「もはやシルバーアローのワンツーは不可能」と語るメルセデスF1、チームオーダーの発動に言及
フェラーリがワンツー・フィニッシュを決めたF1モナコGPの決勝を終えて、3年連続のチャンピオンであるメルセデスAMGペトロナスF1チームは、もはや自分たちがレースで1位2位を独占するのは不可能な状態だと主張し、場合によってはチームオーダーを発動すると示唆した。
チームオーダーを匂わせるウォルフ
6戦を終えた現在、ドライバーズランキングの首位を走るのはフェラーリのセバスチャン・ベッテルであり、2位メルセデスのルイス・ハミルトンとは25ポイントもの差がついている。25ポイントというのは、優勝1つ分に値する大きな差だ。厳しい状況に追い込まれたチーム代表のトト・ウォルフは、モナコGPのレース後にチームオーダーの発動を示唆した。
「我々には、2人のドライバーに互いにバトルをさせ合うという指針があります。それはチームをより前へと駆り立てる事に繋がります。ですが、時にはそれが困難になる事もあるでしょう。チャンピオンシップで前に立てるのは一人だけなのですから」
メルセデスはコンストラクターズランキングでもフェラーリの後塵を拝している。フェラーリが196ポイントで首位に立っているのに対し、メルセデスは179ポイントの2位に甘んじており、その差は20ポイントに広がっている。
発動のための土壌づくり
メルセデスのチームオーダーが現実のものとなってきたのは間違いないと言える。それは、モナコGP後にウォルフが同チームの公式サイトに寄せた次のコメントにも見て取れる。
「モナコGPが行われた日曜の午後に、私は尊敬している何人かの人々と合う機会がありました。彼らは私に”敗北”について聞いてきました。私がどれほどの痛手かを話すと、皆一様に”それがモーターレースと言うものだよ”と言うのです。これは状況を的確に表現しています。2台のメルセデスがタイムシート上で一番上になることはもはや期待できません」
「苦しい状態だと言えます。我々は今年のチャンピオンシップの筆頭候補ではありません。現時点ではフェラーリです。彼らは非常に強力なパッケージを持っています。我々が彼らに勝てるチームである事を今ふたたび証明するために、挑戦する必要があります」
このように、メルセデスのボスは「状況がこれまでの3年間とは変わった」と世界に向けてアナウンスした。チームオーダー発動のための土壌作りと見て差し支えないだろう。今までのような圧勝できる状態じゃない、だからチームオーダーはやむを得ないのだ、ウォルフの言葉の裏にはその発言の意図がハッキリと見て取れる。
自チームの哲学を流布し続けてきたメルセデス
メルセデスはこれまで事ある毎に、同チームはドライバー同士のバトルを許可する哲学があると語り、それを誇らしげに喧伝してきた。彼らはphilosophy=哲学、信条という言葉を使ってこれを訴え続けてきたのだ。
多かれ少なかれ、チームオーダーというものはどのチームでも行われる。すなわち、チーム内の特定ドライバーを優先して、もう一方のドライバーに道を譲るように”命令”が下される。F1でのチャンピオンシップというものを”チーム戦”と捉えればこの決断は全く正しいが、多くのファンはドライバー同士の真剣勝負を望んでおり、共感を得るのは難しい。
F1ファンの多くはチームオーダーを望んでおらず、嫌悪感を持っている。だからこそ、メルセデスは敢えて大声で”同チームの文化”について宣伝し続けてきたのではないだろうか。ブランディングを考えれば当然だろう。
とは言え、今後のレースでもフェラーリが強さを発揮するようであれば、次のカナダやアゼルバイジャンでのポイントが、チャンピオンシップの行方を大きく左右する事になりかねない。切実な勝利を前して、”哲学”はその意味と価値を失ってしまうのだろうか?