスタートの蹴り出しで遅れ1周目に2番手に後退。ラップリーダーに躍り出たハミルトンは終始、圧倒的なペースでライバルを引き離していった。
フェルスタッペンのタイトル獲得が絶望的な状況の中、残り8周でニコラス・ラティフィ(ウィリアムズ)がクラッシュ。セーフティーカー(SC)が導入されると、レッドブル・ホンダは起死回生の逆転を狙ってフェルスタッペンをピットに入れ、ソフトタイヤを履かせた。
トップを走るハミルトンが先行してピットに動く事は現実的ではなく、メルセデスにはステイアウトの選択しか残されていなかった。
事故車両の撤去に時間がかかり、SCランでこのまま規定周回数の58周を消化するかと思われたものの、残り1周でレースが再開に。史上最多22戦に渡ったシーズン最終決着はラスト一周のスプリント勝負となった。
フェルスタッペンは1つ目のバックストレートのブレーキングでハミルトンをオーバーテイク。直後のストレートでポジションを守り切り、2.256秒差でライバルを抑えてトップチェッカーを受けた。
チームメイトの戴冠をサポートすべく、ハミルトンと激しいサイド・バイ・サイドのバトルを繰り広げたセルジオ・ペレスは3番手を走行していたものの、メカニカルトラブルを抱えたようで、SC先導下の55周目にリタイヤした。
もう1台のメルセデスを駆るバルテリ・ボッタスは6位フィニッシュを果たし、メルセデスでの最後のレースを入賞で締め括った。
ペレスのリタイヤによってメルセデスがコンストラクターズ選手権8連覇を飾った。レッドブル・ホンダはチームタイトルを逃した。
中団チームとしては、アルファタウリ・ホンダと並んでアルピーヌとフェラーリがダブル入賞を飾った。
ポディウムに上がったサインツのチームメイト、シャルル・ルクレールは10位に滑り込んだ。アルピーヌ勢はフェルナンド・アロンソが8位、エステバン・オコンが9位に並んだ。
マクラーレンのランド・ノリスは終盤に5番手を走行していたもののスローパンクチャーに見舞われ、追加のピットストップを余儀なくされ7位でフィニッシュした。
ペレスとラティフィを含めて計5台がフィニッシュする事なくレースを終えた。
F1史上最多出走記録を持つキミ・ライコネンは25周目にリタイヤという形で引退レースを終えた。ブレーキトラブルが原因と見られる。来季フォーミュラE転向が決まっているアルファロメオの僚友アントニオ・ジョビナッツィもまた、同じくメカニカルトラブルで36周目にクルマを降りた。
アルファロメオへと移籍するボッタスに代わり、来季メルセデス移籍が決まっているジョージ・ラッセルもライコネンと同じ周にドライブを失いヘルメットを脱いだ。ウィリアムズでのラストランを完走する事は出来なかった。
レース概要
第22戦の舞台、ヤス・マリーナ・サーキットはオーバーテイクを促進すべく最終戦を前にレイアウト改修が行われた。2つのシケインを取り除く等した結果、ラップタイムは10秒以上速くなった。DRSゾーンは全部で2か所に設置された。
前日11日(土)に開催された予選では、フェルスタッペンが「完全に常軌を逸した走り」で衝撃のポールポジションを獲得。ハミルトンを2番グリッドに抑え込んだ。2列目にはノリスとペレスが並んだ。
公式タイヤサプライヤーのピレリは最も柔らかいレンジのC3からC5までのコンパウンドを投入した。
トップ10組ではメルセデス勢と角田裕毅がミディアムを履き、他の7台がソフトを履いた。11・12番グリッドのアロンソとガスリーはハード、タイヤ選択の自由がある11番手以降はミック・シューマッハ(ハース)を除き、全車がミディアムを履いてスタートに向かった。
決勝は日本時間12日(日)22時にブラックアウトを迎え、1周5,281mのコースを58周する事で争われた。現地ヤス島は晴れ、チャンピオンシップポイントを争う決勝のフォーメーションラップは気温24.7℃、路面29.4℃、湿度56.9%、気圧1017.7hPaのドライコンディションで開始された。
注目のオープニングラップでは、フェルスタッペンが蹴り出しで大きく出遅れ、ターン1でハミルトンに先行を許した。逆にペレスはノリスを交わして3番手に。レッドブル・ホンダはハミルトン追撃体制を築いた。
フェルスタッペンは1周目の一本目のバックストレートの終端でハミルトンを交わしたものの、コース外に追いやられる格好となったハミルトンがトップでコースに復帰。一件は調査不要と判断され、ハミルトンが首位を維持した。
ハミルトンはファステストを連発。フェルスタッペンとの差をじわじわと広げていった。9周目を過ぎたあたりでリアタイヤの摩耗に苦しみ始めたフェルスタッペンに対し、レッドブルは早くも14周目にピットに入れ、ハードタイヤに履き替えさせた。完全に後手に回る展開だった。
奇をてらう必要のないメルセデス陣営はその翌周に反応。ハミルトンをピットに入れて同じくハードタイヤに交換した。
先にピットに入って一時的に後退したフェルスタッペンはサインツ追い抜きあぐねた。18周目にようやく3番手に浮上したが、この間に3秒近くを失った。
レッドブルはフェルスタッペンを早々にピットに入れた一方、ハミルトンに対する壁としてペレスをステイアウトさせた。だがすり減ったソフトタイヤを履くペレスに対し、ハミルトンは瞬く間にギャップを縮めていき、早々に射程に捉えた。
ペレスは19周目の一本目のバックストレートで一旦前を許すも、続く直後の二本目のブレーキングで見事な動きを見せポジションを奪還。磨耗したタイヤながらも、手に汗握る激しい、そして実に見事なバトルを繰り広げた。
結果的にこの攻防は一周半で終わりを迎えるが、ペレスの奮闘によってフェルスタッペンはハミルトンとのギャップを一気に5秒も縮める事となった。
中盤にはライコネンとラッセル、そしてジョビナッツィが相次いでリタイヤする場面が続いたものの、追い抜き改善を目的に改修された新生ヤス・マリーナは依然としてオーバーテイクが難しく、コース上のアクションは限られた。
ジョビナッツィのマシン回収のため、36周目にバーチャル・セーフティーカー(VSC)が導入されると、根っからのレース屋であるレッドブルは即座にフェルスタッペンをピットに入れ、再びハードタイヤを履かせた。チームは逆転に向けてやるべき事を躊躇なく決断し続けた。
レースは38周目に再開され、ハミルトンとの20秒ものギャップを縮めるフェルスタッペン最後の戦いが始まった。だがこの日は完全にメルセデスにペースがあり、その差は遅々として縮まってはいかなかった。
逆転は絶望的…そんな雰囲気が漂う中、53周目にシューマッハとサイド・バイ・サイドを繰り広げたラティフィがターン14の壁に激突。SC導入がアナウンスされると、レッドブルは逆転を狙ってフェルスタッペンに再びピットインを指示。ソフトタイヤを履かせた。
コース上に飛散したデブリの量は決して少なくなく、このまま再開されずにレース終了かと思われたが、レースコントールは残り2周というタイミングで、フェルスタッペンとハミルトンの間にいた5台の周回遅れのマシンにのみSCを追い越すようアナウンス。ラスト1周でリスタートを迎えるとフェルスタッペンは渾身のブレーキングでライバルを交わした。劇的な結末だった。
メルセデス、異議申し立てと控訴表明
メルセデスはレース後、2件の異議申し立てを行った。
一件はフェルスタッペンに関するものだった。シルバーアローはF1競技規約第48条8項を理由に、SC先導下でフェルスタッペンがハミルトンを追い抜いたと主張。これに対してスチュワードは、メルセデスのロン・メドウズとアンドリュー・ショヴリン、そしてチームの法律顧問を務めるポール・ハリス、並びにレッドブルのジョナサン・ウィートリーからの聴取を経て異議申し立てを却下。その理由を次のように説明した。
「33号車はごく短時間、少しだけ44号車の前に出たものの、それは両車が加速と制動を繰り返している時に起きた。最終的に33号車は44号車の後ろに戻り、セーフティーカー期間が終了した時には前に出ていなかった」
2件目はSC解除に関するものだった。
メルセデスは第48条12項に対する違反が2つあったと主張した。つまり「周回遅れにされた車両は、リードラップを走行中の車両とセーフティーカーを追い抜く事」とする部分と「周回遅れの最後尾車両が先頭車両を追い越した時点で、セーフティーカーは翌周の終わりにピットに戻る」という部分だ。
メルセデスは、これが守られていればハミルトンがレースに勝っていたと主張し、FIA国際スポーティング・コード第11条9項3.hの規定に基づき、スチュワードにリザルトの修正を要求した。
これについては前述の代表者に加えて、レッドブル・ホンダからクリスチャン・ホーナー 代表とエイドリアン・ニューウェイ、そしてFIAレースディレクターを務めるマイケル・マシが口頭弁論に参加した。
スチュワードは第48条12項が定める状況が完全に満たされていなかった可能性を認めつつも、同時に第48.13条の規定が優先されると指摘した。これはコースクラークの判断により「Safety Car in this lap」のメッセージが送信された後、セーフティーカーの撤収を義務づけるものだ。
メルセデスがファイナルラップの1周前の終わりの時点での順位をリザルトとするよう求めた事についてスチュワードは、この要求は事実上、レースを遡って短縮するものであるとして「適切ではない」と判断。異議申し立てを却下した。
メルセデスはその後、控訴の意思を表明。タイトル争いを法廷に持ち込む構えを見せた。そして3日間の沈黙の後にこれを撤回した。その背景には、マシ並びシングルシーター技術担当責任者を務めるニコラス・トンバジスの退任でFIAと合意に至ったためだとも伝えられている。
2021年F1第22戦アブダビGP決勝リザルト
Pos | No | Driver | Team | Laps | Time | PTS |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 33 | フェルスタッペン | レッドブル | 58 | 1:30:17.345 | 26 |
2 | 44 | ハミルトン | メルセデス | 58 | +2.256s | 18 |
3 | 55 | サインツ | フェラーリ | 58 | +5.173s | 15 |
4 | 22 | 角田裕毅 | アルファタウリ | 58 | +5.692s | 12 |
5 | 10 | ガスリー | アルファタウリ | 58 | +6.531s | 10 |
6 | 77 | ボッタス | メルセデス | 58 | +7.463s | 8 |
7 | 4 | ノリス | マクラーレン | 58 | +59.200s | 6 |
8 | 14 | アロンソ | アルピーヌ | 58 | +61.708s | 4 |
9 | 31 | オコン | アルピーヌ | 58 | +64.026s | 2 |
10 | 16 | ルクレール | フェラーリ | 58 | +66.057s | 1 |
11 | 5 | ベッテル | アストンマーチン | 58 | +67.527s | 0 |
12 | 3 | リカルド | マクラーレン | 57 | +1 lap | 0 |
13 | 18 | ストロール | アストンマーチン | 57 | +1 lap | 0 |
14 | 47 | シューマッハ | ハース | 57 | +1 lap | 0 |
15 | 11 | ペレス | レッドブル | 55 | DNF | 0 |
NC | 6 | ラティフィ | ウィリアムズ | 50 | DNF | 0 |
NC | 99 | ジョビナッツィ | アルファロメオ | 33 | DNF | 0 |
NC | 63 | ラッセル | ウィリアムズ | 26 | DNF | 0 |
NC | 7 | ライコネン | アルファロメオ | 25 | DNF | 0 |
NC | 47 | シューマッハ | ハース | 8 | DNF | 0 |
コンディション
天気 | 晴れ |
---|---|
気温 | 24.7℃ |
路面温度 | 29.4℃ |
セッション概要
グランプリ名 | F1アブダビGP |
---|---|
レース種別 | 決勝 |
レース開始日時 |
サーキット
名称 | ヤス・マリーナ・サーキット |
---|---|
設立 | 2009年 |
全長 | 5281m |
コーナー数 | 21 |
周回方向 | 反時計回り |