F1オーストラリアGP決勝スタート直後の様子、2022年4月10日アルバート・パーク・サーキットにて
Courtesy Of Red Bull Content Pool

F1ポーパシング介入がチームに与える影響…レッドブルに朗報、メルセデスにとっては皮肉?

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国際自動車連盟(FIA)は第9戦F1カナダGPを前にポーパシング対策を打ち出した。興味深いことにその内容は、空力的上下動に苦しむチームに有利に働くものではなく、レッドブルやアルピーヌといった問題を抱えていないチームが利を得る可能性のあるものだった。

公平・皮肉な対策内容

対策の方向性としては、全チームに対して一律に車高を上げろと要請するなど、ポーパシングを課題としていないチームのパフォーマンスが削がれるようなアプローチもあり得た。それが故にレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、統括団体による介入は「不公平」だと牽制していた。

だが技術指令書の発行により明らかとなったFIAの対策は、メルセデスやフェラーリを筆頭に、現在問題に頭を悩ませているチームの競争力が低下し得るような内容だった。

FIAは車両底面に取り付けられているスキットブロックの摩耗具合や加速度センサーで計測される垂直方向の揺れの程度を監視し、ドライバーの健康被害が懸念される程に激しい上下動が発生しているチームに対してのみ、セットアップ変更などの対策を指示する。

ポーパシングを上手くコントロールできているチームは今後も、アンダーフロアで発生するダウンフォースを最大限に高めるために車高を低く保つ事が可能だが、そうでないチームは車高を上げざるを得ない。

これは皮肉とも言える。何故ならポーパシングへの介入を最も声高に主張していたのはフェラーリ、特にメルセデスだったからだ。両者は振動を抑えるよりもパフォーマンスを優先した。各週末で何処よりも激しく縦方向に揺れていたのはこの2チームのマシンだった。

カルロス・サインツはポーパシングによる身体への長期的影響に疑問を投げかけ、ジョージ・ラッセルは繰り返しレギュレーション変更の必要性を訴えていた。FIAが介入を発表したのは、ルイス・ハミルトンが腰に手をやりながらクルマを降りたバクーでのレース翌週のことだった。

バクー市街地コースでのレースを終えて腰に手をやるメルセデスのルイス・ハミルトン、2022年6月12日F1アゼルバイジャンGPCourtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

バクー市街地コースでのレースを終えて腰に手をやるメルセデスのルイス・ハミルトン、2022年6月12日F1アゼルバイジャンGP

仮にホーナーが主張するように、ドライバーからの不満の声が政治的キャンペーンの一環だったとするならば、”裏目に出た”という言い方になるだろう。

そもそもポーパシングやバウンシングをどう制御するかは各チームに委ねられた問題だった。だが弱肉強食の世界では、例え身体への長期的な悪影響が明らかであったとしても、ラップタイムが優先されてしまいがちだ。FIAの介入は不可避かつ正当なものだった。決定は医師との協議の末に下された。

各チーム・タイトル争いに与える影響

これらの問題は必ずしも全てのサーキットで深刻に発生しているわけではない。カタロニア・サーキットのような路面がスムーズな開催地では全く議論とならなかった。対して路面がバンピーなバクー市街地コースでは広範囲に不満の声が上がった。

バクー市街地コースを周回するフェラーリのシャルル・ルクレール、2022年6月10日F1アゼルバイジャンGPフリー走行2Courtesy Of Ferrari S.p.A.

バクー市街地コースを周回するフェラーリのシャルル・ルクレール、2022年6月10日F1アゼルバイジャンGPフリー走行2

つまり今後も従来と同じ様な頻度、程度で問題が続くかどうかは不透明ながらも、今回の介入がフェラーリやメルセデスに利益をもたらす可能性は皆無であり、逆にダメージとなる可能性は高い。

これは両チャンピオンシップでリードするレッドブルにとって朗報だが、F1全体としてはマイナスに働く可能性もある。タイトル争いは現在、レッドブルとフェラーリの一騎打ちとなっている。フェラーリの競争力が低下すれば、サマーブレイクを前にほぼ決着がつきかねない状況となる可能性もある。

今回の措置は当然、トップフィールドだけでなくミッドフィールドを含めたグリッド全体に影響を及ぼしうる。中団で競争力を増す可能性があるのはアルピーヌ、アストンマーチンだろう。後はマクラーレンとアルファロメオだろうか。

ただその一方で、中長期的にはメルセデスやフェラーリがアドバンテージを得る可能性もある。

FIAは今後、チームとの技術会議を通して更なる対策を取りまとめていくとしており、技術指令ではなく技術レギュレーションの変更を通して、次世代グランドエフェクトカーに内在するポーパシング発生の直接的な原因にメスを入れる意向を示している。

ルール調整の内容次第では、短期対策とは異なる影響が各チームに及ぶ可能性がある。