
「給電所」と化した鈴鹿の聖地。F1新規則修正のシナリオと、立ち塞がる利害…マックス翻意への険しい道
F1第3戦日本GPを経て、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が、今季末限りでF1を去ることを検討していると認めたことで、現在の2026年の新たなF1レギュレーションが抱える問題点が改めて注目を集めている。
これは、フェルスタッペン一人の去就にとどまる話ではない。問題を指摘する現役ドライバーは多く、新たな規則は予選の魅力を損ない、決勝では危険な速度差を生みかねない構造的な課題を抱えている。
4年連続のF1王者は一貫して、新たなパワーユニット(PU)規則が要求する走り方に強い嫌悪感を示してきた。ICE(内燃エンジン)と電動出力の比率がほぼ半々となり、エネルギーマネジメントの比重が増したことで、ドライバーに本来求められるべき走りが姿を消してしまったと考えている。
もっとも、批判ばかりではなく、一部のチーム代表やF1首脳陣の間には、新たなルールがレースの見応えを高めているとの見方もある。だが鈴鹿では、そうした評価だけでは済まされない問題が表面化した。
失われた挑戦~高速コーナーが「充電ステーション」に
Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.
鈴鹿サーキットのS字セクションを駆け抜けるカルロス・サインツ(ウィリアムズ)、2026年3月29日(日) F1日本GP決勝
現行ルールへの不満として、まず問題視されてきたのが予選だった。高速コーナーでエネルギーを回生する必要があるため、ドライバーは本来であれば全開で飛び込む区間でも速度を落とさざるを得ない。
その結果、鈴鹿のような高速サーキットでは、例えばS字やデグナー、スプーンカーブ、130Rといったドライバーの腕が最も問われるはずの象徴的なコーナー群が、以前とは異なる意味を持ち始めた。限界を攻めて速く走る場所ではなく、バッテリーを充電する場所へと変わってしまった、というわけだ。
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン・ホンダ)は、鈴鹿がかつて持ち合わせていた挑戦性はもはや失われたと語った。高速コーナーがマシンの「充電ステーション」になっている以上、ドライバーの技量が前面に出にくくなっている、という批判だ。
また、アレックス・アルボン(ウィリアムズ)は、「今や基本的に全てのコーナーが中速になってしまった」と嘆き、現行規則によって鈴鹿は「真の高速コーナー」を失ったとの認識を示した。
F1にとって予選は、ドライバーが限界を引き出す瞬間を見せる場として機能してきた側面がある。だが、仮にその価値が薄れているとすれば、競技の魅力そのものに関わる問題となる。
ベアマンの50Gクラッシュで露呈した危険な速度差
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鈴鹿サーキットのスプーンカーブでバリアに激突したオリバー・ベアマン(ハース)、2026年3月29日 F1日本GP決勝レース (1)
日本GPの決勝では、より深刻な問題も浮かび上がった。オリバー・ベアマン(ハース)がスプーンカーブで50Gの衝撃を伴う大クラッシュを喫した一件だ。
この事故の背景には、45km/hに達する速度差があったとされる。前方のフランコ・コラピント(アルピーヌ)と、電力の使い方が異なる後続ベアマンとの間に極端な速度差が生まれたことで、危険な状況が一気に現実化した。
カルロス・サインツ(ウィリアムズ)は、ドライバーの立場から見れば、この水準の速度差が生まれる状況は「レースとは言えない」と指摘した。オスカー・ピアストリ(マクラーレン)も、「特に安全面に関しては、かなり早急に見直さなければならないことがいくつかある」と認めた。
つまり今のF1は、予選では攻めるドライビングの質を下げ、決勝では安全面の懸念まで抱え込んでいることになる。しかも、その二つはいずれもエネルギーマネジメントを中心に据えたルール設計から派生した問題だ。
一筋縄ではいかない修正~どこかを直せば別が壊れる
では、統括団体である国際自動車連盟(FIA)とF1首脳陣には何ができるのか。議論の一つになっているのが、スーパークリッピングと呼ばれる新たな走法に関わるパラメーターの調整だ。
これは、エンジン全開での走行中にエネルギー回生を行うものだ。現在はこの際の回生上限として250kWが設定されているが、これを350kWまで引き上げる案が浮上している。
その狙いは、リフト&コーストの必要性を低減することにある。ストレートでアクセルを戻して回生するこの走り方は、当然に減速を伴い、その結果としてリフト&コーストをせずブーストボタンを押している他車との速度差を拡大させる。
スーパークリッピングによる回生量が増加すれば、リフト&コーストの必要性が減少する、という理屈だ。
Courtesy Of McLaren
鈴鹿サーキットの220R(ターン12)を首位で通過するオスカー・ピアストリ(マクラーレン)、2026年3月29日(日) F1日本GP決勝
規則変更に関する議論の難しい点の一つは、あまりにも複雑な現行規則の根幹にエネルギーマネジメントが深く組み込まれているため、一つを改善しようとすると、別の部分で異なる問題が発生し得るという点だ。
例えば決勝での極端な速度差を抑えようとすれば、一部で肯定的に評価されている抜きつ抜かれつのバトルがスポイルされるという懸念がある。
FIAは、異なるパワーモードのマシン同士で速度差が拡大し得ることを以前から認識していた。サインツは、GPDA(F1ドライバー組合)としてこの点を警告してきたにもかかわらず、FIAとF1は新ルールによって向上したエンターテインメント性が損なわれるとして、それを無視してきたと批判している。
現在のF1は、複雑な網の目の中にある。どこか一つを修正すれば全てが良くなるという状態にはなく、予選の魅力、安全性、レースの見応えが互いに絡み合っている。
マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは、「単純な解決策が存在するとは思わない」と指摘する。だが同時に、深刻な事故が起きてからでは遅い以上、安全性の観点から先回りして手を打つ責任があるという点では、各陣営の認識はおおむね一致している。
来季の本命案と、エンジンメーカーの壁

11番手でQ2敗退を喫した後、クルマを降りてピットレーンを歩くマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の後ろ姿、2026年3月28日(土) F1日本GP予選(鈴鹿サーキット)
フェルスタッペンをF1に引き留めるには、今季中の小手先の修正だけではおそらく足りないだろう。彼が嫌っているのは規則の細部ではなく、競技全体がエネルギーマネジメント中心に構成されていることだからだ。
来季へ向けた案としては、ICEと電動出力の比率そのものを見直すというものがある。燃料流量を増やしてICEの出力を高め、現在の50対50から、60対40、あるいは70対30に近づけるという考え方だ。
これが実現すれば、ドライバーの感覚やレースの性質は大きく変わる可能性がある。フェルスタッペンのようなタイプのドライバーにとっては、より自然なF1に戻ったと感じられる余地が生まれるかもしれない。
だが、この変更にはPUメーカー間の合意が必要だ。電動出力比率の増加が参戦メーカー数の増加の一因であることを踏まえれば、これは、そう容易な話ではない。
予選の魅力、安全性、レースの見応え、そしてメーカーの利害。それらが複雑に絡み合う中、F1とFIAには春休みの5週間のうちに一定の方向性を示すことが求められている。だが、FIAは鈴鹿でのレース終了後、変更の可能性について「現時点での憶測は時期尚早」と述べている。