セバスチャン・ベッテル「その全てが好きだった」「もはや私生活との両立は難しい」史上最長のF1引退メッセージ
セバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)が35歳という若さにして偉大なるキャリアに終止符を打つ事を決めた背景には家族の存在があった。4度のF1王者は、もはやレースと私生活との両立は難しく、家族を優先させたいと説明した。
長年に渡ってSNSから距離を置いてきたベッテルは、引退発表の直前にInstagramのアカウントを取得した。その目的の1つは、自らの言葉でファンに引退を告げるためだった。
アストンマーチンからは2023年のオファーがあった。望みさえすれば現役続行は可能であったが、ベッテルはその道を選ばなかった。
ベッテルはInstagramへの初投稿となった動画の中で「レースの傍ら、家族が増えた。彼らのそばにいるのが好きなんだ。それに、F1以外の事に対する興味も大きくなっていった」と引退決断の背景について説明した。
「僕はレースとF1に対して情熱を持っているけど、それは反面、家族から離れる時間が多くなる事を意味するし、それには多くのエネルギーが必要だ」
「今まで取り組んできたような情熱を以てF1にコミットする事は、偉大な父親、そして夫でありたいという願いとはもはや両立し得なくなってきた」
「マシンやチームと一体となり、完璧を追い求めていくためには集中と献身が欠かせない」
「僕の目標は、レースに勝つことやチャンピオンシップを争うことから、子供たちの成長を見守り、価値観を伝え、苦しんでいる時には助け、必要な時に話を聞いてあげたり、さよならを言わなくて済むような環境の確保という事に変わった」
「そして何よりも重要なことは、彼らから学び、彼らにインスピレーションを与えられるようにする事だった」
「子どもたちは僕らの未来だ。更に探求し、学ぶべきことがたくさんあると感じてる。人生についても、自分自身についてもね」
ベッテルは高校時代からの付き合いであるハンナ・プラターとの間に3人の子を持つ父親だ。2014年に長女エミリーを、2015年に次女のマチルダを、そして2019年に長男を授かった。
第3子誕生から程なくしてパンデミックによる隔離を強いられた。ベッテルはこれを機に自らの人生観を見直し、近年は環境問題や同性愛者の権利など、さまざまな社会問題について自ら発言している。
プレスリリースという限られた紙面で伝えられる事は決して多くはない。ベッテルは映像の中で自身について丁寧に、時間をかけて説明することで、引退の背景にあるものを伝えようとした。かつてこれほど長い引退発表メッセージがあっただろうか。
「僕はこのスポーツを愛してる。物心がついた時から僕の人生の中心を成してきた。だたそれと同じくらい、サーキットの外での人生も大切だ」
「レーシングドライバーであることが唯一のアイデンティティであったことは一度もない」
「アイデンティティというのものについて僕は、自分が何をするかという事より、自分が何者であるか、そして他人にどう接するかによって確立するものだと思ってる」
「僕はどんな人間なのだろうか? 僕は3人の子どもの父親であり、素晴らしい女性の夫であるセバスチャンだ。僕は好奇心が旺盛で、情熱的な人や熟練した人にすぐに魅了されてしまうところがある。完璧を求める傾向もある」
「それに寛容で、見た目がどうであれ、どこで生まれ、誰を愛していたとしても、誰もが同じように生きる権利を持っていると考えている」
「アウトドア好きで、自然とその驚異が大好きだ。頑固でせっかちだし、凄く苛立ったりもする。人を笑わせるのが好きだ。チョコレートと焼きたてパンの香りが好きだ。好きな色は青色だ」
「変化と進歩というものを信じている。どんなに小さな事であっても変化をもたらせると信じている。僕は楽観主義者で、人間というものが素晴らしいものだと信じてる」
「未来に関して言えば、僕らは本当に非常に決定的な時代に生きていると感じてる。この先の数年間をどのように過ごすかが、僕らの人生を左右する事になるだろう」
「僕が情熱を注ぐ対象には、ある種の嫌悪感を覚えるものもある。将来的に解決されるかもしれないけど、変えようという意思をより強く以て、今日の行動に繋げていかなければならない」
「話し合うだけでは不十分で、待つ余裕もない。そして代替案もない。レースは既に始まっている」
「僕のベストレースはどれか? まだこれからだと思ってる。僕は前へ前へと進むことを信じている。時間は一方通行であって、僕は時代と共に歩みたい」
「過去を振り返っても遅くなるだけだ。未知のコースで新しいチャレンジができることを楽しみにしている」
「僕がコースに残した跡は時間と雨によって洗い流されるまでは残る事になる。そしてその後、新たな痕跡が残される」
「明日は今日を創る人たちのものだ。素晴らしいことに次のコーナーには既に新しい世代が控えている。僕はまだ、勝てるレースがあると信じてる」
「さようなら。サーキットを共にできて感謝してる。僕はその全てが好きだった」