スクーデリア・トロ・ロッソのガレージに置かれたピエール・ガスリーの10号車STR13のエンジンカバーに掲載されたホンダのロゴ、2018年2月27日(火) F1プレシーズンテスト2日目(カタロニア・サーキット)​​
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ホンダとのF1提携「完全に頭がおかしい」トストが明かす舞台裏、成功確信の理由とBMWとの共通点

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当時「スクーデリア・トロロッソ」を名乗っていたイタリアのチーム(現アルファタウリ)とホンダがパートナーシップを発表したのは2017年9月15日、シンガポールGPの初日金曜の事だった。

ホンダは同年末限りでのマクラーレンとの離別並びに、レッドブル・レーシングの姉妹チームとの3年契約を発表した。これはパドックの一部で驚きを以て迎え入れられた。

ホンダの山本雅史モータースポーツ部長、フランツ・トスト代表(トロ・ロッソ)、森山克英執行役員ブランド・コミュニケーション本部長、2017年9月15日(金)F1シンガポールGPのFIA公式記者会見にてCourtesy Of Red Bull Content Pool

ホンダの山本雅史モータースポーツ部長、フランツ・トスト代表(トロ・ロッソ)、森山克英執行役員ブランド・コミュニケーション本部長、2017年9月15日(金)F1シンガポールGPのFIA公式記者会見にて

当時のホンダ製F1パワーユニット(PU)は、競争力だけでなく信頼性にも大きな問題を抱えていた。

ホンダは2017年型「RA617H」で従来の「サイズゼロ」コンセプトを見直し、Vバンク内に収められていたコンプレッサーとターボをエンジン前後に再配置するなどPUを刷新した。

この意欲作がフェルナンド・アロンソとストフェル・バンドーンにもたらしたのは、最高位6位と計30ポイント、そして9回のリタイヤだった。トロ・ロッソがホンダとの提携を発表したのは、こうしたシーズンの最中の事だった。

トストはチーム代表として臨むアブダビでのラストレースを前に公開されたポッドキャスト「Beyond The Grid」の中で、ホンダとの新たな挑戦が始まる前夜、2017年の12月6日にトラファルガー広場で行われたF1公式イベント「ライブ・ロンドン」での出来事を振り返って次のように語った。

「何人かのマクラーレンの関係者がいて『フランツ、君は完全に頭がおかしい。来年ホンダと一緒に仕事をするのか?』と言われたんだ。そこで私は彼らにこう言った。『諸君、これについては5年後に話をしよう』とね」

ホンダとのF1パワーユニット契約についてトストは以前にも、ライバルチームから「完全に頭がおかしい」と言われた事を明かしているが、それが誰なのかは不明だった。

2015年の復帰当初にホンダのF1プロジェクトを率いていた新井康久氏は、1年を経て技術畑の長谷川祐介氏にその役割を引き継いだ。そしてその長谷川氏はトロ・ロッソとの初年度を前に退任。以降は田辺豊治テクニカル・ディレクターと山本雅史マネージング・ディレクターが表に立った。

新生トロ・ロッソ・ホンダはタッグ結成の2戦目、ピエール・ガスリーの4位入賞によって第4期活動における最高位を更新した。そしてホンダは翌年以降、レッドブルにもPU一式を供給し、撤退前のラストレースとなった2021年の最終アブダビGPでマックス・フェルスタッペンと共にチャンピオンシップを勝ち取った。

マクラーレンとの「5年後」の会話はどのようなものだったのだろうか? トストは「その機会は訪れなかった。なぜなら彼らは5年後にはもう、マクラーレンにいなかったからだ」と語った。

実際にパートナーシップを組み、内情を知っていたマクラーレンの関係者から冷笑されてなお、ホンダが成功するとのトストの確信は揺るがなかった。

「私にとってホンダのカムバックは疑いない事だった。そしてそれは私にとってもチームにとっても最大の一歩となった」とトストは語る。

「ホンダとは本当に良好で緊密な協力関係を築いた。そして2019年、レッドブルもホンダエンジンを搭載した。その後は誰もが知るところだ」

サーキット・オブ・ジ・アメリカズでカルロス・サインツ(マクラーレン)をリードするピエール・ガスリー(トロ・ロッソ)、2019年11月3日(日) F1アメリカGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

サーキット・オブ・ジ・アメリカズでカルロス・サインツ(マクラーレン)をリードするピエール・ガスリー(トロ・ロッソ)、2019年11月3日(日) F1アメリカGP

何がトストを確信させたのか?

「私は日本に1年間住んでいた事がある。それにHRD Sakuraを知っていた。2014年にそこへ行ったんだ。彼らが新しいエンジンに取り組んでいた際にね」とトストは振り返る。

「当時、モータースポーツのボスだった新井さんに、マクラーレンと何マイルのテストをしたのかを尋ねたんだ」

「すると彼は私を見て『何もしていない』と言うんだ。私が『いやいやいや、半年後にはシーズンが始まるぞ』と返すと、来週にはダイノテストが始まると言うんだ」

「これには驚いた。ダイノに載せられたエンジンは何処にも見当たらなかったからだ。だから私は『荒井さん、1年延期しよう。チャンスはない』と伝えた。彼は私に少し腹を立てていた」

「何人か知っている人たちがそこにはいたし、彼らはやり遂げるだろうと私は確信していた。何故か?」

「何が問題だったかというと単に時間が足りなかっただけなんだ。ヨーロッパの他のメーカーと同じように、彼らはこのプロジェクトを過小評価していた。私にとってマクラーレンでの出来事は自明の事だった。上手くいくとは思えなかった。絶対に無理だった」

「そして我々は毎年、話をした。そして私は自分に言い聞かせた。『いや、もう1年待とう。彼らは何かを学ぶはずだ。彼らがある程度のレベルに達したタイミングで一緒に仕事をしよう』とね。これが実現したのが2018年だった」

フランツ・トスト代表(スクーデリア・トロ・ロッソ)ホンダの田辺豊治テクニカル・ディレクターと山本雅史マネージング・ディレクター、2018年10月6日(土) F1日本GP予選後の鈴鹿サーキットにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

フランツ・トスト代表(スクーデリア・トロ・ロッソ)ホンダの田辺豊治テクニカル・ディレクターと山本雅史マネージング・ディレクター、2018年10月6日(土) F1日本GP予選後の鈴鹿サーキットにて

トストはトロ・ロッソのチーム代表を務める前、フォーミュラ・ニッポンに参戦するラルフ・シューマッハのマネージャーとして渡日。ジョーダンでのF1デビューを経てラルフがウィリアムズに移ると、そのウィリアムズと組んだBMWのF1プログラムのオペレーション・マネージャーを務めた。

ホンダとBMWのF1への取り組みを比較するよう求められるとトストは「コミットメントという点で両者は変わらなかった」と語った。

「BMWがF1から撤退したのは残念だった。なぜならBMWも本当に優秀なエンジニアを抱えていたからだ。当時、BMWのエンジンは群を抜いて素晴らしかった」

「ホンダもアプローチという点で似た部分があった。メンバーは本当に高いモチベーションに溢れていてF1に目のない人たちだった。その場にいるとそれを見て、感じる事ができる。最終的に彼らが大いに成功したのはそれが理由だ」