
権力闘争に終止符か―アウディF1に激震、ビノットをCOO兼CTOに任命…ザウバー首脳2名を解任
アウディは2024年7月23日(火)、ザウバー・グループの取締役会会長を務めていたオリバー・ホフマンと、CEOを務めていたアンドレアス・ザイドルをF1プロジェクトから解任し、元フェラーリ代表のマッティア・ビノットをザウバーの最高執行責任者(COO)兼最高技術責任者(CTO)に任命した。
突如断行されたトップ人事の全面刷新
大規模な経営陣刷新の理由についてアウディは、2026年のワークス参戦に向けた「ファクトリーチームの統制構造再編の一環」であると説明している。アウディのCEOであり、ザウバーの取締役会会長に就任することが発表されたゲルノート・デルナーは、次のように補足した。
「明確な経営構造と責任分担、意思伝達の簡素化、そして効率的な意思決定プロセスによって、F1プロジェクト全体をF1水準のスピードに引き上げることが目標だ。そのためには、チームが独立して迅速に行動できる必要がある」
Courtesy Of AUDI
アウディ傘下のザウバー・モータースポーツAGの最高執行責任者兼最高技術責任者に就任したマッティア・ビノット、2024年7月23日
低迷する成績と外部評価の冷たさ
アウディが買収したザウバーのコース上でのパフォーマンスは、現時点では十分な水準に達していない。バルテリ・ボッタスと周冠宇を擁するスイス・ヒンウィルのチームは、今季開幕13戦を終えて唯一のノーポイントチームとなり、コンストラクターズ選手権最下位に沈んでいる。
現在の競争力のみならず、中長期的な見通しに対する外部評価も厳しい。ドライバーマーケットで高い評価を受けるカルロス・サインツ(フェラーリ)は、少なくともアウディからの長期ワークスオファーに即答せず、ウィリアムズやアルピーヌといった他の選択肢を検討しているとされる。
浮上した「権力闘争」説
こうした状況からプロジェクトが暗礁に乗り上げている可能性は否定できないが、ドイツ国内の報道によれば、今回の再編の背景にはF1プロジェクト内部での「権力闘争」があったとされる。
マクラーレンのかつてのチーム代表ザイドルは、「2026年に向けたアウディのワークスF1プロジェクト」の旗振り役として2023年にザウバーへ加入した人物であり、現時点のコース上の成績について直接的な責任を負う立場ではなかったと見る向きも多い。
だが今年3月、アウディがザウバーを完全買収し、ホフマンがプロジェクト全体を束ねる「総代表」に就任したことで、状況に変化が生じた。
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アウディF1チームの最高経営責任者(CEO)に就任するアドレアス・ザイドル
ホフマンは本来、プロジェクト全体の監督を担う立場にあったが、腹心とされるユリウス・ゼーバッハ(アウディ・スポーツGmbHマネージング・ディレクター)とともに、ザイドルの管轄であった実務レベルの運営にも関与したと伝えられている。その結果、人事やインフラ整備といった重要な意思決定が停滞し、本国が事態収拾に乗り出したという。
興味深いのは、アウディがザイドルとホフマンのいずれの肩を持つわけでもなく、両名を解任したことだろう。また、問題を受けての決断の速さも印象的だ。いずれにせよアウディが、大規模な軌道修正が早期に必要だと判断したことに疑いはない。それだけ現在の進捗と課題を問題視していたのだろう。
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アウディAG技術開発担当取締役オリバー・ホフマン
ビノット体制は「完成形」ではない
フェラーリとアウディはいずれも、F1の本拠地であるイギリス以外に拠点を置き、シャシーとパワーユニットを内製化する大手自動車メーカーのワークスチームという共通点を持つ。その意味で、スクーデリア一筋でキャリアを築いてきたビノットの登用は、理にかなった選択とも言える。
一方で、COOとCTOという二つの重責をどこまで一人で担えるのかは未知数だ。これは、レッドブルでクリスチャン・ホーナー代表がピエール・ワシェの役割まで兼任するような負荷に近い。ビノットを支える新たな人事が近く発表されるのではないか、との見方も強い。
独Auto Motor und Sportは、現在アストンマーチンのチーム代表を務めるマイク・クラックが、将来的にアウディに加わる可能性を報じている。
また、テクニカル・ディレクターであるジェームス・キーの去就も注目点だ。キーはマクラーレン時代の上司であるザイドルの招きで2023年9月にザウバーへ加わったが、在籍11か月時点で決定的な成果を残したとは言い難い。
25年以上にわたるF1での経験を持つエンジニア兼マネージャー、ビノットは、2024年8月1日付で正式にザウバーに合流する。アウディF1プロジェクトは、ようやく「仕切り直し」のフェーズへと入ったと言えそうだ。