角田裕毅を高く評価するレッドブル・ホンダは新星ジョージ・ラッセルを狙っていない
かねてよりパドックで高い評価を受けていたジョージ・ラッセルは、予期せぬ形で突如巡ってきたチャンスを活かし、その能力を遺憾なく発揮した。サクヒールで何よりも驚異的だったのは、自身よりも小柄なルイス・ハミルトン用に最適化された彼にとって”狭すぎる”コックピットにその長身を押し込みながらも、ミスらしいミスを一切せずにチームメイトに引けを取らないパフォーマンスを発揮した事だった。
ハミルトンの代役としてサクヒールGPでメルセデスW11を駆ったラッセルは、予選でポールから1000分の56秒差の2番手に付けると、決勝ではスタート直後にポールシッターの僚友バルテリ・ボッタスをオーバーテイク。F1での2年目を過ごす22歳のイギリス人ドライバーはその後、ベテランのような走りでレースをリードし続けていたが、2度のタイヤトラブルによって初優勝を奪われ9位に終わった。
裏には壮絶な努力があった。狭すぎるコックピットに座るがゆえに肩や膝に打撲を抱えながらも、ウィリアムズのそれとは異なる仕様とボタン配置に慣れるため、ホテルの部屋にステアリングを持ち帰り100回以上に渡って人知れず練習を繰り返していた。
確かにバーレーンでのボッタスは、本人の言葉を借りれば外部から「能なし」に見えたかもしれない。実際、ボッタスとラッセルとの交代を期待する声が高まった事は確かだろう。しかしながらメルセデスのトト・ウォルフ代表は、ラッセルとウィリアムズとの契約に触れた上で「現実的ではない」と述べ、来季のラッセルの起用の可能性を否定した。
ラッセルが並外れた仕事をやってのけた事に議論の余地はないだろうが、それは必ずしもボッタスよりメルセデスに相応しいという事を意味しない。ボッタスはハミルトンを上手く援護しており、チームはこれまでのところ上手く機能している。問題は来季ダブルタイトル8連覇を狙うメルセデスにとって、そうする価値があるかどうかだ。
とは言え、ラッセルをこのままウィリアムズに残し続けるのは才能の浪費であり、そうなればライバルチームが黙って指を加え続けるはずもなく、必ずや触手を伸ばしてくる事だろう。だが、そこにレッドブル・ホンダは含まれていない。
レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコはF1-Insiderとのインタビューの中で「ラッセルは我々の関心事ではない」として獲得の可能性を否定。その理由としてラッセルがメルセデスのドライバーである事と、トト・ウォルフがマネジメントを担当している事を挙げ「ちなみに彼は以前、トトとの間で10年契約を結んでいると話していた」と付け加えた。
10年とは驚きだが、投資家として有能なウォルフであれば十分有り得そうな話だ。
いずれにせよ、ラッセルがレッドブル・ホンダに加わる可能性は皆無と言えそうだが、それは何もラッセルが契約で縛られているからというだけではない。
ヘルムート・マルコは「我々には既に才能ある若手ドライバーがおり、彼らを更に成長させたいと思っている」と述べ、従来の通り、あくまでも若手育成プログラムにこだわる姿勢を強調した。
ジュニアドライバーの注目株と言えば、来季アルファタウリ・ホンダでのデビューが予想される角田裕毅だ。ヘルムート・マルコは日本期待の若手ドライバーを高く評価しており「ユウキは非常に速くて才能があるだけでなく、とても面白くておおらかな性格をしている」と述べ、レッドブルに最適な人材だと説明した。どうやらアルファタウリで最低1年に渡って経験を積ませた後に、フェルスタッペンのチームメイトとしてレッドブルに昇格させる事を計画しているようだ。
なおレッドブルが来季フェルスタッペンのチームメイトとして検討しているのは、現在ステアリングを握っているアレックス・アルボンとセルジオ・ペレス、そしてニコ・ヒュルケンベルグの3名と考えられている。
ペレスはサクヒールGPで初優勝を飾り、来季レッドブル・ホンダへの移籍を望むファンの声が強まっているが、ヘルムート・マルコは「セルジオの勝利は我々の決断に何の影響もない。候補者達の長所と短所は既に把握している」と述べた。チームは最終アブダビGP後に最終検討を行うとしており、年内には来季ラインナップが明らかにされるものと見られる。