ピットウォールに掲げられたエイドリアン・ニューウェイ(レッドブル・レーシング 最高技術責任者)のネームプレート、2021年10月9日(土) F1トルコGP(インターシティ・イスタンブール・パーク)
Courtesy Of Red Bull Content Pool

稀代の空力家エイドリアン・ニューウェイ、CADではなく手書きの製図板を使い続ける理由

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CAD(コンピューター支援設計)が一般的となった現在においてもなお、空力の鬼才と名高いエイドリアン・ニューウェイは長年に渡るF1でのキャリアを通じて伝統的な製図板を使い続けている。

史上最も支配的な強さを記録したレッドブルの2023年型F1マシン「RB19」を含めてニューウェイは、過去35年間に渡って12台のコンストラクターズ・チャンピオンマシンを世に生み出してきた。その全ては手書きによるものだが、そんなエンジニアは彼しかいない。

製図板に向かうレッドブルのエイドリアン・ニューウェイ、2020年イギリス・ミルトンキーンズのレッドブル・レーシングのファクトリーにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

製図板に向かうレッドブルのエイドリアン・ニューウェイ、2020年イギリス・ミルトンキーンズのレッドブル・レーシングのファクトリーにて

1980年代から1990年代にかけてF1には新しい設計テクノロジーが導入された。設計作業の大幅な効率化をもたらすCADが普及し、風洞試験をコンピューター上でシミュレートする数値流体力学(CFD)が空力設計に変革をもたらした。

それでもニューウェイの設計スタンスは変わず、今もなお自らの脳裏に浮かんだアイデアを紙の上に2次元として書き起こす。それはCADを軽視しているからではなく、単に鉛筆の方が肌に合うからだという。

F1公式サイトとのインタビューの中でニューウェイは「私は時代遅れの人間だからね。その方が合っているんだ」と説明する。

「CADにしろ製図板にしろ、頭の中にあるアイデアを開発可能な媒体に落とし込むための手段に過ぎない」

「もちろん今では、空気力学なことであれば数値流体力学、つまりコンピューター上の空気力学を参照する。これは驚くべきツールだ。F1においては90年代後半になるまで実用可能なレベルに達していなかった」

「私はCFDを見て、そこから幾つかのアイデアをスケッチして形を起こす。もちろん、同僚の力を借りてね」

「今でも製図板を使っているのは、それが私にとって最も快適で、最も流暢に使える言語だからだ」

「CADを使っても手書きほど流暢には操れず、その操作に多くの時間を費やしてしまい、自然に描くことができないだろう。描く作業は無意識レベルで行われるべきだ。少なくとも私にとってはそうだ」

「F1でCADが本格的に使われ始めたのは90年代初めから半ばにかけての事だった。当時のCADはかなり機械的で、作業的にかなり大変だった」

「もちろん今では技術の発展に伴い、習熟していれば私が手書きで行っているように、無意識のうちに描くことができる。彼ら(CADを使うデザイナー)は何も、(手書きで)図面を描く事を手間だと思っているわけではない」

ガレージでノートを取るエイドリアン・ニューウェイ(レッドブル・レーシング 最高技術責任者)、2020年11月13日(金) F1トルコGP(インターシティ・イスタンブール・パーク)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ガレージでノートを取るエイドリアン・ニューウェイ(レッドブル・レーシング 最高技術責任者)、2020年11月13日(金) F1トルコGP(インターシティ・イスタンブール・パーク)

CADはデザイナーに対し、2次元を経ずに直接3次元で作業を開始できるという利点を与えるが、ニューウェイはそのメリットを認識しているものの、彼の才能はそれを必要としていない。

CADを主体とした設計アプローチについてニューウェイは「私にとっては重要ではない」として、製図板から移行する意思がない事を強調したうえで「私は何かを3Dとして視覚化し、それを2Dとして紙の上に描くという能力に長けているようだ」と付け加えた。