持続可能燃料の導入でF1チームが財政危機? 1リッター4万円超の懸念も―2026年新コスト問題が浮上

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英専門メディア『The Race』によると、2026年からF1に導入される「100%持続可能な燃料」のコストが、現在の10倍以上に跳ね上がる可能性があるという。匿名のチーム代表が「ばかげている」と評するほど価格上昇の幅は大きく、チームの財政に影響を及ぼしかねないとの懸念が広がっているとされる。

国際自動車連盟(FIA)とF1は、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの一環として、来季より「100%持続可能な燃料」(Advanced Sustainable Fuel=AS燃料)の使用を義務付ける。この燃料は、環境負荷の低減と技術革新の両立を掲げるF1の戦略の中心に位置づけられている。

燃料価格は1リットルあたり300ドル超に?

だが、ジュネーブで開かれたF1コミッションの会合において、持続可能燃料の開発費がチームの想定を大きく上回っていることが明らかになったという。現行の燃料価格が1リットルあたり22〜33ドルであるのに対し、持続可能燃料は170〜225ドルに達すると予測されており、将来的には300ドル(約43,190円)超に達する可能性もあると伝えられている。

仮に、この最悪シナリオが現実化すれば、各チームの週末あたりの燃料コストは8万〜10万ドル(約1,150万〜1,450万円)、1シーズン24戦とすると年間最大240万ドル(約3.5億円)に膨らむ計算だ。

メルセデスのチーム代表トト・ウォルフはマイアミで、「コストが跳ね上がっているのは、サプライチェーン全体とエネルギー供給のすべてが環境負荷の少ないものである必要があるため」との認識を示し、コスト削減に向けて「調整できる点があるかどうか検討する必要がある」と語った。

2026年はコストキャップの対象外も、影響は大きく

2026年シーズンに関しては、財務規則により燃料費が予算制限の対象外とされているため、直接的にコストキャップ違反につながる恐れはない。だが、予算枠外の出費であるとはいえ、特に中堅以下のチームにとっては無視できない負担であり、財政圧迫の原因となり得る。

とりわけ、燃料メーカーとの公式パートナー契約を結んでいないチームは、割高な条件を受け入れざるを得ない可能性があり、燃料コストの増加によって予算が圧迫されることで、チーム間の格差がさらに拡大する恐れもある。

FIAとチーム、2027年以降の対応策を協議

2026年に向けた変更は行われない見通しだが、FIAはこの状況を真剣に受け止めており、2027年以降を見据え、各チームと対応策に関する協議を開始したと伝えられている。

現時点での構想の一つとしては、「一部の燃料成分を標準化し、他の部分でのみ開発を許可する」方式が検討されているという。これには、コストの抑制と競争の公平性の両立を図る意図があるものと見られる。

燃料コストを巡る議論について、レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーはマイアミで、パワーユニット・サプライヤーの1社からこの問題が提起されたことを明かし、潤沢な予算を有するレッドブルにとっては「そこまで大きな問題ではない」としながらも、「将来的には一定の価格帯の枠を設けるべきかもしれない」との見解を示した。

F1は”環境技術のショーケース”として世界の注目を集める一方、技術革新と運営現実のはざまで常にバランスを模索している。理想とするカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みもまた、コストという現実的課題に直面しているようだ。

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