
メルセデスF1、“1兆円”に迫る史上最高評価額―ウォルフが一部株式売却へ
メルセデスF1チームのチーム代表兼CEOトト・ウォルフが、自身の保有株式の一部を売却する交渉を進めていると報じられた。イギリスの経済紙『Financial Times』によれば、この取引におけるチームの評価額は60億ドル(約9,250億円)に達し、日本円換算で1兆円の大台に迫る水準とみられている。これはF1史上、過去最高の評価額となる見通しだ。
一方で、ウォルフは売却後も引き続きチーム代表兼CEOとして指揮を執る見通しで、運営体制に変化はないと見られる。
ウォルフ、保有株の「一桁パーセント」を売却へ
Courtesy Of Formula E
メルセデスF1チーム代表を務めるトト・ウォルフと妻スージー・ウォルフ、2018年5月18日
英スポーツ・ビジネス専門メディア『Sportico』によるとウォルフは現在、自身の持株会社を通じて保有する株式の「一桁パーセント」を売却する方向で交渉を進めている。具体的な買い手は特定されていない。
ウォルフはメルセデスF1の株式33%を保有しており、残りの株式はメルセデス(ダイムラー)とイギリスの化学大手イネオス(INEOS)がそれぞれ33%ずつを保有する三者構造だ。
今年1月に53歳の誕生日を迎えたウォルフは、レーシングドライバー引退後に投資家へ転身。2013年にチームの株式30%を購入してメルセデスF1に参画し、代表兼CEOに就任した。以降、8年連続のコンストラクターズタイトルを含む黄金期を築き上げた。
今回の交渉はあくまで株式の一部譲渡であり、経営構造や意思決定プロセスには影響せず、売却が成立しても、ウォルフはチーム代表兼CEOの職務を継続する見通しだ。
メルセデスの広報担当者は「取引に関するコメントは控える」としたうえで、「チームのガバナンスに変更はなく、3者はいずれもF1活動の継続的な成功に完全にコミットしている」と述べた。
イネオス参入から3年で評価額7倍に
Courtesy Of Daimler AG
INEOS会長のジム・ラトクリフとメルセデスAMGペトロナスF1チームのトト・ウォルフCEO兼チーム代表
今回の取引が改めて示すのは、F1チームの資産価値が急速に上昇しているという現実だ。
イネオスが2022年にメルセデスF1の株式33%を取得した際の評価額は約6億2,400万ポンド(約1,260億円)とされていた。
今回の60億ドルという評価額は、そのおよそ7倍にあたる。わずか3年でこれほどの価値上昇を遂げた背景には、リバティ・メディアによる商業改革、Netflix『Drive to Survive(邦題:Formula 1: 栄光のグランプリ)』の成功、そして北米を中心とした新たなファン層の拡大がある。
さらに、今夏公開されたブラッド・ピット主演のF1映画が世界興収6億3,000万ドル(約970億円)を記録し、スポーツ映画史上最大のヒットとなったことも追い風となった。
こうした一連の成功は、F1ブランドのグローバルな価値を押し上げ、スポンサーや投資家の関心を一段と高めている。F1チームは近年、単なるモータースポーツ組織ではなく、ブランド力とメディア性を兼ね備えた“スポーツ資産”として注目を集めており、投資対象としての魅力を急速に高めている。
今回のメルセデスF1の評価額は、2年連続でコンストラクターズタイトルを制しているマクラーレンを約10億ドル上回る水準にある。2025年9月、アブダビ政府系ファンドのCYVNホールディングスがマクラーレン株式33%を取得した際、チーム全体の評価額は約50億ドル(約7,700億円)と報じられた。
ハミルトン退団後も競争力維持
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
スプリント2位のアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)、優勝したランド・ノリス(マクラーレン)、3位ジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年11月8日(土) F1サンパウロGP(インテルラゴス・サーキット)
現在メルセデスはコンストラクターズランキング2位につけており、エースのジョージ・ラッセルが今季21戦で2勝を挙げ、ドライバーズランキングではマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、ランド・ノリス、オスカー・ピアストリ(いずれもマクラーレン)に次ぐ4位につけている。
2025年シーズンに向けフェラーリへ移籍した7度のF1王者、ルイス・ハミルトンの退団後も競争力を維持し続けている点が、チームの安定した資本価値を支える要因となっている。