2022年型と2026年型F1マシンの車体寸法比較 (1)
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解説:2026年F1車体ルール初公表、動的エアロ「X・Yモード」を備えた”軽量俊敏”なマシン

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次世代パワーユニットが導入される2026年にF1は、小型化と軽量化により従来型と比較して30kg軽く、高ダウンフォースの「Zモード」と低ドラッグの「Xモード」という2つの方式を可能にする前後のアクティブエアロを備えた”軽量俊敏”な車体を導入する。

F1の統括機関である国際自動車連盟(FIA)は第9戦カナダGPの開幕を翌日に控えた2024年6月6日(木)、2026年以降に導入されるF1マシンを規定する新たなレギュレーションの概要を初めて発表した。

  • 軽量化:車重30kg減、最低重量768kg
  • 小型化:車幅2000mmから1900mmに削減
  • ダウンフォース30%削減、ドラッグ55%削減
  • 前タイヤ幅を25mm、後タイヤ幅を30mm縮小
  • 前後の可動翼による動的エアロダイナミクス
  • マニュアル・オーバーライド・モード導入
  • ホイール・ウェイク・コントロールボードを採用
  • 部分的にフラットなフロアと低出力のディフューザー
  • 衝撃構造の強化

2026年のF1レギュレーションについて知っておくべき事を主な変更点毎に見ていこう。

小型軽量化による”軽量俊敏”なシャシー

2022年型と2026年型F1マシンの車体寸法比較 (2)copyright FIA

2022年型と2026年型F1マシンの車体寸法比較 (2)

モハメド・ベン・スレイエムFIA会長が「軽量かつ俊敏なクルマ」と呼ぶ次世代のF1マシンは最大フロア幅が150mm短縮されるなど、各寸法が以下のように短縮される。

項目 現行 2026年
最大ホイールベース 3600mm 3400mm
車幅 2000mm 1900mm
最低重量 798kg 768kg

2022年に導入された18インチホイールは維持されるが、グリップの損失を最小限に抑えながらもフロントタイヤの幅は25mm、リアタイヤの幅は30mm短縮される。ピレリのモータースポーツ部門を率いるマリオ・イゾラによると、この変更によりタイヤ4本あたり約5kgの軽量化が見込まれる。

これらにより車体の最低重量は現行車両より30kg軽い768kgに設定された。内訳としては722kgがシャシーとドライバー、46kgがタイヤだ。

過去数回のルール変更、特に2014年に始まったV6ターボハイブリッドエンジン時代以降、車体重量は肥大化の一途を辿っており、コーナリング時の回頭性の低下に繋がっていた。

革新的アクティブエアロを備える空力

接近したレースを促すために、可動式のフロントウィングとリアウィングを含む新しいアクティブ・エアロ・ダイナミクスが導入される。これによりクルマには、最高速最大化モードと、コーナリング性能最大化モードの2つの機能が備えられる事になる。

2026年型F1マシンのレンダリングイメージ (1)copyright FIA

2026年型F1マシンのレンダリングイメージ (1)

Zモード」を展開するとフロントウィングとリアウィングの角度が付き、クルマはより高いコーナリング速度を発揮する事ができる。

Xモード」は前後ウイングのフラップを寝かせてクルマのドラッグを低減するもので、これによりストレートライン速度を最大化する事が可能となる。

手動とする案と自動化するという案の2つが議論されているようだが、いずれにせよ現時点では、3秒を超えるストレートであれば、どこでも利用可能になる見通しとなっている。

フロントウイングは2つのアクティブフラップを備え、幅は100mm狭くなる。リアウイングには3つのアクティブが採用され、下部ビームウイングは削除され、エンドプレートは簡素化される。

2026年型F1マシンの3Dモデリングcopyright FIA

2026年型F1マシンの3Dモデリング

フロント・ホイールアーチは廃止されるが、後続車両の妨げとなるウェイク=後流を最適化するための新たなホイール・ボディワークが採用される。具体的には前輪から発生するウェイクを制御するためのボードがサイドポッドの前面に設置される。

フロアは部分的にフラット化され、ディフューザーの性能も低減される。これによりグランドエフェクトが低下するが、同時に足回りを著しく固め、車高を限界まで下げるようなセットアップに依存する必要がなくなる。つまりバウンシングやポーパシングの問題が緩和される事になる。

ダウンフォースレベルは30%減少するが、ドラッグはこれを上回る55%減が見込まれる。

手動オーバーライドを備えるパワーユニット

世界で最も効率的な現行ハイブリッドエンジンをベースとしつつも、2026年のパワーユニット(PU)は現行型よりも更に多くの電力を生み出し、これを使用する。

ICE(内燃エンジン)の出力は550-560kwから400kwに低下するが、MGU-Hの廃止にも関わらず電動パワーは120kwから350kwへと約300%近くも大幅に増加する。その結果、全体的な性能を維持しつつも、持続可能性を更に向上させる事が可能となる。

ブレーキング時に回生されるエネルギー量は2倍となり、1周あたり8.5MJに増加する。

オーバーテイクの機会を増やすべくマニュアル・オーバーライド・モードが導入される。前走車両は時速290kmに達した後、使用可能な回生エネルギー量が徐々に減少。355kmでゼロになるが、後続車両はMGUKオーバーライドにより、337kmまで350kWと追加の0.5MJのエネルギーを使用する事ができる。

100%持続可能な燃料が導入される。これはホンダやアウディ、レッドブル・パワートレインズとの提携という形でのフォードの参戦を促した。

更なる安全性向上

最初のインパクトの際にサバイバルセル近くで破損し、次の衝撃でクルマが無防備になる事態を回避するために、前面衝撃構造(FIS)に2段階構造が導入される。

ドライバーと燃料電池エリア周辺の保護を強化すべく、側方衝撃構造についても、より厳しい基準が課される。

2026年型F1マシンのレンダリングイメージ (2)copyright FIA

2026年型F1マシンのレンダリングイメージ (2)

ロールフープの荷重は16Gから20Gに増加する。他のシングルシーターに合わせてテスト荷重は141kNから167kNに増加する。

リアウィング・エンドプレートライトはFIA公認スペックとなり、現行仕様よりも遥かに明るくすることで視認性の向上を狙う。側面安全ライトを導入し、コース上で停止したクルマのERS状態を識別できるようにする。

GPSアンテナは将来的なアクティブ・セーフティの導入を視野に感度の改善が図られる。


FIAのF1テクニカル・ワーキンググループ、F1、F1チーム、OEM、およびパワーユニットメーカーと協力して策定された2026年の新しい規定は、6月28日に行われる世界モータースポーツ評議会(WMSC)で正式に承認される見通しだ。

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