フェラーリのシャルル・ルクレールと話をするセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)、2022年7月28日F1ハンガリーGP
Courtesy Of Ferrari S.p.A.

悪口を言う奴なんていない…引退を惜しむ12名の言葉から浮かび上がるセバスチャン・ベッテルの人物像

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引退を惜しむグリッド上の仲間たちの発言は、セバスチャン・ベッテルの人物像を克明に浮かび上がらせるものだった。4度のF1王者は速く、強く、偉大なドライバーというだけでなく、一人の人間として尊敬に足る男だった。

ベッテルは1週間前のフランスGPの際に、来季以降のF1継続に向けて初めて意欲を示した。ところがハンガリーGPの開幕を翌日に控えた28日(木)、今シーズン限りで引退を発表した。

引退発表を経てハンガロリンクでファンの前に姿を見せたセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)、2022年7月28日F1ハンガリーGPCourtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

引退発表を経てハンガロリンクでファンの前に姿を見せたセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)、2022年7月28日F1ハンガリーGP

決断のタイミングについて、ベッテルは発表の前日だと明かしつつも、長期に渡る熟慮の結果だと説明した。

引退発表後に行われたハンガリーGPのメディアセッションでの質問は、今年11月のアブダビGPで15年に渡るキャリアに幕を下ろすベッテルに関するものが大半を占めた。

レッドブルドライバーの後輩としてF1デビューしたカルロス・サインツ(フェラーリ)の発言はベッテルに対する尊敬の念が溢れるものだった。

「彼は僕にとって、F1に参戦する前から素晴らしいロールモデルだった。彼がレッドブルで絶頂期を迎えて選手権を連覇していていた際、僕はシミュレータードライバーになる特権を与えられた」とサインツ。

「そこで僕は彼が如何にプロフェッショナルであるかを目の当たりにする事になった」

「彼のようにF1ドライバーとして成功するためにはどのように振る舞う必要があるのか、またどうあるべきなのかについて、本当に素晴らしい洞察を与えてくれた」

「あの頃の事は良く覚えてるよ。彼はいつだって僕に親切な言葉をかけてくれた。立ち止まって雑談し、アドバイスをしてくれた」

「パドックの誰もが彼を愛してる。セブの悪口を言うやつなんていない」

「彼はドライバーとしてだけでなく、一人の人間として人生を歩んでいる。彼がいなくなるのは寂しいけど、将来的に彼がパドックに戻ってきて、最近彼が声高に主張している幾つかの分野でF1の発展に貢献してくれたらなって思ってる」

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GPDAディレクターとして共に活動するジョージ・ラッセル(メルセデス)は「創造性溢れる本当に謙虚な人だと思う。カルロスが言っていたように、セブのことを悪く言う人なんて誰もいない」とサインツに同意した。

かつてのタイトル争いのライバル、ルイス・ハミルトン(メルセデス)は、反人種差別運動などで自身に寄り添ってくれたベッテルは「孤独ではないと感じさせてくれた数少ない人の1人」だと語った。

ベッテルは2017年のアゼルバイジャンGPでのセーフティカー先導中にハミルトンに衝突。また、2019年のカナダGPではトラック・リミットによりハミルトンに勝利を奪われたことに激昂するなど、コース上ではしばしば熱くなる場面もあったが、両者は良いライバル関係を築いてきた。

「レースという面では兎に角、信じられないほど速かった。それに本当に知的で、非常に優れたエンジニアでもあり、その走りは本当に正確だった」

「また、ミスで他人を責めたりしない人でもあった。いつだって自ら手を挙げて、自分のせいだと認める事ができる人だった。僕はそれをずっと立派だなと思ってきた」

「若い頃は、立ち止まってお互いに自分の人生や何かについて話す時間はなかったけど、次第に顔を合わせるようになってきて、お互いが信じるもののために勇敢な一歩を踏み出すようになった」

「互いに支え合ってきたんだ。彼は僕を支えてくれたし、僕も彼を支えてきたんだと思いたい。僕らは単にドライビングに対する情熱だけでなく、多くの共通点があることに気づくようになった」

「彼が僕にとって、過去から現在に至るまでここにいる他のドライバーの誰とも全く違う理由はそこにあるんだと思う」

「この先も友達であり続けられたら嬉しい」

エステバン・オコン(アルピーヌ)はつい2週間前に、将来の計画を含めてベッテルと個人的に話をした事を明かし「引退するなんて思ってもみなかった」「本当に悲しい」と語った。

また「僕らの安全に関わる懸念があった時や、彼自身、そして全てのドライバーに対して好ましくないと思う問題があった際に声を挙げる人だったから、その意味で僕としては、引退してもあまりパドックから遠く離れないで欲しいと思ってる」と述べた。

バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)はそのフェアなドライビングを称賛した。

「彼と競う合うのはいつだって本当に楽しかった。ハードなレースをする一方でフェアだし、尊敬の念を忘れることがないドライバーだった」

「加えて知っての通り兎に角、ナイスガイだし、発言する事を恐れないドライバーでもあった。本当にカッコよかった。それに正しい事のためにプラットフォームを使う人でもあった。尊敬するよ」

ランス・ストロール(アストンマーチン)は「素晴らしいチームメイト」で「極めてプロ意識が高く、クルマの技術的な側面に関する理解も素晴らしい」とした上で、ベッテルが引退した後はチーム内で行われるセッション後の報告会が短くなるだろうと冗談を飛ばした。

フェラーリ時代のチームメイト、シャルル・ルクレールは「悲しい。本当に悲しい。パドックで彼に会えなくなると変な感じがするだろうね」と語った。

「一緒に仕事をしていた最初の頃、セブにどうして常にノートを持ち歩いているのかって尋ねた事があるんだ。今では僕もノートを持って、彼と同じようにメモを取っている」

「共にドライブすることで多くのことを学んだし、彼はいつも僕にとてもよくしてくれた。会えなくなるのは間違いなく寂しい事だけど、彼の成功を願っている」

会見で同席したシャルル・ルクレール(アルファロメオ)とセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)、2018年5月23日F1モナコGPCourtesy Of Alfa Romeo Racing

会見で同席したシャルル・ルクレール(アルファロメオ)とセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)、2018年5月23日F1モナコGP

ダニエル・リカルド(マクラーレン)とケビン・マグヌッセン(ハース)はベッテルを「このスポーツにおける伝説」と称した。マグヌッセンはまた、「F1デビューする以前に心から尊敬し、インスピレーションを受けていたドライバー」だと付け加えた。

アレックス・アルボン(ウィリアムズ)は「コース外でもコース内でも先端を行く数少ない複数回の世界チャンピオン」であり、F1外での活動の全てが「本当に印象的で刺激的」だとして「今後何をするのか非常に興味があるし、Instagramのアカウントを取ったって聞いたからフォローしなくちゃ」と続けた。

ランド・ノリス(マクラーレン)は「一人の人間として、そして男として、セブがどれだけ優れた人物かを十分に知っている人は多くないと思う」と語った。

「モラルから、性格から、何もかもに関してもね。彼は何事につけても本当に素晴らしく、仕事に対して本当に情熱的なんだ」

「どういうわけか、人々は時々、彼を悪く描く事があるけど、彼を知っている側からすれば全く理解できない話さ。今の世の中はそういうものなんだろうけど、狂ってるよね」

「いつだっておしゃべりに付き合ってくれるし助けてくれたりする。僕がF1に参戦してからのここ数年は、以前よりそういう傾向が強いのかもしれない」

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、家族との時間を増やしたいとするベッテルの決断は完全に理解できるもので、尊重すべき事だと語った。

「引退を決断したのは十分に理解できる。つまり、何度も勝利を挙げ、何度もチャンピオンシップを制してきたわけで、彼は既に素晴らしいキャリアを歩んできたと思うんだ」

「誰もが歳を取り、いつかは引退していく事になる。そういう瞬間が訪れるのは無論、決して良いものじゃないし、特にセブのファンにとってはそうだろうと思う。でもこれは避けようがない」

「F1というのは人生の中で僅かなひと時だし、彼は既にあらゆる事を成し遂げるために懸命に働いてきたわけだから、家族と共に人生を歩むっていう決断は尊重すべき事だと思うし、楽しんで欲しいと思ってる」

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