
”707mm差”が語る戦略の妙「二段構え」で輝いたレッドブル、敢えて選ばなかったマクラーレン
2025年F1第5戦サウジアラビアGP予選の勝敗を分けたのは、わずか0.010秒──約707mmに過ぎなかった。これは、単なるパフォーマンスの差だけでなく、赤旗中断後の戦略的判断の差が数字となって現れたものだった。
不測の事態に対する迅速かつ的確な判断、チームの決断に対するドライバーの信頼、そしてそれを実現させる完璧なラップ。1秒未満のドラマの背後には、精緻な戦術と大胆な決断があった。
予選Q3中盤、マクラーレンのランド・ノリスが縁石に乗り上げコントロールを失い、ターン5のバリアに衝突。赤旗が提示され、予選が一時中断されたことで、各陣営は戦略の見直しを強いられた。
“GP”から飛んだ2ラップ戦略
レッドブルのマックス・フェルスタッペンは、赤旗が振られた時点で新品ソフトタイヤを履いてコースに出ていたが、まだアタックには入っていなかった。残り時間は8分。通常であれば1回のタイムアタックが妥当なところだった。
しかしながら、レースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼ(通称GP)がフェルスタッペンに伝えたのは、「2ラップ分の燃料を積んで走る」という大胆な戦略だった。
1本目のラップでは、余計に積んだ燃料がパフォーマンスを損ねることになるが、特にジェッダのような僅かなミスが即クラッシュに繋がる市街地サーキットでは、周回を重ねて徐々にタイムを削ることが大きな意味を持つ。
フェルスタッペンはこの“リハーサルラップ”で感覚を掴み、0.001秒差の暫定トップに立つと、最終アタックでコースレコードとなる1分27秒294を叩き出し、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)に塗り替えられた暫定ポールタイムを僅か0.010秒上回り、本人も予想外の今季2度目のポールポジションを獲得した。
”リハーサルラップ”の存在が、フェルスタッペンのゲインを後押ししたことは明らかだった。「少なくとも僕にとっては、クルマとの一体感を掴んで限界まで持っていくという意味で、間違いなく最適なアプローチだった」としてフェルスタッペンは、「正しい判断だった」と評価した。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
ナタリー・ピンカム、ジェイミー・チャドウィック、バーナデット・コリンズ(いずれもSky Sports F1)からインタビューを受けるクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)、2025年4月19日(土) F1サウジアラビアGP予選(ジェッダ市街地コース)
レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーは、この戦略を「リスクを取った決断」と呼び、これを成功させたフェルスタッペンを称賛した。
「Q3でランドがクラッシュした時点で、2セットの新品タイヤを持っていたのは我々とマクラーレン2台、それにジョージ(ラッセル)だけだった。2回走るか、1回で済ませるかの決断を迫られたが、我々はリスクを取って2回走る方を選んだ。残り時間的に、2本やるにはわずか25秒の余裕しかなかった」
「マックスは6〜7kg多く燃料を積んでいたにもかかわらず、1本目のラップで最速タイムを刻んでみせた。あれは本当に印象的だった。結果、あのラップで他のドライバーたちにプレッシャーを与えることができたんだ」
一方で1ラップ戦略を選んだマクラーレン
対するマクラーレン陣営は、2ラップ戦略の可能性も検討しつつ、1回のアタックに絞る判断を下した。ピアストリは赤旗前に唯一タイムを記録していたドライバーであり、リスクを負わずにその“保険”を活かすことを選んだ。
「話し合いはしたよ。でも最終的にはやらないと決めた。すでに1本タイムを出していたから、もう1本無理に出す必要はなかったし、時間的にもかなりギリギリだった」とピアストリは振り返る。
「2ラップ走るなら最初からその分の燃料を積まなきゃいけないし、最初のラップはユーズドタイヤで、しかも重い燃料で走ることになる。その中で何が学べるか、そして何を犠牲にするのかを天秤にかける必要があった」
仮にフェルスタッペンのようにバンカーラップがない状況であれば、異なる判断を下していた可能性もあると認めたうえで、ピアストリは今回の1ラップに絞った判断について「正しい決断だったと思う」と評価した。
結果的に、Q3で2ラップ戦略を採用したのはフェルスタッペンのみ。ギリギリの判断とそれを支える実行力が、0.010秒という僅差の勝利を導いた。市街地コースで繰り広げられたこの戦術戦は、まさにF1の真髄を示すものだった。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
パルクフェルメで互いの健闘を称え合うポールポジションのマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)と2番手のオスカー・ピアストリ(マクラーレン)、2025年4月19日(土) F1サウジアラビアGP予選(ジェッダ市街地コース)
2025年F1サウジアラビアGP予選では、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポールポジションを獲得。2番手にオスカー・ピアストリ(マクラーレン)、3番手にジョージ・ラッセル(メルセデス)が続く結果となった。
決勝レースは日本時間4月20日(日)26時にフォーメーションラップが開始され、1周6175mのジェッダ市街地コースを50周する事でチャンピオンシップを争う。レースの模様はDAZNとフジテレビNEXTで生配信・生中継される。