帰ってきたヒュルケンベルグ「今は甘え合ったり…」4年の歳月がもたらした変化、復帰の決定要因はベッテルの一件
4年ぶりのF1フルタイム復帰の初戦となった2023年のバーレーンGPはノーポイントに終わったものの、チームメイトのケビン・マグヌッセンがQ1落ちを喫する中、ニコ・ヒュルケンベルグは予選Q3に駒を進める輝きを見せた。
35歳のドイツ人ドライバーは2010年にウィリアムズでF1デビューを果たし、その年のブラジルでは驚きのポールポジションを獲得。鮮烈なデビューを飾った。ただその後、フォース・インディア、ザウバー、ルノーでキャリアを積み重ねたが表彰台には上がれず、2019年末を以てシートを失った。
現役を離れてから復帰するまでの4年間、F1への想いは時々によって異なっていた。シートを喪失した直後は距離を置きたいと感じたものの、「ガレージから出て行くドライバーを見守るのが辛くなった」時期もあったという。
一児の父、マグヌッセンとの関係
4年の歳月がもたらしたのは顔の皺の数だけではない。長年に渡って連れ添ったリトアニア出身のファッションデザイナー、エグレ・ルスキーテと2021年に結婚し、その年の9月には長女ノエミ・スカイを授かった。
ヒュルケンベルグはF1公式サイトとのインタビューの中で「しばらく離れていたことで振り返る時間ができた。幾つかのことについて見方が変わったし、違う見方もできるようになった。もちろん歳を取って父親になったことで、個人的な変化もあるけどね」と振り返った。
2017年ハンガリーGPで激しく罵りあった犬猿の仲、マグヌッセンとの関係も一変した。6年という月日は好戦的な感情を失わせるに十分なものだった。
レース中のイザコザを巡ってヒュルケンベルグは面と向かって「グリッド上で最もスポーツマンシップに欠けるドライバー」と呼び、マグヌッセンは「俺の%&#$%をしゃぶれ、ハニー」と即座に殴り返した。
マグヌッセンとの今の関係について問われたヒュルケンベルグは「甘え合ったり、抱き合ったり、色々だよ!」と笑った。
「12カ月前にセブの代役を務めた時に打ち解けたんだ。日曜の朝にドライバーの写真撮影があって、たまたまお互いに後ろの方に立っていて、今が緊張を解く時だと思って笑顔で手を差し出したんだ。あの時の彼の”あの発言”を口にしながらね!」
「そこから関係が始まって、それ以来、実はとてもいい関係なんだ。冬の間はイギリスでマーケティングやメディアの仕事をしながら過ごしてきたし、今のところ、かなりいい感じだ」
「緊張や摩擦は感じない。彼も父親だし、僕らは人生の中で同じような境遇にある。彼と一緒に仕事をするのを楽しんでいる」
ベッテルの一件がなければ復帰は叶わなかった
4年もの長期ブランクを経てF1にカムバックするのは異例だ。ヒュルケンベルグは同郷の同い年、セバスチャン・ベッテルの一件がなければ、F1復帰が実現する事はなかったと考えている。
ルノーのフルタイムシートを失った後、新型コロナウイルスの世界的流行もあってヒュルケンベルグは、他のカテゴリーに転向する事もなくレースから完全に遠ざかっていた。
だが、コロナの蔓延によりレギュラー・ドライバーが欠場を余儀なくされる度に代役依頼の電話が鳴った。
シルバーストンで行われた2020年の70周年記念グランプリでは、セルジオ・ペレスの代わりにステアリングを握って驚きの予選3番手を獲得。決勝ではバイブレーションによる予定外のピットストップを強いられてなお、7位入賞を果たした。
すると翌年、アストンマーチンからリザーブドライバーの契約が飛び込み、昨年はベッテルの代役として開幕バーレーンGPとサウジアラビアGPで代役を務め、最新世代のグランドエフェクトカーでの貴重な経験を積んだ。
「AMR22」の競争力不足もありリザルトは目立たなかったものの、COVID-19に感染して自宅隔離中のベッテルからアドバイスをもらいながらヒュルケンベルグは、驚くべき速さでクルマに適用していった。
バーレーンでは同じマシンを駆るランス・ストロールを予選で上回り、サウジアラビアでは決勝でチームメイトに先行した。ハースのギュンター・シュタイナー代表はこの活躍を見逃さなかった。
ヒュルケンベルグは「状況は全く違うものになっていただろう」「この2つが今の僕を形作った鍵、ドアオープナーだったんだと思う」と述べ、ベッテルの代役を務める事がなければF1復帰が実現する事はなかっただろうと語った。
「昨年初めの2レースがなければシートを手に入れることはできなかったと思う。あれのお陰で再び、ギュンターやチームの地図に載ることができたんだ」
「彼らは、よし、こいつはまだスロットルペダルの位置を忘れてはいないな!って思ってくれたんだ」
第二のF1キャリアは始まったばかりだ。ヒュルケンベルグは「最高のバージョンの自分になりたいって思ってる」と語る。
「兎に角、チームと自分のポテンシャルを最大限に発揮していきたい。カレンダーには23戦が並んでいる。大きな挑戦だ。これが僕の野望、そして目標だ」