シャンパンシャワーを楽しむルイス・ハミルトン(メルセデス)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、2021年11月14日F1サンパウロGP決勝レースにて
Courtesy Of Daimler AG / Red Bull Content Pool

フェルスタッペンの敗因とハミルトンの勝因、最終3戦に向けレッドブルに漂う悲観的な空気

  • Published:

すべてがメルセデスとルイス・ハミルトンに否定的な状況であったにも関わらず、7度のF1ワールドチャンピオンはインテルラゴスでの週末にレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンより多くのポイントを持ち帰る事となった。

週末前にハミルトンは、F1サンパウロGPでフェルスタッペンに勝つのは難しいかもしれないとの見通しを示していた。そんな状況の中、予選ではトップタイムを記録しながらも車検違反で失格となり、更にはエンジン交換に伴い決勝で5グリッド降格が科されるなど、あらゆる種類の逆境に立たされる事となった。

だが、ハミルトンは週末を通して明らかな最速ドライバーとして君臨し、支配的な強さでレースを制してみせた。

レース後のインタビューアーを務めたフェリペ・マッサの「君は単にドライバー・オブ・ザ・デイというだけでなく、ドライバー・オブ・ザ・ウィークだった」との指摘は的を得たものだった。

最後尾スタートを余儀なくされた土曜のスプリントでは、猛烈な追い上げを見せて5位でフィニッシュした。そして日曜の本レースでは1周目に10番手から一気に7番手に浮上すると、その後は6名のライバルをごぼう抜きにして今季6勝目を挙げた。レース後に科された5,000ユーロの罰金など取るに足らないものだった。

対してフェルスタッペンは、ハミルトンの予選失格に伴いスプリント予選を最上位グリッドからスタートするもバルテリ・ボッタスに敗れ去り、決勝では1周目にボッタスを交わしてやり返すも、迫るハミルトンの追撃の前に打つ手は限られ2位でチェッカーを受ける事となった。

ウイニングランを終えて観客に向けてブラジル国旗を掲げるルイス・ハミルトン(メルセデス)、2021年11月14日F1サンパウロGP決勝レースにてCourtesy Of Daimler AG

ウイニングランを終えて観客に向けてブラジル国旗を掲げるルイス・ハミルトン(メルセデス)、2021年11月14日F1サンパウロGP決勝レースにて

場外戦、両者の見解、「笑える」スチュワードの判断

71周で争われたレースの48周目、ハミルトンはスリップストリームとDRSとを使ってバックストレートでフェルスタッペンとサイド・バイ・サイドになると、ターン4に向けてアウト側から一歩前に出た…かに思われた。

だが、相手方よりも一瞬だけブレーキングを遅らせたフェルスタッペンがエントリーポイントで再び横に並び、外に膨らみながらコーナーを回っていった。両者はそのままブラジル国旗カラーのペイントが施されたランオフエリアに出る事となり、フェルスタッペンはひとまずラップリーダーの座を死守した。

このインシデントはスチュワードによって記録されたものの、検討の後に調査の必要はないと判断された。フェルスタッペンの車載カメラは後方を向いていたため、検討に際して使われた映像証拠は、ヘリコプターの空撮映像とハミルトンの車載カメラのみだった。

調査に至らなかったため、スチュワードは進入速度やブレーキングポイント、ステアリング操作といったフェルスタッペンのテレメトリーデータを確認する事もなかった。

メルセデスのトト・ウォルフ代表は、調査すら行わなかったスチュワードの決定を「笑える」と非難した。一方、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは独auto motor und sportとのインタビューの中で「我々はレースをしているのか、それとも幼稚園にいるのか?」と問いかけた。

一般にこうしたケースで責任が問われた場合、5秒ペナルティが科せられる。

ルイス・ハミルトンがマックス・フェルスタッペンをオーバーテイクした直後に、FIAレースディレクターを務めるマイケル・マシに宛ててジェスチャーするメルセデスのトト・ウォルフ代表、2021年11月14日F1サンパウロGP決勝レースにてcopyright FORMULA 1

ハミルトンがフェルスタッペンをオーバーテイクした直後のメルセデスのトト・ウォルフ代表、後にFIAレースディレクターを務めるマイケル・マシに宛てたものだと認めた

外野はやや熱を帯びているが、当事者達はそれほどでもなさそうだ。2人が互いを批判する事はなかった。

レース後の会見の中で、何故コースオフしたのかと問われたフェルスタッペンは「二人共がコーナーで前に出ようとしていたから、ポジションをキープするために少し遅めにブレーキをかけたんだ」と答えた。

「タイヤは既に若干摩耗していてグリップが限界に達していたから、エイペックスを完全に捉えられるような状況じゃなかった。だから少しワイドに走った方が安全だと思ったんだ」

一方のハミルトンは「物の弾みで言うのもね…よく分からないな。まずは僕が前に出たと思うんだけど、彼が踏ん張っていて、お互いに行く場所がなくなってしまったんだと思う」と語った。

「彼がコース外に向かってきて、それで僕は接触を避けなきゃならず外に出た」

「でも、僕としてはあまり気にしていなかったし、もちろんリプレイ映像を見てみなきゃ分からないけど、あれはハードなバトルだったから、あれ以上の事は期待できないと思うんだ。ホイールに触れなかったのは良かったね」

48周目の教訓、フェイントを使ったハミルトン

ハミルトンは6周後の同じ場所でフェルスタッペンを仕留める事になるが、仕掛け自体はターン4ではなくターン1から始まっていた。48周目のターン4へのアプローチとは異なる戦術を採ったのだ。「ターン1に向けて彼にフェイントをかけたんだよ」とハミルトンは説明する。

「コーナーへの進入をかなり遅らせた事で、彼はブロックに動かなきゃならなくなった。だから僕はターン1・2で適切なポジションを獲る事ができた」

「ターン3に向けて更に接近した事で、遥かに有利なスリングショットで彼を追い抜けると既に分かっていた。その時点で、ブレーキングゾーンに入るまで自分がリードできるって分かってたんだ」

「抜いた後はDRS圏外に追いやることだけだった。そんなに難しいことじゃなかった。気をつけたのは最初の1周だけで、その後は問題なかったよ」

劣勢を強いられながらも何故これほどの強さを発揮できたのだろうか?ハミルトンは「どんな理由であれ、今週末のクルマは素晴らしい走りを見せてくれた」とだけ答えた。明確な答えを持ち合わせてはいないようだ。

チームと一緒に大逆転優勝を喜ぶメルセデスのルイス・ハミルトン、2021年11月14日F1サンパウロGP決勝レースにてCourtesy Of Daimler AG

チームと一緒に大逆転優勝を喜ぶメルセデスのルイス・ハミルトン、2021年11月14日F1サンパウロGP決勝レースにて

フェルスタッペンの敗因

事前の見立てでレッドブル・ホンダは、暑いコンディションが自分達に有利に働く可能性があると考えていたが、実際にはそうはならなかった。タイトなチャンピオンシップを勝ち抜くためには、こうした読み間違えは致命的なダメージに繋がりうる。

敗因は何だったのか?戦略か、ペースか、間の悪いセーフティーカーか。

フェルスタッペンは戦略を含めて全体としては「正しい判断ができた」として「特に言うことはない」としながらも、タイヤのデグラデーションが大きかったために、本来であればギャップを築けるはずの第2セクターでペースが上がらず、結果としてメルセデスが得意とするストレートで為す術なくやられてしまったのだと説明した。

「ただ、ちょっと遅すぎたよね。それに今週末の彼らはストレートで本当に速かった。だからその分をコーナーで稼がなきゃならなかったけど、今週末のコースコンディションはタイヤにかなり厳しかった」

「(ストレートで速い)ルイスに対抗するために、どこかでタイムを稼がなきゃならなかったわけだけど、それはもちろん、コーナーが多い中盤セクターだった」

「ただ、コースレイアウトや暑いコンディションの影響でリカバーできなかった」

F1サンパウロGP決勝後トップ3会見でのマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、2021年11月14日インテルラゴス・サーキットにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

F1サンパウロGP決勝後トップ3会見でのマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、2021年11月14日インテルラゴス・サーキットにて

残り3戦のタイトル争い、レッドブルにとっての不安材料

直線区間におけるメルセデスのスピードは際立っていた。レース中のスピードトラップ(ホームストレート終端での計測)でハミルトンが時速333.2kmを記録した一方、フェルスタッペンは時速318kmに留まった。速度差は15.2km/hに達した。ペレスは「別の惑星から来たようだった」と評した。

レッドブルはメルセデスの優位性を次のように考えている。

まず第1にフレッシュなエンジンだ。ハミルトンは週末に先立って今季5基目となる新品のICE(内燃エンジン)を開封した。メルセデス製F1パワーユニットは走行距離が1,000kmを超えると数キロワットのパワーが失われる。フレッシュなエンジンはその分だけ高いパワーが期待できる。

第2にストレートで極端に下るリアの車高が挙げられる。そして3つ目は、結局は抗議が見送られた時速260km以上の速度域で空気抵抗を減らすように曲がっていくとされるリアウイングのメインプレーンだ。

今週末のメルセデスのペースに驚いたか?と問われたフェルスタッペンは「もちろんさ」と答える一方、エンジンを卸したの今はパワーが明らかに向上していて「少しドラマチックに見える」としながらも、走行距離がかさんでいくことで「徐々に元に戻っていくはずさ」と楽観的な見方を示した。

だが、レッドブル・ホンダの首脳はやや悲観的だ。

ヘルムート・マルコは、インテルラゴスのストレートで異様なアドバンテージを持っていたのはハミルトンの1台だけだとした上で「ハミルトンがこのエンジンの優位性を今後も維持することになれば、我々にはリードがあるものの不利な状況に置かれるだろう。なぜなら、ロングストレートがあるトラックがまだ3つ残っているからだ」と述べ、シーズン最終のカタール、ジェッダ、アブダビの3戦に言及した。

F1サンパウロGP特集