アストンマーティン・レッドブル・レーシング

F1に新しい自動車メーカーが参入して来ないのは何故なのか?「MGU-Hとホンダが理由」とコスワース

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新しい自動車メーカーがF1に参入して来ないのは何故なのか? 2021年以降の新しいエンジンレギュレーション時代に向け参入を検討していたアストンマーチンが計画を断念した背景には何があったのか?コスワースのマネージングディレクターを務めるブルース・ウッドは、その理由を”MGU-H”と”ホンダ”だと語る。

英国の高級スポーツカーメーカーであるアストンマーチンは、現行のF1規約が大幅改定される2021年に、エンジンマニュファクチャラーとしてF1に復帰する事を検討。その際に、実際のエンジン開発を担当する使命を与えられたのがコスワースであった。レッドブルとの共同開発で生み出されたハイパーカー”ヴァルキリー”に搭載されているのもコスワース製エンジンである。

1958年に創業した英国のレーシングエンジンビルダー、コスワースは、歴代2位の勝利回数を誇る名門であるものの、V6ハイブリッドターボが導入される前の2010年から2013年にかけて、ウィリアムズ、ロータス、バージン、HRTへの供給を最後にF1から姿を消す事となった。

当初発表された新しいF1レギュレーションの骨子では、熱エネルギーを回生するMGU-Hの廃止が謳われていたものの、既存のエンジンサプライヤーがこれに反対。正式な発表はまだなされていないものの、2021年以降もMGU-Hの搭載が継続される事が内定しており、これによってアストンの計画は頓挫した。

ウッドは、MGU-Hはあまりにも高価すぎると主張。一般市場向けの用途は皆無であるため投資に見合ったリターンが得られず、F1に参加しようとする潜在的な新しいエンジンメーカーにとって大きな障壁になっているとの認識を示した。

「実際のところ、私自身を含めてMGU-Hを扱った事のある経験を持つ人材はごく僅かだ。フェラーリ、ルノー、メルセデス、ホンダの各メーカーは程度の差こそあれ皆一様に成功を収めている。その背景にはMGU-Hの技術に対する膨大な投資がある」

「おまけにMGU-Hの開発に必要とされるのは、ハードウェアに関する技術だけではない。回生したエネルギーをどのようにして放出するかと言う領域に関しても技術が必要なんだ」

「我々としてはMGU-Hは素晴らしい技術だと考えているが、開発するにはあまりに高価であり、それが参入の障壁になっている。モーターレーシングの以外では非常に限られた用途しかないだろう」

「コスワースのバッジが付いたF1エンジンが実現するなんて我々には想像できないよ。リースという形でチームに提供し、開発にかかった投資を回収するなんてことはね」

公の場で真っ先にMGU-Hの廃止に反対したのはホンダであったが、フェラーリやメルセデスも同様に反対の立場を取っている。ウッドは、2021年以降のF1レギュレーションを検討するための会合に赴いた時の話を引き合いに出し、フェラーリがMGU-H廃止に反対する理由を明かした。

「ある会合に出向いた時、フェラーリのマウリツィオ・アリバベーネ(チーム代表)が立ち上がって雄弁に言ったんだ。”FIAの皆さん、我々はルールに則って(エンジン開発のために)10億ドルを支払っている。にも関わらず、あなた方は突如一方的に、それだとこのスポーツが上手く機能しないから、という理由で、よりシンプルなエンジンを導入すると言い出すのかね”とね」

ウッドは、新たな参入メーカーが現れないのは、MGU-Hの開発に多額のリソースが必要であるという事の他に、ホンダの影響が大きいと主張する。他の3メーカーに遅れて、ホンダは2015年にエンジンサプライヤーとしてF1に復帰。以降3年間に渡ってパフォーマンスと信頼性不足に苦しみ続けてきた。

「あの状況を目の当たりにした自動車メーカーのが”よし、我々もやってみよう”等と思うわけがない。個人的な見解だが、新しい自動車メーカーがF1にエントリーするまでには長い時間がかかると思っている」