待望の日本人F1ドライバー誕生に暗雲…トロ・ロッソとの間にドライバー指名権に関する契約はない、とホンダF1
ホンダのF1プロジェクトを率いる長谷川祐介総責任者は、来季よりタッグを組むトロ・ロッソとの間にはドライバー指名権を含む契約は存在していない、と明らかにした。
2014年を以て小林可夢偉がF1を去って以降、多くのファンはフォーミュラ1の舞台に日本人ドライバーが復活する事を期待している。契約は解消されたものの、ザウバーへのエンジン供給が発表された際には、当時のチーム代表のモニシャ・カルテンボーンが「ホンダからドライバーを引き受ける可能性はある」とかなり前向きな発言をしていた。
ザウバーとの提携が白紙撤回された今、ファンの注目は来季のトロ・ロッソのシートへと移っている。現在レースドライバーを務めているカルロス・サインツは来季ルノーにレンタル移籍を果たす。そのため、トロ・ロッソのシートには空きが生まれると考えられている。
第15戦マレーシアGPでデビューしたピエール・ガスリーの来季トロ・ロッソは確実視されているものの、ガスリーに追いやられる形でマレーシアと日本の両グランプリを欠場しているダニール・クビアトの将来は不確定だ。
ホンダはF1に日本人ドライバーを誕生させるため、”Honda Formula Dream Project”と銘打って、3人の若きレーサーを精力的に育成している。今シーズンのF1ハンガリー公式テストに参加した松下信治、フランスに拠点を移しGP3を戦っている福住仁嶺、FIA F3ヨーロッパ選手権に参戦している牧野任祐の3名だ。
トロ・ロッソのドライバーラインナップについて質問された長谷川は、日本人ドライバーを後押ししたいのはやまやまだが、それに関する契約は結んでいないと説明した。
「ドライバープロジェクトは非常に重要です。ですが、現時点でトロ・ロッソのドライバーラインナップについてお伝えできることは何もありません。更に言えば、それについての契約は結んでいないのです。実際のところ、私たちはお伝えする立場にはないのです」
契約がないとは言え、日本人F1ドライバー誕生の可能性が完全に潰えたわけではない。長谷川は、契約を盾に交渉することはないが、友人としてパートナーとして話し合いを持つことはあると言う。
「もちろん、トロ・ロッソに対して交渉する可能性はありますし、それについて議論したいとも考えています。ですが、それは契約上の問題ではありませんので、友人関係と言うかパートナーとして話し合うような問題なのです」
今の状況でトロ・ロッソに無理やり日本人ドライバーを押し込むのは懸命とは言えない。その理由は2つある。第一に、経験が浅く実力がまだ備わっていないドライバーでは、マシン開発に影響を及ぼしかねない。何よりも重要なのは、まずはホンダが優勝争いに加われるだけの競争力をつける事であり、それを第一優先としてその障害になりそうなリスクを一切切り捨てる事にある。
実際、長谷川は開発ドライバーとしてのフェルナンド・アロンソ、ジェンソン・バトン、ストフェル・バンドーンの能力を「完璧」と評しており、ホンダのF1プロジェクトを前進させていく上で、極めて重要なスキルであると認めている。
第二に、そのドライバーの将来のレースキャリアを台無しにしかねない点が挙げられる。人材配置にはタイミングが重要だ。F1は世界最高峰の4輪モータースポーツであり、半端な実力では太刀打ちできない。早すぎるF1へのデビューは、ドライバーの将来の可能性を潰してしまいかねない。
経験も実力も相応であれば話は別だが、実際問題としては、来季のトロ・ロッソに「日本人だから」という理由だけで若きレーサーを放り込むのは現実的とは言えないだろう。