フランツ・トスト、平静を装うも隠れて感涙? 角田裕毅の”餞別リード”に注目するヒルとデ・ラ・ロサ
角田裕毅がアブダビGPで刻んだリードラップは、アルファタウリのフランツ・トスト代表にとって人知れず涙するような「最高の餞別」になった…古くから彼を知る者たちはそう考えている。
58周のレースの17周目、見事なタイヤマネジメントで第1スティントを引き伸ばした角田裕毅は20台の先頭に浮上し、18周目から22周目までの5ラップをリード。今季ベストタイの8位でシーズンを締め括った。
ラストレースを迎える恩師トストのために何としても良い走りがしたい…角田裕毅は並々ならぬ想いを以てこの1戦に臨んだ。そんな中で記録された佐藤琢磨に続く日本人ドライバーとしての2人目のリードラップは日本のみならず海外でも注目を集めた。
1996年のF1ワールドチャンピオン、デイモン・ヒルはレース後のヤス・マリーナ・サーキットのパドックで「レース中にも話していたんだ。今頃日本は飛んだり跳ねたりの大騒ぎだろうってね」と振り返った。
「長く続く事はないと分かっていたとしても、母国のドライバーがF1のレースをリードする姿を見るのは彼らにとってあまりにもスリリングなことだったはずだ」
1999年から2012年にかけてF1で活躍したペドロ・デ・ラ・ロサは、この日最も活躍したドライバーの一人は角田裕毅であるとして「フェルナンド(アロンソ)とレースの序盤に争いながらも、ペースとタイヤをマネジメントして1ストップ戦略をやり遂げた。本当に、本当に印象的な走りだった」と付け加えた。
デ・ラ・ロサとヒルは共に、トロ・ロッソのF1チーム代表に就任する以前からトストを知る間柄だ。
トストはフォーミュラ・ニッポンに参戦するラルフ・シューマッハのマネージャーとして1996年に渡日した。同じシリーズのライバルであったデ・ラ・ロサは当時、トストと共に夜の東京に繰り出したりするなど親交を深めた。またヒルはジョーダン時代にラルフとチームメイト関係にあった。
ヒルが「フランツにとって最高の贈り物になったと思う。涙を浮かべるだろうね」と意見すると、デ・ラ・ロサは「彼は頑固な男だから、もし泣くとすれば誰もいないオフィスでだろうけどね。彼は酷く平然としているように振る舞うけど、実際はそうじゃないって誰もが知っている」と続けた。
F1ジャーナリストのトム・クラークソンはチームから聞いた話として、トストは実際の振る舞いよりも「遥かに感情的」になっていたと伝え、「彼は自分のところの若いドライバーの成功を心から望んでいるんだ」と続けた。
現役時代に5つのF1チームを渡り歩いたデ・ラ・ロサはトストについて「一つ言えるのは、フランツほど一生懸命に働くひとは見たことがないってことだ」と付け加えた。
「彼はアルファタウリというチームの舵を取る事に人生の全てを捧げてきた。彼は去ることになるけど、彼の人生はそこにあった。F3でもそうだったし、F3000の時も同じだった。彼はいつだって本当に、本当に献身的だった」
「以前、ヘルシンキの空港のトイレでばったり会った事があるんだ。ちょうど隣同士でね。でも彼は次のレースのセットアップについて考えていて、僕に全然気づかなかったんだ。フランツはそういう人なんだ」