角田裕毅(レーシング・ブルズ)とリアム・ローソン(レッドブル)、2025年F1オーストラリアGP
Courtesy Of Red Bull Content Pool

角田裕毅、昇格再考の可能性とローソン起用の是非―開幕戦を経て早くもレッドブルの決断に疑問の声

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2025年のF1シーズンに向けてレッドブルは、リアム・ローソンを昇格させ、角田裕毅をレーシング・ブルズに留める決断を下した。しかし、開幕オーストラリアGPの結果を受け、この判断に対する疑問の声が上がっている。

レッドブルは昨シーズンの終盤、セルジオ・ペレスの後任として、角田とローソンのどちらを昇格させるかを慎重に検討した。次々と入れ替わるチームメイトの全てに打ち勝つなど、角田の純粋なスピードは高く評価されていたが、ローソンの「精神的な強さ」と「将来的なポテンシャル」が重視された。

ローソン、試練の初陣―その評価

オーストラリアGPはローソンにとって厳しいデビュー戦となった。予選では18番手でQ1敗退を喫し、決勝では雨が強まる中、スリックタイヤのまま走行を続けた結果、スピンしてリタイア。チームメイトのマックス・フェルスタッペンが2位表彰台を獲得した一方、ローソンはノーポイントに終わった。

この状況は、昨季のペレスが直面していた苦境を彷彿とさせるに十分なものだった。

イギリスの「PlanetF1」によると、レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコは、「彼は自分の力を証明したがったが、残念ながらそれが裏目に出た。今は彼を少し落ち着かせ、最初の3~5戦の間でどのように成長するかを見守る必要がある」と語り、現時点での評価は時期尚早であるとの見解を示した。

一方、チーム代表クリスチャン・ホーナーは、開幕戦のレース結果はローソンの実力を正確に反映しているわけではないと擁護した。

「彼にとって厳しい週末だった。クルマのダウンフォースを増やしたが、ここはオーバーテイクが難しいコースだ」と説明。「ポイント圏外だったため、スリックのまま走行を続けさせたが、その瞬間に雨が強まり始めた。だからスピンの原因を彼だけに求めるべきではない」と続けた。

フォーメーションラップを前にピットレーンを走行するリアム・ローソン(レッドブル・レーシング)のRB21とオリバー・ベアマン(ハース)のVF-25、2025年3月16日(日) F1オーストラリアGP決勝(アルバート・パーク・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

フォーメーションラップを前にピットレーンを走行するリアム・ローソン(レッドブル・レーシング)のRB21とオリバー・ベアマン(ハース)のVF-25、2025年3月16日(日) F1オーストラリアGP決勝(アルバート・パーク・サーキット)

目立たぬレースではあったものの、ローソンの速さが垣間見えた場面もあった。

ホーナーは、「ドライタイヤで走っていた時、彼は全体で2番目に速い1分22秒9を記録した。マックスのベストが1分23秒0、ランド(ノリス)が1分22秒1だったことを考えると、少なくともドライコンディションでは彼のペースは悪くなかった」と指摘した。

ローソン昇格の判断は正しかったのか?

ローソンとは対照的に、角田は57周のレースうち44周目まで完璧な週末を送っていた。予選ではフェラーリ勢を退け5番手を獲得し、決勝でもトップ6圏内を走行。しかし、雨が降り始めた直後にシャルル・ルクレールを抜いて5番手に浮上した矢先、すべてが崩れた。

45周目のターン12でグラベルに足を取られスライドし、ピエール・ガスリーとフェラーリ勢にポジションを奪われた。レーシング・ブルズが47周目までスリックタイヤのまま走らせたため、ピット後は11番手でコースに復帰。最終的にオスカー・ピアストリにも抜かれ、12位でレースを終えた。チームのローラン・メキーズ代表は、戦略を誤ったとして角田に謝罪した。

角田裕毅がドライブするレーシング・ブルズVCARB 02とリアム・ローソンがドライブするレッドブルRB21、2025年3月16日F1オーストラリアGP決勝レース(アルバート・パーク・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

角田裕毅がドライブするレーシング・ブルズVCARB 02とリアム・ローソンがドライブするレッドブルRB21、2025年3月16日F1オーストラリアGP決勝レース(アルバート・パーク・サーキット)

開幕戦の結果を受け、角田を昇格させるべきだったという意見が高まっている。マクラーレンのザク・ブラウンCEOは予選後、イギリスの「Sky Sports」に対して次のように述べ、角田こそがレッドブルのシートに相応しいドライバーだと主張した。

「今年は本当にエキサイティングな年になりそうだ。ユーキは素晴らしい仕事をした。彼のパフォーマンスを見れば、本来レッドブルに乗るべきドライバーは彼だろう。だが、彼らは時々、奇妙なドライバー選択をするようだね」

しかし、開幕戦でのローソンの苦戦にはドライバーのコントロール下にない要因があった。

ローソンにとって、アルバート・パーク・サーキットを走行するのは今回が初めてであったが、ターボの問題によりFP3を走行できず、予選を前にしたセットアップ調整の機会を失った。

これは同時に、シングルラップにおける最善のタイヤマネジメントを追求する機会が失われたことも意味する。

実際、予選では1ラップを通したタイヤマネジメントが大きなカギを握った。フェルスタッペンですら、最終セクターまでにリアタイヤのグリップを失い、完璧なラップをまとめ上げることができなかった。ローソンに至っては、半周すらリアタイヤを持たせることができていなかった。

角田との途中交代の可能性

ローソンのレッドブルでのデビュー戦は理想的なものではなかったが、彼だけに責任を負わせるのは早計だろう。マルコは、少なくとも「最初の3~5戦」は様子を見るべきだとし、今後のレースでの適応が鍵になるとしている。

一方で、角田が今後も安定した好パフォーマンスを発揮し続け、ローソンが予選・決勝ともに安定せず、ポイント圏内で戦えない状況が続いた場合、シーズン途中での交代が検討される可能性は否めない。

ローソンは次戦中国GPが開催される上海インターナショナル・サーキットも走行経験がなく、今後のレースでも初めてのコースが続く。第10戦までの間で、彼が過去にレースを経験しているのは 第3戦日本GP(鈴鹿)、第4戦バーレーンGP、第7戦エミリア・ロマーニャGP(イモラ)、第8戦モナコGP、第9戦スペインGP(バルセロナ) のみだ。

マルコの言う「最初の3~5戦」が開幕戦から数えたものなのか、それともローソンが走行経験を持つコースを基準にしているのかは明確ではない。しかし、後者であればイモラ(第7戦)やスペイン(第9戦)が一つの区切りとなる可能性がある。

ファンと交流するリアム・ローソン(レッドブル・レーシング)、2025年3月13日(木) F1オーストラリアGPプレビュー(アルバート・パーク・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ファンと交流するリアム・ローソン(レッドブル・レーシング)、2025年3月13日(木) F1オーストラリアGPプレビュー(アルバート・パーク・サーキット)

ローソンの評価時期は、チャンピオンシップ争いの状況にも左右されるだろう。

開幕戦を終えた時点で、レッドブルはコンストラクターズランキング3位。首位のマクラーレンおよび2位のメルセデスとは9点差がある。ドライバーズランキングでは、マックス・フェルスタッペンが首位ランド・ノリスから7点差の2位につけている。

仮に第2戦以降、レッドブルが急速に競争力を向上させ、チャンピオンシップをリードするようになれば、ローソンに与えられる猶予期間は伸びるだろう。しかし、現時点でRB21のポテンシャルはライバルに劣っており、早くとも第4戦バーレーンGPと予想されるアップグレードなくして、状況が劇的に変わる可能性は低い。

一方で、レッドブルが実際に、シーズン途中にドライバー交代を行うかどうかは不透明だ。昨年、マルコはシーズン前半の段階からペレスの交代を強く主張していたが、ホーナーは最終戦までペレスを続投させた。

ペレスの不振によりコンストラクターズ選手権争いで苦戦する状況に直面しながらも、チームは途中交代を決断しなかった。この前例を踏まえるならば、ローソンの評価も慎重に進められる可能性が高い。

レッドブル昇格、活躍するほど遠のく?

フリー走行前にステージ上に登壇するレーシング・ブルズの角田裕毅とアイザック・ハジャー、2025年3月14日(金) F1オーストラリアGPフリー走行(アルバート・パーク・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

フリー走行前にステージ上に登壇するレーシング・ブルズの角田裕毅とアイザック・ハジャー、2025年3月14日(金) F1オーストラリアGPフリー走行(アルバート・パーク・サーキット)

さらに、今シーズン末で契約が切れる角田にとって、2026年シーズンに向けて他チームから魅力的なオファーがあった場合、レッドブルの動向を待たずに早急に決断を下す必要があるともいえる。

レッドブル系2チームを除き、現時点で2026年に空席が見込まれるシートは、新規参戦のキャデラックを含めても事実上3つしか残されておらず、チャンスを逃せば今季限りでF1を去らなければならなくなる恐れがある。

つまり皮肉なことに、角田が今季、レッドブル昇格に相応しいパフォーマンスを示せば示すほど、他チームからの関心が高まり、逆にレッドブルの決断を待つことがリスクとなる可能性があるということだ。

今後の成績次第では、角田自身がレッドブルの決定を待たずに、自らのキャリアを優先し、新天地を求めるという選択肢を取ることも十分に考えられる。

ローソンが順応し、レッドブルにふさわしい走りを見せるか、それとも角田の昇格が再考されることになるのか。特にローソンの今後のパフォーマンス次第で議論が続きそうだ。

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