
2026年F1:リアブレーキが消滅? 次世代規則がもたらす”制動の再定義”と、新たなリスク
2026年に導入される新たな技術レギュレーションは、F1マシンの常識を根底から覆す。その中でも特に過激な変化の一つが、ブレーキシステムの大幅な縮小だ。関係者の間では「リアブレーキはほとんど、あるいは全く使われないかもしれない」とさえ囁かれている。
一体なぜ、安全性の心臓部とも言えるブレーキに、これほど極端な変化が生じるのか。その先に潜む新たな挑戦とリスクに迫る。
なぜブレーキは「不要」になるのか?
鍵を握るのは、2026年型マシンの新たなF1パワーユニット(PU)だ。システム全体の総出力のおよそ50%を電気エネルギーで賄うことが定められており、ハイブリッドシステムの比重が大幅に高まる。
一方で、これまで全開区間で熱エネルギーを回収していた「MGU-H」は廃止される。これによりエネルギー回生は、リアアクスルに搭載される強力な「MGU-K」(モーター・ジェネレーター・ユニット・キネティック)のみが担うことになる。
マシンが減速する際、このMGU-Kが発電機として作動し、バッテリーを充電する。このプロセスで発生する抵抗が「回生ブレーキ」としてリアに強力な制動力を生み出すわけだが、2026年以降は、この効果が飛躍的に増大し、これまでの何倍もの制動力を発揮する可能性がある。
その結果、カーボンディスクとブレーキパッドを使った従来の機械式リアブレーキが担うべき仕事が、劇的に減少するのだ。
「極端なまでに小さい」未来のブレーキ
この変化は、ブレーキ供給メーカーにとっても前代未聞の挑戦だ。ブレンボ社のカスタマー・マネージャー、アンドレア・アルジェーリは、イギリスの専門メディア『The Race』に対し、衝撃的な未来像を語っている。
「リアブレーキに関しては、(チームによって)ディスク寸法の選択が極端だ。直径も厚みも現行とは比べ物にならないほど小さい。つまり、一部のチームはリアブレーキを全く使わない、もしくは限られた場面でのみ使うことを想定しているということだ」
メルセデスのエンジニアリング・ディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンも、「リアアクスルに搭載された巨大な電気モーターが絶大な制動力を生み出すため、ブレーキディスクやキャリパーをより小型化できるのは確かだ」と語る。
ショブリンは、初期段階ではチームごとに設計が大きく異なると見ており、極端な小型化を追求するチームもあれば、安全性を重視した保守的な設計を採るチームもあるだろうと予測する。
アルジェーリはさらに、ブレーキの使用傾向の変化によって、サーキットごとのブレーキ負荷レベルが一変する可能性を示唆した。
「エンジンや回生効率の違いによって、これまで“高負荷”とされていたサーキットが“中程度”になるかもしれない。一方で、“低負荷”とされていたコースが、逆にブレーキに厳しいサーキットに変わる可能性もある」
新たなリスク―もしも「回生」が失われたら?
だが、この変化には新たなリスクも潜む。最大の懸念は、ハイブリッドシステムにトラブルが発生した場合の安全性だ。もしMGU-Kが故障し、強力な回生ブレーキが突然失われたらどうなるのか。
ルール上は、機械式ブレーキ単体で各後輪あたり2500Nmの制動トルクを発生させることが義務付けられている。それでもドライバーは、極端に小型化されたブレーキだけで時速300kmを超えるマシンを制御し、確実に減速させなければならない。
また、回生ブレーキの効き具合が周回ごとに、あるいはコーナーごとに変化した場合、ドライバーは前後のブレーキバランスを常に調整し続けるという、神業のようなドライビングを要求される可能性もある。
ドライバーとエンジニアの新たな挑戦
ブレーキングの概念そのものが変わる可能性もある。マシンバランスやコーナー進入時の挙動の変化により、ドライバーは全く新しいブレーキング手法を確立しなければならないかもしれない。
一方でエンジニアたちは、エネルギー回生による電気的ブレーキと機械的ブレーキの最適な配分を見極め、安定性とパフォーマンスを最大化する必要がある。
ブレーキ革命は新たなオーバーテイクのチャンスを生むのか、それとも予測不能な波乱を招くのか――来年1月のバルセロナテストまで残りわずか4ヶ月。この新しい技術がどのように機能するのか、注目される。