不満な表情で2位トロフィーを掲げるフェラーリのセバスチャン・ベッテル、2019年F1カナダGP決勝レースでの表彰台
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物議を醸すカナダGP罰則裁定、ベッテルを擁護しスチュワードの判断に疑問を呈すレース界

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カナダGPでのセバスチャン・ベッテルに対するペナルティ裁定が物議を醸しているが、世界のレース界はこの件をどのように捉えているのだろうか? 筆者の限られた観測範囲においては、スチュワードの判断を批判しベッテルを擁護する声が大勢を占めている。

ルイス・ハミルトンの猛追でミスを喫したベッテルは、ターン3でコースオフ。見事なドライビングによって、殆どグリップのない芝生からコースに復帰するも、スチュワードはこの動きを「危険行為」とみなし、5秒ペナルティとスーパーライセンスのペナルティポイント2点を科す裁定を下した。

芝生からコース復帰したセバスチャン・ベッテルと、後ろに迫るルイス・ハミルトン、2019年F1カナダGP決勝レース43周目のターン4
© Mercedes / 芝生からコース復帰したベッテルと、後ろに迫るハミルトン、2019年F1カナダGP決勝レース43周目のターン4

この結果ベッテルはトップチェッカーを受けたものの、タイム加算によって2位に後退しハミルトンが逆転優勝を飾った。だが、現地観戦に足を運んだファンはベッテルに一際大きな声援を贈り、テレビ観戦していた世界中のファンは、ドライバー・オブ・ザ・デイにベッテルを選んだ。

2013年から14年までマルシャでF1を戦った経験を持つマックス・チルトンは「F1にとって厳しい結果だ。両方の言い分がある。FIAはレーシングラインを妨害する形でコースに復帰してはならないというルールブックに従ったまでだが、これはこのスポーツにとって残念な決断だ」と語り、論争に加わる上で持つべき基本認識を共有した。

インディカーとF1の両方でチャンピオンを獲得したアメリカンモータースポーツ伝説、マリオ・アンドレッティは、レース審査員のあるべき姿を問うた。「私は、スチュワードの役割というものは、激しいレースの結果生まれたミスを責める事ではなく、目に余る危険な動きを罰することだと思う。カナダGPで起こったことは、偉大なスポーツのレベルでは受け入れられないものだ」

通算31勝を上げ、1992年のF1ワールドチャンピオンに輝いたナイジェル・マンセルは「馬鹿げたペナルティだ。セブは芝生の上でグリップが全くないにも関わらず、見事にコースに戻ってみせた。トラック上にはスペースがないのに、ルイスは素晴らしいドライビングをみせた。セブにどうしろって言うんだ?クレイジーだ。本当に酷く恥ずかしい事だ。2人のチャンピオンが見事なレースを繰り広げたのに、見ていても何の喜びもない」と語り、裁定に強い憤りを示した。

「凄く残念な決定だったと思う。僕に言わせれば、あれはレーシングインシデントだった」と語るのは、Sky F1の解説者を務める2009年にF1を制したジェンソン・バトンだ。「確かにセブはミスを犯したが、時速160kmを超える速度で走行していたという事実を忘れちゃだめだ」

セバスチャン・ベッテルへのペナルティによって優勝を手にし飛び上がるルイス・ハミルトン、2019年F1カナダGP決勝レース
© Mercedes / ベッテルへのペナルティによって優勝を手にし、飛び上がるハミルトン

F1の選手会組織、GPDA会長を務めるアレックス・ブルツは「ヘルメットの動きから言えば、ステアリングを修正した後に初めて、ベッテルはミラーを見たように見える。ルイスにスペースがなかったのはストリートコースでは当然の事だ。ドライバーにレースをさせるという方針はどうなったんだ?」と語り、競技という観点から意見を述べた。

かつてレッドブル時代にベッテルと激しくやりあったマーク・ウェバーは「F1で先頭を走ったことのあるスチュワードはいなかったのか? それともレースを見てなかったのか?これは精神的な罰だ」と痛烈に皮肉った。

今年のカナダGPでレーススチュワードを務めたのは、1989年から1991年に渡ってベネトンとスクーデリア・イタリアからF1に参戦したエマニュエル・ピロら3名であった。

2013年にケータハムからF1にデビューしたギド・ヴァン・デル・ガルデは、ベッテルの動きは罰則の対象ではなく称賛されるべきものだと語った。「正直に言えば、もし僕がベッテルだったら表彰台まで辿り着けなかっただろうね。僕に言わせればあれはレーシングアクシデントであり、ペナルティの対象じゃない」

スーパーフォーミュラやSUPER GTでお馴染みのフェリックス・ローゼンクビストは「愚かなペナルティのために、表彰台では誰もがハッピーじゃなかった。我々ファン全員にとっても、素晴らしいレースを台無しにする判断だった。ベッテルとハミルトンを称賛したい」と述べ、この論争に対して一歩引いた視点を提供した。

NASCARカップシリーズで7度のチャンピオンに輝いた生けるレジェンド、ジミー・ジョンソンは「NASCARにスチュワードなる者がいなくて良かった」と辛辣な言葉を発し、フォーミュラEの公式Twitterアカウントは「レースをするという事はどういう事なのだろうか?」と問いかけた。

フェラーリが上訴する意向を示している事もあり、論争は今後も尾を引くものとみられる。

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