フェラーリのセバスチャン・ベッテルと会話するレッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコ、2018年F1中国GPにて
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ベッテルの走りと”行為”を徹底擁護するレッドブル「日和見主義なドライバーは不要だ」メルセデスへの恨み辛みも?

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F1のみならず世界のモータースポーツ界では、カナダGPでのセバスチャン・ベッテルに対する罰則裁定が話題となっているが、それはチーム関係者がモントリオールを後にしてなお、落ち着く気配をみせていない。

スチュワードの裁定を支持する声もあれば、受け入れがたいと批判する声もあるが、レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコの考えは後者のようだ。手塩にかけ育てた愛弟子がみせた走りと、ピット上で繰り広げた行為の両方を徹底擁護している。

“危険な状況”が生まれたのは、ハミルトンの責任

芝生からコース復帰したセバスチャン・ベッテルと、後ろに迫るルイス・ハミルトン、2019年F1カナダGP決勝レース43周目のターン4
© Mercedes / 芝生からコース復帰したセバスチャン・ベッテルと、後ろに迫るルイス・ハミルトン、2019年F1カナダGP決勝レース43周目のターン4

スチュワードはペナルティ裁定の根拠について「ベッテルが危険な形でコースに戻ったため、ハミルトンは回避行動を取らざるを得なかった」と説明しているが、ヘルムート・マルコは、それはハミルトンが招いた事態だと考えている。

「セバスチャンは何も悪いことをしていない」とヘルムート・マルコ。Autobildとのインタビューの中で熱く持論を展開した。「彼はその才能で以てクルマをコース上に戻しただけだ。ハミルトンがイン側を通り過ぎただけかもしれないし、単にブレーキをかけただけかもしれない。彼にだって事故を防ぐ義務があった」

「だが、彼はアドバンテージを得るために、自ら進んでクラッシュの危険を冒したのだ。だからこそ彼はチームラジオで文句を言ったのだ。だからセバスチャンに対する処罰は不公平であり、後味が悪い。規則は早急に変える必要がある」

「サッカーとは異なり、スチュワードには(裁定を下すのに)十分な時間を持っているわけで、あらゆる事を考慮することができる。以前の例を紐解いてみよう。2016年のモナコGPでハミルトンは、ヌーベル・シケインでミスをして、コースに戻るときに我々のダニエル・リカルドを追い出した。それは今回のセバスチャンとは異なり、意図的だったがペナルティは科せられなかった」

3年前のモンテカルロでのレースでは、レーシングアクシデントとして処理され、ハミルトンにペナルティが科される事はなかった。ヘルムート・マルコ同様に、リカルド本人もこの点は気になったようで「あの時は今回より(ベッテルの一件の時)タイトだったけど、ペナルティは出なかった」と回顧している。

ペナルティが歓喜のレースを亡き者にする

ヘルムート・マルコは「これはスポーツを台無しにしている」と主張。史上最高の一戦と名高い、1979年にディジョン・プレノワで開催された第8戦フランスGPを例に挙げて、観るものを歓喜させるレースが消滅してしまうと懸念を表明した。

「ファン、特に若い人たちは、世界最高のドライバーによる激しい戦いを見たいと思っている。1979年にディジョンで行われたジル・ヴィルヌーヴとルネ・アルヌーの戦いは、このスポーツのあるべき姿を世に知らしめた。彼らは20回にも渡って互いに相手をコース外に追いやり戻りの戦いを繰り広げたが、最後は抱き合って互いの健闘を讃え祝った。誰もペナルティ等考えもしなかった」

両者ともにキャリアベストレースと語る79年のディジョン。ビルヌーブはブレーキに、アルヌーは燃圧にトラブルを抱えながらも、時速200kmを超える高速下で緊迫の肉弾戦を繰り広げた。優勝したのはアルヌーのチームメイト、ジャン=ピエール・ジャブイーユであったが、観客は歴史に名を残すことになるビルヌーブとアルヌーの2位争いに釘付けだった。

日和見主義なドライバーばかり

5秒加算によって2位に後退したベッテルは、フィニッシュラインを抜けた後にピットへと戻ると、ルールで定められた一連の手続きを無視。ピット上でのトップ3インタビューをボイコットした上に、ハミルトンのクルマの前に置かれた「P1」のポジションボードを「P2」のものに置き換え、徹底抗戦の構えをみせた。

ヘルムート・マルコは、これらベッテルがレース後に取った行動についても全面的に擁護する姿勢を示しているが、熱弁の裏には「インシデントによってメルセデスが度々利を得てる」事に腹を立てているという事情もありそうだ。

「セバスチャンはすべてをうまくやった。(レース後にハミルトンの)ポジション・サインを交換することで、自分が感じていたものを公に示した。それは、勝利が奪われたという思いだ」

「今や大部分のドライバーは、チームから言われた事をそのまま口にしているだけで、誰も自分の考えを語ろうとしない。模範的とされるべきは日和見主義なのだろうか?いや、とんでもない事だ」

「私は自分の意見を断固として貫き通すドライバーを求めている。その事はマックス・フェルスタッペンにも伝えた。彼は(アンセーフリリースの裁定が下った)モナコGPの二日後にペナルティが科された事実を受け入れたが、彼がそうしたのはこれ以上面倒な事になるのを望まなかったからだ。だが、ペナルティは正しくなかった。あの時もメルセデスは利益を得たのだ」

同時ピットストップを行なったレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンとメルセデスのバルテリ・ボッタス、F1モナコGP決勝レースにて
© Pirelli & C. S.p.A. / 同時ピットストップを行なったフェルスタッペンとボッタス。この後両者は接触した。F1モナコGP決勝レースにて

第6戦モナコGPでは、フェラーリのシャルル・ルクレールが引き起こしたクラッシュによって9周目にセーフティカーが出動。これを機にピットストップに向かったフェルスタッペンは、タイヤ交換を終えて1ポジションアップの2番手でコースに復帰するも、ピットアウトの際にバルテリ・ボッタスと接触。アンセーフリリースを取られてしまい、5秒ペナルティーの裁定が下った。

本来であればタイムペナルティで済むはずであったが、スチュワードはフェルスタッペンに対してスーパーライセンスへの罰則ポイント2点を科した。その理由としてスチュワードは、リリースそのものが危険であったのは確かだが「33号車のドライバーは接触を避けるチャンスがあったのにそれをしなかった」と説明し、チームだけでなくドライバー個人にも責任があったと結論づけた。

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