レーシングポイントRP20に乗り込みガレージからコースへと出るニコ・ヒュルケンベルグ、2020年F1イギリスGPフリー走行1
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24時間の舞台裏…レーシングポイントF1、何故バンドーンやグティエレスではなくヒュルケンベルグを起用したのか?

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レーシング・ポイントF1チームは何故、利用可能であったメルセデスのリザーブドライバーを務めるストフェル・バンドーンとエステバン・グティエレスではなく、ニコ・ヒュルケンベルグを選んだのだろうか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への感染が確認されたセルジオ・ペレスは、英国政府のガイドラインに従い、シルバーストン・サーキットでの2連戦を欠場する事になる。

“チームとの経験”が鍵、とチーム代表

公式のリザーブを立ててないレーシングポイントはこうした不測の事態に備え、パワーユニットの供給を受けるメルセデスとの間でリザーブドライバー共有の合意を取り付けていた。にも関わらず、1回目のフリー走行に向けてRP20に乗り込みコースインしたのはヒュルケンベルグであった。

フィジカルを含めて準備がままならない中、ヒュルケンベルグは初めて駆るRP20で、僚友ランス・ストロールとのギャップを0.588秒に抑える9番手タイムを刻んでみせた。

チーム代表のオトマー・サフナウアーはドライバー選定において、最も重視した要素に「チームとの経験」を挙げた。

「ストフェルはドイツでのレースがあるから、ここには来られないし、ニコはエステバンよりも我々のチームの事をよく知っている。チェコがドライブできないと判明してから、我々に許されたのは1日しかなかった」とサフナウアーは説明する。

「チームのことを理解しているドライバーを起用する事が鍵だった。ニコとは長い間一緒に仕事をしてきたし、エンジニアのことも知っている。シミュレーターにも乗ってきたし、我々がどのように動いているかも知っている。それが(短期間で)スピードを取り戻す鍵になると考えたのだ」

「もちろん、彼に才能があることは言うまでもない」

2010年にウィリアムズからF1デビューを果たしたヒュルケンベルグは、エイドリアン・スーティルの後任として2011年にフォース・インディア(現レーシング・ポイント)に移籍。2013年に一度ザウバーに籍を移した後、2014年から2016年にかけて再びフォース・インディアでF1を戦っている。

なおバンドーンは、8月5日から13日にかけてドイツ・ベルリンの旧テンペルホーフ空港で行われるフォーミュラE選手権の6レースが控えていた。また、グティエレスは2016年を最後にF1から遠ざかっているためブランクが大きい。ヒュルケンベルグのラストレースは昨年末のアブダビGPであり、レース数で言えばブランクは3戦に過ぎなかった。

レーシングポイントRP20に乗り込むニコ・ヒュルケンベルグ、2020年F1イギリスGP
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スペインから急遽英国へ…24時間のドタバタ劇

サフナウアーからの電話があった際、ヒュルケンベルグはスペインのマヨルカ島に滞在していたが、ドイツ放送局RTLでの解説の仕事とGT4マシンでのテスト走行のために、ドイツ・ニュルブルクリンクに移動している最中であった事を明かしている。FP1の開始までは24時間を切っていた。

電話を受け数時間で飛行機に飛び乗ったヒュルケンベルグは、空港に到着すると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検査を受け、その足でシート合わせのためにシルバーストン・サーキットの脇にあるレーシングポイントのファクトリーへと向かった。幸運な事にシューズはストロールのものがピッタリだったようで、レーシングスーツ等の手配も無事に済んだ。

当初はFP1開始の3時間前、午前8時にサーキットに到着。後任の正式発表が行われる予定であったが、ヒュルケンベルグの姿はどこにも見当たらなかった。それは当日の朝に再び別の検査を受け、その結果を待っていたためであった。F1と国際自動車連盟(FIA)は、パドックへの立ち入りに際して検査を義務付けており、陰性でない限りは立ち入りが認められていない。

数時間の待ち時間を経て、テストセンターから陰性であることが確認された紙が渡されると、ヒュルケンベルグはパドックに駆け込み、オーバーオールを手にしてガレージに向かった。

チーム側からヒュルケンベルグ起用の正式発表があったのは、FP1の開始直後のことであった。サフナウアーは、全ての手続を終えて出走を確定させたのは「(FP1開始の)僅か10分前」であったと明かした。

「限られた時間にやるべき事がたくさんあった。昨日の午後2時20分に(ペレスが陽性であるという)確定結果が出たので、その時点から我々はヒュルケンベルグに接触し、同意を取り付けなければならなかった。彼はやる気に満ちていたから、(同意を得るのは)さほど難しいことではなかった」

「問題の一つは、彼をイギリスに連れて行き、ウイルスに感染していないことを確認するプロセスを経なければならなかった事だ。確認には予想以上の時間が掛かってしまった」

「それに、CRB(契約認証委員会)を通してスーパーライセンスを取得する必要もあったし、他にも幾つかの事が必要だったが、何とか全てを終わらせる事ができた」

「クルマとステアリング操作について理解してもらう必要もあったため、今朝は45分間に渡ってシミュレーションで準備に取り組んでもらった」

母の見舞いのために帰国したペレス

どういった経緯で感染したのかは分かっていないが、母親が事故に遭い入院する事になったため、ペレスはハンガリーGPを終えてプライベートジェットで母国メキシコに帰国。2日間に渡って現地で滞在した事を明かしているが、この間もFIAのガイドラインに従って過ごしていたと説明している。

何よりも懸念されるのは容態だが、サフナウアーは今のところはペレスには目立った症状もなく健康状態に問題はないと説明する。

「特に症状もなく元気だし、(健康状態に関しては)全く問題ないと感じている。我々は日々の彼の健康状態と状況を監視していく。医師に彼の事を診てもらっている」

「今は隔離されているが、時間が経てばウイルスは消滅していくだろう。隔離は7日か10日続くと思う。今はモーターホームからアパートに移動し、隔離されている」

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