2018年仕様のホンダ製F1パワーユニットRA618H
Courtesy Of Honda

信頼性に不安…ホンダの”スペック3改”エンジンは、北米エルマノス・ロドリゲスの洗礼に耐えられるか?

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「メキシコGPの舞台であるエルマノス・ロドリゲス・サーキットは、標高2200mを超える環境にあるため空気が薄く、パワーユニット及びシャシーともにエンジニアリングの観点で特殊な対応が必要なサーキットです」

1965年にホンダがF1で初優勝を上げたメキシコでの週末に先立って、ホンダF1の現場統括責任者を務める田辺豊治テクニカル・ディレクターはエルマノス・ロドリゲスにおける技術的課題をこう説明する。

信頼性を揺さぶるエルマノス・ロドリゲス

標高約2300mの高地に位置するエルマノス・ロドリゲスは、海抜0メートル地点と比べると空気が22%も薄く、エンジン性能や空力特性をはじめマシン全体に大きな影響を及ぼすコースとして知られる。

空気量の少なさは、冷却で使用できる空気が少ない事を意味する。ラジエーターのサイズ変更が禁止されているため、チームはブレーキダクトやサイドポッド前の空気吸入口の面積を拡大する事でこれに対処するが、F1メキシコGPではオーバーヒート関連のトラブルが絶えない。

「パワーユニットとしては、空気密度が低いためにターボの仕事量が増えることにより負担がかかります」と田辺。「そのため、ICEやMGU-Hに対しても通常とは異なる設定が必要となります。冷却に関しても厳しいです。もちろん、ベンチ上でこういった環境へのシミュレーションは行なっていますが、実際に現地を走った上での調整が重要となります」

エルマノス・ロドリゲス・サーキット空撮写真
上空から見たエルマノス・ロドリゲス・サーキット

特殊な環境がパワーユニットとマシン双方の信頼性を揺さぶる地、それがエルマノス・ロドリゲス・サーキット。ホンダのスペック3はこの試練に耐えられるだろうか?

耐久性に問題を抱えたスペック3

ホンダはシーズン第17戦、母国日本グランプリに今季パワーユニット「RA618H」の最新型スペック3を投入。燃料効率を改善させた新しいICEは、40馬力ものパフォーマンスアップを果たしたとされる。だが、決勝レースを走り終えたピエール・ガスリーの内燃エンジンにはダメージが発生。翌第18戦アメリカGPで予定外のエンジン交換を強いられる事になった。

クルーの手によってガレージに戻されるトロロッソ・ホンダSTR13、F1アメリカGP予選 2018年10月20日
© Getty Images / Red Bull Content Pool、クルーの手によってガレージに戻されるトロロッソ・ホンダSTR13、F1アメリカGP予選

「今回パワーユニット交換したのは仕様変更のためではなく、データなどの調整及びICEにダメージが発見されたからです」ホンダF1の副テクニカルディレクターを務める本橋正充は、鈴鹿で発生したエンジントラブルをこう振り返る。

「使ったエンジンは基本的に毎回コンディションを詳細に確認していくのですが、鈴鹿ではガスリーのエンジンに多少ダメージが見つかりました。オシレーション=ギアボックス等との共振などの影響で損傷したのです」

「PUについては、ベンチで様々な状況を想定しテストした上で投入しますが、実際のトラックでは、路面やタイヤや乗り方などで刻一刻と状況が変化します。実際に走らせて分かる事も多いため、最終的なチューニングはトラックで行うことになります」

「今回はトロロッソ側のエンジニアにも協力してもらい、オシレーションへの対策を施してきました。ギアボックスとかクラッチなどは彼らの領域なのでトータルで対応したという事です」

想定外の信頼性不足

満を持して投入されたスペック3エンジンは、残り4戦を戦い切れるだけの十分な耐久性を備えてはいなかった。交換について本橋は「時間的にタイト」であったと語っており、僅か1戦で使い物にならなくなるとは想定していなかった事を伺わせる。

「今回の交換は、チームとして今シーズン残り4戦をどう戦っていくのかということを考えての決断です。トロロッソ側とのコンセンサスも必要ですからミーティングも重ねました。この先PUにどのような懸案が出てくるかという可能性を全て探ってからの判断なので、時間的にはタイトな決断でした」

不幸中の幸いというべきか。産声を上げたばかりのスペック3は鈴鹿で悲鳴を上げはしたものの、ハートレーが使用した個体にはダメージが発生しておらず、また、ガスリーに関しても出力を抑えての走行を強いられたものの無事にチェッカーを受けている。マクラーレン・ホンダ時代に目の当たりにしたような目を覆いたくなる種類の信頼性不足とは別物と言える。

来季「RA619H」のスペック0?

ホンダは来シーズン、競合レッドブルとタッグを組み、チャンピオンシップ争いに加わる事を目標に掲げている。一歩も二歩も出遅れての参戦である以上、多少なりとも信頼性のリスクを負わずしてメルセデスやフェラーリにキャッチアップする事はできない。批判されブランドが傷つく事にトラウマを抱え、安牌を切り続けるルノーの現状を見ればそれは明らかだ。

スペック3は4レース分の耐久性を確保できればそれで良いが、来シーズンは今年と同じ21戦が開催される予定となっており、一基辺り7戦の使用に耐えうる耐久性が求められる。まずは信頼性の改良が施されたホンダの”スペック3改”がエルマノス・ロドリゲス・サーキットでのレースに耐えきれるか。そこに注目したい。

ホンダ自身はアメリカGPに持ち込んだ個体の仕様を明言しておらず、我々は便宜上”スペック3改”と呼んでいる。だが、実際には来季「RA619H」の”スペック0″と考えた方が合点がいく。出力向上が40馬力という驚異的な数値である点、及び、日本グランプリの開催期間中、GPスクエアで今季型の「RA618H」を公に展示していた事を考えると、今季型の進化版とは信じがたい。

何れにせよ、”スペック3改”が来シーズンの見据えての試験的な意味合いを持った仕様である事に疑いはなく、本気で選手権争いを目指すのであれば、今シーズンのように年間8基ものエンジンを投入している余裕はない。メキシコGPを含めた残りのレースでのホンダの信頼性に注目が集まる。

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