1点を巡るレッドブル身内争いの経緯と実際…徹底無視のフェルスタッペン、許可得たペレス
F1第2戦サウジアラビアGPでの終盤、その圧倒的リードとは裏腹に先頭を走るセルジオ・ペレスとマックス・フェルスタッペンのレッドブル勢は熾烈な争いを繰り広げていた。ライバルと、ではなく身内同士で。
ルイス・ハミルトン(メルセデス)をして今年のレッドブルRB19は、かつて自身が支配的な強さを誇った数年前のシルバーアローよりも遥かに速い。ジェッダでの50周のレースは折り返しを経て、レッドブルの1-2はほぼ確定的だった。トラブルさえなければ。
最速合戦の最中に信頼性懸念
先頭に立つフェルスタッペンと2番手からの逆転を狙うフェルスタッペン。25周目以降、2人は相手のラップタイムとギャップを常に互いのレースエンジニアから仕入れ、相互にファステストを連発しながら3番手フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)以降に途方もないギャップを築いていった。
ピットウォールに緊張が走ったのは36周目だった。データ上では何も問題はなかったが、フェルスタッペンは「異音がする」「何か変だ」とドライブシャフトの異常を報告した。全く同じ周、ペレスも「リアから振動が出始めている」とレポートした。
前日の予選ではドライブシャフトの破損によりフェルスタッペンがQ2敗退を余儀なくされた。また今週末は2台がともにギアボックスを交換。早くも今季2セット目となるGBX C&C(ケース及びカセット)およびGBX DL(駆動系、ギアチェンジ、補助コンポーネント)を開封していた。
だんまりを決め込んだフェルスタッペン
39周目、2人はチームから1分33秒フラットのターゲットタイムを言い渡された。ペースを抑えろというわけだ。トラブルによるリタイヤのリスクが少なからずあるのであれば懸命な判断だ。
ヒュー・バードはペレスに「マックスのターゲットも同じだ」と伝え、ペレスは「了解」と答えた。その一方でフェルスタッペンは、ジャンピエロ・ランビアーゼ(GP)からの目標タイム設定に対して反応しなかった。一切だ。
GPは43周目までに「マックス、33.0だ」「確認してくれ、33.0だ」と6回に渡って、ペースを抑えてラップを刻むよう求めたものの、フェルスタッペンはダンマリだった。
この間にフェルスタッペンが返答したのは、GPからのドライブシャフトに関する追加報告を求められた時の1回のみで「まだ続いてる」とだけ返した。徹底的に無視を決め込み、32秒台を刻み続けた。
そして残り5周、ようやく口を開いたかと思うと「最速ラップは幾つ?」と尋ねた。GPは「マックス、それはどうでも良いから」と返すも「僕にとってはそうじゃない」と続け、GPから「分かったよ。32秒1だ」との答えを引き出した。
一方のペレスは、バードのギャップ報告からフェルスタッペンが32秒台で周回してる事を知り、同じように32秒台でラップを刻んだ。
フェルスタッペンがターゲットを下回っていることに対してペレスは「なんで僕らはプッシュし合ってんのさ?」「なんで僕に33秒って言うんだよ?」と重ねて疑問を呈し、この状況でチームメイト同士で競い合うのは「無意味」だと指摘した。
プッシュは許可したとホーナー
2人が互いを強く意識しあっていたのは、ファステストラップの有無がランキングの1位と2位を分ける事が分かっていたからだ。
結局、ファイナルラップにフェルスタッペンが1分31秒906をマークして、ペレスが持つ記録をコンマ3秒塗り替え1点を奪い去った。ペレスは残り1周で選手権リーダーの座から引きずり落とされた。
レース後にフェルスタッペンは、タイトル争いを考えればファイナルを狙うのは当然だと主張。ペレスは、自身とフェルスタッペンに対するチームからの指示内容が違っていたとして「プッシュすることができなかった」と述べ、レッドブルに説明と見直しを要求した。
これについてチーム代表のクリスチャン・ホーナーは、両ドライバーにファステストを狙う自由を与えていたとした上で、ペレスもまたタイム更新に挑んだものの、最初の数コーナーで「コンマ15秒」遅れたために「手を引いた」のだと説明した。
両者に対するプッシュ許可の実際
フェルスタッペンに関しては「プッシュしても良い」との明確な許可はチームから出ていない。ただファステストの数字についてのフェルスタッペンから問いかけに対してGPが「分かったよ。32秒1だ」と返答した事が、事実上の許可に該当したと言えそうだ。
ペレスは「プッシュできなかった」としているが、それは42周目までのことだった。43周目にバードは「プッシュしていいよ。プッシュし放題だ」と伝えている。つまりペレスが説明を求めているのは最初に指示が出た直後の状況についてだと言える。
トップチェッカーを受けたペレスは無線でホーナーからの祝福を受け取った後、バードに対して「結局、ファステストラップは取れたの?」と投げかけた。
バードは「最終ラップで持っていかれたよ」と答え、ペレスは「はは、最高だね」と返し「よし、みんな楽しもう!よくやってくれた。誰にとっても本当に厳しい週末だった。今は取り敢えず楽しもう」と続けた。