ブラックリーにあるメルセデスF1のレースサポートセンター
Courtesy Of Mercedes

技術解説:テレメトリを制するものがF1を制す。データと通信が重要視される理由とは?

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F1マシンは世界最先端のコネクテッドカー(インターネットと接続された車)だ。現代のF1マシンは数百ものハイテクセンサーを搭載してデータを記録。それをピットウォールやファクトリーへと送信する。走行するサーキットやセッションの種類(テストなのか決勝レースなのか)によって搭載されるセンサーの数が異なるため正確な数値は分からないが、150~300個程度が走行中のF1マシンの様々なデータを集めている。

収集される具体的なデータとしては、パワーや温度や圧力、排気などのエンジンに関するものや、サスペンションやギアボックスに関するデータ、燃料の状態、タイヤ温度、Gフォース等などが挙げられる。これらのデータはコンピューターを使って演算処理され、パワーユニットやギアボックスの制御パラメータに使われる他、セットアップやトラブル検知等の基礎データに用いられる。

集められたテレメトリデータは、時速350km以上の速度でコースを周回している間であってもリアルタイムにアクセスする事が出来る。だが、全チーム共通のコントロールユニット(ECU)によって、転送可能なデータ量と種類が制限されているため、全てをというわけにはいかない。そのため、集められたデータの大部分はマシンがピットインした際に高速無線通信回線を使い、クルマからエンジニアへと転送される。

F1のみならずレーシングカーにとってタイヤを理解することは極めて重要だ。タイヤが機能しなければクルマは前に進まない。各チームは金曜フリー走行で、光学式の赤外線タイヤ監視システムをマシンに取り付けて、どのタイヤがどのように機能しているかを包括的に把握し、シングルラップとレースパフォーマンスを分析する。

チームとしては、セッション中に一刻も速くタイヤに関するデータを取得したいところだが、これには大きな課題があった。というのも、クルマがガレージ内に留まるのは数分程度であり、これまでは、すべてのデータをダウンロードするために走行時間を犠牲にするか、セッション中のアクセスを諦めてセッション終了まで待つ必要があったからだ。

だが、携帯電話の通信システムが3Gから4G(LTE)へと進化して地下での通信環境が改善したように、この種の問題はテクノロジーが解決する。

現代のF1マシンは電子制御の塊

メルセデスAMGでは2017年に、60GHz帯ミリ波で動作する5GHz 802.11 acとマルチギガビット802.11 ad Wi-Fiという2つのハイテク無線技術システムを使い始めた。2つの802.11モード間のハンドオーバー(切替)は自動的に管理される。つまり、マシンがピットレーンに進入すると無線でのデータ通信が開始され、クルマとガレージとの距離が4メートル以内になると、高速なアップリンクへと切り替わり、最大1.9ギガビット/秒のダウンロード速度でクルマからガレージまでデータが送信される。レース週末にチームが収集するデータの総量は500ギガバイトにも達する。

とは言え、この技術はF1の専売特許ではない。2015年からメルセデスとパートナーシップを結ぶ半導体メーカーのクアルコムは、この製品を消費者市場向けに投入する目的で開発し、極限とも言える状況下でのテストを行うために、F1を研究開発の場として活用した。

2016年のF1ワールドチャンピオン、ニコ・ロズベルグはデータと通信の重要性について「クアルコムが僕をチャンピオンに導いてくれたようなものだ」と表現する。どういう事か。週末のプラクティスは合計240分間しかない。この限られた時間を最大限に使ってクルマのセットアップを煮詰めていく事が、予選と決勝での競争力に直結する。

「僕らのマシンには、クアルコム製のパワフルなプロセッサや高速ワイヤレスによるデータ転送機能が備わっており、限られたセッション時間を効率良く使う事ができる」とロズベルグ。「普通だと、ケーブルでのデータ転送で5分かかかるところが、クアルコムの高速無線転送だと瞬時に完了する。これは競争する上で本当に重要なことだ」

「実際、F1ベルギーGPでは、彼らの高速通信のおかげでポールポジションが取れたし、レースにも勝つ事ができた。クアルコムが僕をワールドチャンピオンにしてくれたって言っても良い位だよ」

2019年のF1モナコGP予選でのシャルル・ルクレールのQ1敗退に対して、データ・ドリブンなレースオペレーションに対する疑問の声も聞かれるが、データなくして今のF1で競争的地位を築く事は難しい。データそのものに罪はない。罪なのはそれを使いこなせない人間で、メルセデスを引き合いに出すまでもなく、問題があればそれを改善して前に進み続ける他ないのが今のF1だ。