左からマックス・フェルスタッペン、角田裕毅、ルイス・ハミルトン
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角田裕毅、吸収力と「人一倍の努力」でF1へ…フェルスタッペンら一流ドライバーとの共通点とは?

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アルファタウリ・ホンダから今季F1でデビューを飾る角田裕毅に、日本だけでなく本場ヨーロッパを含めた世界中のエキスパートやファンが高い関心を以て注目している。それは7年ぶりに日本人F1ドライバーが誕生するからではなく、実力が評価されセンセーショナルな活躍が期待されているからだ。

その成長を傍で見守り、キャリアを後押ししてきたホンダF1の山本雅史マネージング・ディレクターは、角田裕毅には次世代のF1ワールドチャンピオン筆頭候補に数えられるマックス・フェルスタッペンや、ミハエル・シューマッハを超える8度目のタイトル獲得に挑むルイス・ハミルトンといった一流ドライバーに共通する要素があるという。

2020年F1アイフェルGP決勝レースを終えて互いの健闘を称えるレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンとメルセデスのルイス・ハミルトンcopyright Red Bull Content Pool

2020年F1アイフェルGP決勝レースを終えて互いの健闘を称えるレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンとメルセデスのルイス・ハミルトン

曰くそれは「反応速度」だという。どういう事なのか?山本MDは”ホンダストーリー”の中で次のように説明する。

「人間が行動する時は一般的に、目や耳から入った情報が脳へと送られ、そこから身体へ指令が伝わり腕や足が動きますよね? でも角田選手の場合には、情報が脳を経由しないというか、目の前で起きた事象に反応してダイレクトに身体が動くような感じで全く迷いがありません」

「こうした走りができるのは、マックス選手や、チャンピオンのルイス・ハミルトン選手など一流ドライバーと共通する部分ですね」

左からマックス・フェルスタッペン、ヘルムート・マルコ、山本雅史Courtesy Of Red Bull Content Pool

左からマックス・フェルスタッペン、ヘルムート・マルコ、山本雅史

ホンダは「Hondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)」の名の下に、モータースポーツで活躍する若手ドライバーの発掘および育成に力を入れてきた。HFDPでは、鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)の卒業生を中心に、まずは国内F4へと送り込み、成果を残したドライバーにF3や海外レースへの挑戦の道を用意する。角田裕毅のシングルシーターでのキャリアはホンダと共に始まった。

角田裕毅は失敗したらキャリアを諦めるとの覚悟で臨んだ2016年のSRSのスカラシップ選考会で落選したものの、中嶋悟に才能を見出された事で2017年にFIA-F4日本選手権へのステップアップを果たし、HFDPの一員として臨んだ2シーズン目にポールポジション9回、優勝7回を記録してチャンピオンを獲得した。

山本MDが角田裕毅と頻繁に交流するようになったのはこの時だった。曰く「当時から勝ちにこだわる姿勢が強かった」と言う。

ホンダとレッドブルのF1での提携が決まった縁もあり、角田裕毅はホンダの推薦でハンガロリンクで行われたF3合同テストに参加。すると、海外の有望な若手を抑えて全体のトップタイムをマークした。フェルスタッペンや4度のF1王者セバスチャン・ベッテルを輩出した事でも知られる屈指の若手育成機関、レッドブル・ジュニアチームのドライバー達を上回る速さだった。

これがきっかけでレッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコのお眼鏡に適い、角田裕毅はレッドブル育成プログラムに加入。キャリア大転機を迎え、翌年に日本を飛び出しFIA-F3選手権への参戦を果たした。

ヘルムート・マルコはテスト当時を振り返り「彼はすぐに我々を納得させた。スピードは素晴らしく、コーナーでの速度には眼を見張るものが合った」と語っている。

パワー、制動力、ダウンフォース、車重…F3マシンは角田裕毅が慣れ親しんできたF4とは全く別の上位マシンで、乗りこなすには多くの時間を要するが、ハンガロリンクテスト前に角田裕毅がF3マシンで走行したのは僅か「2回」のみだった。

山本MDはテスト前の裏話を披露し、角田裕毅の「吸収力」を強調する。

「欧州に出発する前に1時間程度のミーティングをやってテストプログラムを確認し、それぞれでこういう事を意識して走りなさい、こんな流れでマシンに慣れていきなさい、といった話を細かくしました。角田選手のすごいところは、その話をきっちりと理解して3日間の走行でどんどんタイムを上げていった吸収力。テストであっても妥協せず、トップタイムという見事な結果を出してみせました」

F3で所属したイェンツァー・モータースポーツは前年の表彰台獲得がゼロと競争力に乏しく、シーズン序盤は苦戦を強いられるも持ち前の適応力を発揮。モンツァのレース1で3位を獲得するとレース2では初勝利を掴み、優勝1回、表彰台3回を獲得してランキング9位につけた。

レッドブルとホンダは僅か1年で角田裕毅をステップアップさせる事を決め、2020年はF1の登竜門であるFIA-F2選手権に参戦。第2戦オーストリアでいきなりポールポジションを獲得すると、シーズンを通して優勝3回、ポールポジション4回、表彰台7回を獲得。参戦初年度ながらも2位に1点差のドライバーズランキング3位に輝き、F1参戦要件となるFIAスーパーライセンスを掴み取った。

2020年F2サクヒール レース1で表彰台に上がった角田裕毅、ニキータ・マゼピン、周冠宇Courtesy Of Formula Motorsport Limited

2020年F2サクヒール レース1で表彰台に上がった角田裕毅、ニキータ・マゼピン、周冠宇

天性のスピードばかりが注目されるが、山本MDは角田裕毅の「人一倍の努力」に光を当てる。

「僕が見てきたドライバーの中で一番トレーニングを積んでいる一人です。ランチに誘うこともありますけど、彼は『そこはトレーニングの予定があるので、明後日にしてください』という感じで、絶対に自分のペースを崩さないんですね。自分に必要なことは何かを見据えて、それを実行するためには遠慮しない。いい意味でのマイペースさがありますね」

角田裕毅の魅力・強みの一つは、本人も絶対の自信を持つブレーキングだ。

山本MDは今シーズンの一番の見所は「ブレーキングと抜き方」であるとして「他車と並んでコーナーに入った時に、ブレーキを遅らせてズバッと前に出る場面がきっと見られると思います」と期待を表す。

「彼はレースを俯瞰して見ているんです。レース全体の動向を眺めることができているというのかな。だから他のマシンの動きを想定して攻略できてしまうし、抜きにかかるときにも、このコーナーでこのくらい差を詰めて、ここでプレッシャーをかけて、最後のブレーキングで前に出る、というような組み立てが可能になるんです」

「あとは、タイヤの使い方も上手です。F2では、ほかのドライバーがタイヤを目一杯使って走っているときでも、自分はセーブしながら他車を上回るペースを見せてくれていました」

角田裕毅は首位フェルスタッペンに1000分の93秒に迫る2番手タイムを叩き出しパドックの驚きを誘った今月上旬のF1公式プレシーズンテストを経て、3月26日-28日の開幕バーレーンGPで日本人ドライバーとして2014年の小林可夢偉以来、7年ぶりにF1の表舞台に立つ。

「SNSは結構見ています」という角田裕毅。

「TwitterやInstagramでメッセージをいただくことも多くて、『開幕戦が待ちきれない』とか『鈴鹿で待っています』という声をいただくのは本当にうれしいですし、僕も本当に楽しみにしています」

日本のファンの声を力に変えて、見る者に感動を与える素晴らしいレースを期待したい。