トラックリミット
トラックリミット(英:Track Limit)とはコース外走行を制限するルール、あるいは走路外を走行する行為そのものを指す。FIA国際競技規定や各週末の決まり事を定めるレースディレクターズ・ノートと呼ばれるドキュメントで禁止されている。
違反した場合のペナルティー
違反した場合、当該ラップのタイムが抹消される。翌周に影響を及ぼすようなコーナー(例えば最終コーナー等)での違反に関しては、翌周のラップも合わせて取り消される。
決勝レースでは3度に渡ってトラックリミットを犯すと警告の意味合いで黒白旗が振られ、4回の違反で5秒ペナルティ、5回で10秒ペナルティが科せられる。
6回違反するとリセットされ、8回目の違反で黒白旗、そして9回目で5秒、10回目で10秒ペナルティが科される。
ただし、他車に無理やりコース外に追いやられたなど、正当な理由があってコースを離れたと見なされる場合はトラックリミットの対象外となる。
違反が確認されるとレースコントロールはその都度、公式メッセージシステムを介してチームにこれを通知する。
トラックリミットの判断基準
マイケル・マシがFIAレースディレクターを務めていた2021年以前は各グランプリを前に、コースや状況に合わせて個別にトラックリミットの対象コーナーが設定されていた。
それは例えば、走路を表す白線を4輪が越えた場合、あるいは白線ではなくその外側の縁石を越えた場合など、コースおよびコーナー毎に異なっていた。
だがニールス・ヴィティヒがF1レースディレクターを務めるようになって以降は、どのコースも一律に全てのコーナーを対象として、4輪全てが白線を越えた場合と再定義された。
判定方法
F1は2016年のハンガリーGPで新たなテクノロジーを採用した。これは縁石の外側に衝撃センサーを設置し、タイヤがこれにぶつかるとその衝撃が記録されるというものであった。
ジェンソン・バトンやフェルナンド・アロンソは肯定的な見解を示したが、バスチャン・ベッテルやダニール・クビアト、ジョリオン・パーマーは批判的だった。
現在はコーナーを監視するカメラを使った自動システムが構築されており、違反が検知されるとフランス・ジュネーブのリモートオペレーションセンター(ROC)の専門チームが評価を行い、違反と判断された場合にスチュワードに報告を上げる仕組みとなっている。
何故コース外を走った方が有利なの?
コーナーでタイムを稼ぐための基本はアウト・イン・アウトの走行ラインを取ることにある。コーナー進入時はなるべく外側を、コーナリング中は内側を、そしてコーナーから脱出する際には外側を走った方が原則としてラップタイムは向上する。
そのため、ドライバーは可能な限りコース幅一杯を使ってコーナーを走り抜けよう。すると時に意図的に、あるいは意図せずに、コースを大きく逸脱した走行ラインを取るドライバーが出てしまう。
こうなるとコース=走路の意義が消え失せ、「スポーツにおける公平性」という観点において弊害が出てしまう。そこでコースを逸脱したドライバーにペナルティーを科す仕組みがトラック・リミットなのだ。
トラックリミットは本来不要?
そもそもコース外を走行した方がタイムが向上してしまう様なサーキットのレイアウトに問題がある場合もあり、ドライバーからの批判は根強い。
理想的には縁石やグラベルなどによって、コース外を走行した場合にタイムが著しく悪化してしまうサーキット作りが基本となるべきだが、アマチュアを含めて様々なドライバー、2輪ライダーが走る可能性があるだけに、F1を含むプロドライバーのためだけにそうした措置を取るのは現実的ではない。
1レースで1200件の容疑事例
2023年のF1第10戦オーストリアGPでは、最終2コーナーで走路外に飛び出すドライバーが多発した。報告された違反が疑われる件数は「1,200件以上」に及んだ。
この「前例のない状況」を受け、FIAは「レース中にすべての疑わしき事例を調査できなかった」と認めた。
レース後に行われた再検証の結果、最終的に計84件(公式文書では連番が83まで振られているが、抜けがあるため正確には84件)ものラップタイムが抹消される事となった。ターン9での違反は28回、最終ターン10での違反は36回に及んだ。
膨大な数の再調査の結果、レース後に8名のドライバーに追加で12件のペナルティが科された。表彰台の顔ぶれに変更はなかったものの、完走19台の内、14台の順位に変動があった。