F1新車解説:フェラーリの2022年型「F1-75」水溜り必至?の独創的なサイドポッド上面
シャルル・ルクレールとカルロス・サインツが駆るスクーデリア・フェラーリの68代目となる最新シングルシーター「F1-75」が2月17日(木)にワールドプレミアとなった。フェラーリ・スタイル・センターが特別に開発した新色の赤に黒を組み合わせたカラーリングが精悍な印象を与える。シャシー名の「F1-75」は創業75周年を称えるものだ。
ショーカー発表のレッドブルはさておき、これまでにアストンマーチン「AMR22」、マクラーレン「MCL36」、ハース「VF-22」、アルファタウリ「AT03」、ウィリアムズ「FW44」の5台が新しい空力レギュレーションに対する解答を披露しているが、それらのアプローチは昨季終了時の各マシン間とは比べ物にならない程に大きく異っている。
迎えた新車発表6チーム目となるフェラーリもまた、ライバル5台とは異る独創的なマシンを作り上げてきた。1つの規定に関してこれほど多くのバリエーションが見られるとは、なんとエキサイティングなプレシーズンだろうか。
外観上の最も大きな違いはサイドポッド周りだ。これはホイールベースが最大3600mmと短くなり、フロア前方にベンチュリートンネルが設けられた事で、冷却システムを収めるための空間が大きく制限された事による影響だが、跳馬もまたこの注目のエリアで独特の解釈を提示している。駆け足でF1-75の特徴を見ていきたい。
特徴的なロアーノーズは2枚目のエレメントの中央部分から先端に向けてすぼまる形状で、跳馬のエンブレムの下部には下向きの三角形の穴が設けられている。アストンマーチン「AMR22」も同様の給気口を備えている。
規定上限の4枚構成となっている各エレメントの間は狭く、マクラーレンやアストンマーチンとは異なり、メインプレーンは2枚目に吊り下げられる形ではなくノーズと一体だ。
「MAHLE」のロゴのすぐ上に接合部が確認できる。フロントウイングは通常、ノーズ全体を含めた一体型だが、フェラーリは分割式になっているようだ。
サスペンションはアストン、アルファタウリ、ウィリアムズと同じく、フロントにプッシュロッド、リアにプルロッドを採用した。
マシン | フロント | リア |
---|---|---|
フェラーリ「F1-75」 | プッシュロッド | プルロッド |
アルファタウリ「AT03」 | プッシュロッド | プルロッド |
マクラーレン「MCL36」 | プルロッド | プッシュロッド |
アストンマーチン「AMR22」 | プッシュロッド | プルロッド |
アルファロメオ「C42」 | プッシュロッド | プッシュロッド |
ウィリアムズ「FW44」 | プッシュロッド | プルロッド |
サイドポッドの開口部はこれまでに見た中で最も横長で、上下方向の長さは短く、同じパワーユニットを搭載するハースVF-22との共通点は一切ない。
ラジエーターの吸気口は横から見て「くの字」型に前方に飛び出した上下のエレメントで囲われ、下部はベンチュリートンネルのフォルムに沿うように湾曲しアンダーカットが設けられているものの、VF-22のように緩やかにリアに向かって続くのではなく、ちょうどシェルのロゴマークの部分で消滅している。
エアロ全体が複雑な曲線で構成されている中、サイドポッドの側面は垂直にせり立っている。ダミーかと思わせる程に唐突な印象だ。そしてリアに向けてルーバーの切れ込みが消える辺りで再びアンダーカットを作り出している。
VF-21とは異なり、サイドポッドの側面はリアに向けて急激に傾斜せず、高さを保ったまま緩やかに下降していく。
内部に格納される冷却系のレイアウト変更の煽りを受けたのだろうか。この処理は跳馬V6ハイブリッド・ターボを積んだ歴代マシンとは明らかに異る。
ただしフェラーリはF-75について「最高の空力性能を実現するために、PUと関連パーツのパッケージングに特に注意を払った」としており、パワーユニット部門の責任者、エンリコ・グアルティエーリもまた「パワーユニットのレイアウトはシャシー側のニーズを最も満たすよう規定した」と述べている。
サイドポッドからアッパー・ボディーカウルにかけての上面には大きなお椀状の窪みが設けられている。ウェットレースでは水溜りができそうな程に…。このクルマの最大の特徴と言える。このエリアを流れる空気を単にディフューザー上部に送るのではなく、リアウイング直下の中央部分に流そうという意図が感じられるが、果たしてどう機能するのだろうか。
インダクションポッドを囲むロールフープ形状は小型の三角形で、丸みを帯びた先代とは大きく異なっているものの、脇に整流フィンが設けられているところは共通している。ヘイローの上にも羽が確認できる。リアビューミラーはマクラーレンとは異なり、外側を下から保持するようなデザインだ。
リアウイングは2本のパイロンで支えるツインピラーで、その中央にDRSアクチュエータが設置されている。リアに向かって絞り込まれる所謂”コークボトル”は健在だが、なだらかではなく後輪を前に急にスリム化されている。
例によってリア側の画像はなく、また、今季の主戦場たるフロアはローンチ用であろう事から、これらの詳細に関してはテストを待つ事になるものの、さまざまな解釈やアプローチが見られるのは本当に楽しいもので、これらがシーズンを通してどう変化していくのかも今季の見所の一つだろう。