Fダクト(F-Duct)とは、ドライバーが手動で稼働させる事で任意にクルマの空気抵抗を減らし、ストレートでのトップスピードを稼ぐ空力デバイスのこと。
2010年にマクラーレンがMP4-25で初採用。その合法性をめぐって議論が起こったが、最終的に国際自動車連盟(FIA)がOKサインを出した事で他のチームも実装し始めた。
当時、ルイス・ハミルトンとジェンソン・バトンはストレートでこれを稼働させ、約6マイル(9.7km/h)のアドバンテージを得ていたとされる。効果としては可変フラップによるドラッグ・リダクション・システム「DRS」と同じ類のソリューションだ。
安全性への懸念などから2011年の規定で「手動によってダウンフォースを調整するシステム」が禁止され、Fダクトは僅か1年で消滅したかに思われたが、翌2012年にレギュレーションの隙を突いて”手動で操作しない”Fダクトシステムが生み出された。
Fダクトの名前の由来
ドライバーが足(Foot)で操作する事で稼働するため、あるいはMP4-25のモノコック上部に貼られていた「Vodafone」のロゴの「f」の上にFダクトの起点となるエアインレットが取り付けられていたため、など諸説あるが、一部のメディアが勝手にFダクトと呼び始めた事でこの名が定着しただけで、実際にマクラーレン内部では「RW80(RWは”Rear Wing”の略)」と呼ばれていた。
2010年の各チームのFダクト
各チームによってFダクトの仕組みは大きく異る。
MP4-25の「RW80」は、コックピット前方に設けられた吸気口から気流を取り入れ、ダクトを通してリアウイングのフラップ上部に導く事で空気抵抗を減らすものだった。
ウイングは上下の気流の速度の違いによってダウンフォースを生成する空力デバイスだ。下面の気流の方が速いと地面に押し付ける力が発生するが、同時にこれは空気抵抗となる。
逆に上面の気流速度を上げるとダウンフォースだけでなく空気抵抗も減少する。F1ダクトはこれを利用した画期的なソリューションだった。
ザウバーの場合はシャークフィンがリアウイング本体に接続されていて、マクラーレンとは逆にウイング下面への気流を加速させる事でダウンフォースの増加を狙ったものだったとされる。つまりストレート走行時はダクトを閉じてFダクトの機能をオフにすることでスピードを得ることになる。
フェラーリのFダクトはコックピット脇の穴を左手の甲で塞ぐカタチで操作するものであったようで、危険性を指摘する声もあった。空力の鬼才として知られるエイドリアン・ニューウェイは、ドライバーがダウンフォースを操作する事そのものへの懸念を示していた。
2012年のFダクトコンセプト
2012年にメルセデスGPは、Fダクトの原理を使ったデバイスをフロントウィングとリアウィングに実装。それぞれ「Wダクト(Fダクトフロントウィング)」「Fダクトリアウイング」と呼ばれた。Wダクトによってトップスピードは時速8km、Fダクトリアウイングによって時速18Km増加したとされている。
これはいずれもドライバーが操作するのではなく”自動的に”動作するタイプであったためレギュレーション違反とはならなかった。
Wダクトの場合、ノーズ先端に設けられた吸気口からの気流がフロントウイングを押し付けるようにして噴射された。