F1新車解説:マクラーレンの2022年型「MCL36」アストンと対照的な空力思想、吉と出るか…常識破りのサス構成
マクラーレンの2022年型「MCL36」が公開された。サイドポッドやアンダーカット、ルーバーなど、同じメルセデス製F1パワーユニットを搭載しながらもアストンマーチン「AMR22」の冷却及び空力哲学とは対照的で、それがパフォーマンスにどう影響するか本当にワクワクする。
カラーリングに関しては昨年のモナコGPで好評を博したガルフ・トリビュート仕様を踏襲し、パパイヤオレンジにスカイブルーを組み合わせたデザインを採用したが、注目はリバリーよりも復権に向けた攻めの姿勢が表れるMCL36そのものに向けられる。
4チーム目の発表ながらも、実車公開に踏み切ったのはアストンマーチンを含めて2チームのみ。ここでは適時、AMR22との比較しながら駆け足でファーストインプレッションをお届けしたい。
サスペンション
マクラーレンは「MCL36」でフロントにプルロッド、リアにプッシュロッドという異例の組み合わせを採用した。近年のF1としては常識破りと言えるだろう。
2010年以降は全車がリアサスペンションにプルロッド式を採用してきた。フロントのプルロッド採用は2015年のフェラーリ「SF15-T」にまで遡る。
マクラーレンは2013年の「MP4-28」でプルロッドを採用するも、V6ハイブリッド・ターボ導入に伴い僅か1年で取り止めた。
テクニカル・ディレクターのジェームス・キーが「サスペンションのレイアウトはすべてエアロダイナミクスのため」と語るように、フロアがフラットボトムから2段構成のベンチュリートンネルへと変更された2022年の新たな空力規制への解釈として実に興味深い選択だ。
実際のRB18とは無関係と思われるレッドブルはさておき、ハースVF-22とアストンマーチンAMR22はいずれも、前にプッシュロッド、後にプルロッドという伝統的なレイアウトを維持している。
この意表を突くサスペンション構成についてキーは「メカニズム的に難しい」ため、設計に際しては多くの時間を費やしたと認めつつも「期待通りに機能すると大いに自信を持っている」と主張した。
両形式の選択はエアロダイナミクスと重心という2つの観点でのトレードオフとなる。果たしてどう転ぶのだろうか?
フロントウイング
フロントウイングはAMR22と同じ様に、1枚目のエレメントとノーズとが一体形成ではなく2枚目に吊り下げられる形で、ノーズの先端と1枚目との間には空間が設けられている。
また左図のようにフラップとエンドプレートとの間には奇妙な段差が設けられている。渦を発生させて前輪の乱流を車体外側へと追いやる狙いがありそうだ。翼端板は上部が外側に傾斜している。
フラップを調整するためのアジャスターはAMR22がノーズに沿うように内側に配置されていたのに対し、MCL36ではエンドプレート側に置かれている。
ノーズは超がつくほどスリムだ。クラッシュテスト通過は簡単ではなかっただろう。ダクトはかなりコンパクトに見受けられるが、フロントブレーキ周りはどうもハッキリしない。
サイドポッド
サイドポッドのインレットはAMR22と同じ様に非常に狭い。対照的に、テールエンドへと向かうボディーワークは絞り込まれており、こちらはハースVF-22や先代型と同じ方向性だ。
ただし、AMR22のラジエーター給気口は四角い形状で平面的であったのに対し、MCL36はモノコック側から外側後方に向けて湾曲した立体的なもので、また、下面よりも上面の方が車両前側に出た形となっている。
加えてAMR22は、給気口が車両前側に突き出るような形で下に空間が設けられていたのに対し、MCL36は若干リア側に傾斜した角度で垂直に降ろされた後、フロアに接続されている。
バージボード亡き後の前輪後方に位置するターニングベーンは、ハースが2枚、アストンマーチンとマクラーレンは1枚だが、MCL36のものは角度がきつく、そしてかなり小さい。ホイールベースはAMR22よりもかなり長そうに見える。
エンジンカバー
昨年同様マクラーレンは、メルセデス製PUのプレナム干渉対策として、”セクシーな膨らみ”を設けるよりもエンジンカバーのフォルムに重点を置いた。上面のルーバー(排熱孔)もないのもAMR22と対照的だ。
インダクションポッド、コックピット
当然の事ながら同じメルセデス製F1パワーユニット搭載のAMR22と似ており、先代型と比べても大きな変化はない。真正面のアングルでないと判別しづらいが、ロールフープの下部にも吸気口のようなものが確認できる。
コックピット周りには幾つかのディフレクター(整流板)が取り付けられている。ウィングミラーはAMR22やショーカーよりも遥かに曲線的で、ミラー部を保持するようなサポートがない。
「VELO」のロゴの「L」の部分には僅かに膨らみのようなものが確認できる。サイドインパクト構造だろうか。
リアウィング
ピラーは1本。DRSアクチュエーターは中央に取り付けられている。アストンマーチン同様、車体後部の写真はなく、ビームウイングの構成やディフューザーの詳細は分からない。肝となるフロアと当該エリアの真の姿はバルセロナテストを待つ他ないだろう。