シート合わせためにモーターホームを出るアーヴィッド・リンブラッド(レッドブル)、2025年7月3日(木) F1イギリスGPメディアデー(シルバーストン・サーキット)
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17歳の新星リンブラッド、F1初走行でレッドブルに”爪痕”―「メンタルリミット」を踏まえた走りで王者に迫る

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シルバーストン・サーキットにV6ハイブリッドのエキゾーストがこだまする中、わずか17歳の少年が世界最高峰のF1マシンを駆った。次世代のレッドブルF1ドライバー筆頭候補、アーヴィッド・リンブラッドだ。

7月4日、F1第12戦イギリスGPの金曜フリー走行1回目(FP1)で角田裕毅のマシンを託されたリンブラッドは、わずか60分のセッションでF1パドックに力強い印象を残した。4度のワールドチャンピオンであるマックス・フェルスタッペンと同じRB21をドライブし、87秒サーキットでのタイム差はわずか0.526秒──初の公式走行としては十分すぎるパフォーマンスだった。

単純比較の危険性、リンブラッドの真価

ちなみに、FP2でコースに復帰した角田は、フェルスタッペンから0.666秒遅れの15番手に終わったが、このタイムをもってリンブラッドと直接比較するのは危険だ。

そもそも、プラクティスにおけるラップタイムは、搭載燃料量、エンジンモード、気象条件、走行プログラムといった多くの要素に左右される。同一セッション内であっても比較は難しく、ましてや異なるセッション間での比較となれば、その意味はさらに薄れる。

加えて、予選・決勝に向けた準備と調整が求められるレギュラードライバーと、走行経験を積むこと自体が主目的となるジュニアドライバーでは、前提となる立場も明確に異なる。そうした背景を無視して、単純なラップタイムだけで評価を下すことは、誤った結論を導き出す危険性が高く、むしろ有害にすらなり得る。

シルバーストン・サーキットを走行するアーヴィッド・リンブラッド(レッドブル)、2025年7月4日F1イギリスGP フリー走行1Courtesy Of Red Bull Content Pool

シルバーストン・サーキットを走行するアーヴィッド・リンブラッド(レッドブル)、2025年7月4日F1イギリスGP フリー走行1

重要なのは、リンブラッドが限られた時間で充実した走行を行い、自身の能力を存分に示したという事実だ。セッションを終えたリンブラッドは次のように振り返った。

「自分では、まあまあ良かったと思ってる。クルマの感触も悪くなかったし、スピードもそこそこだった。もちろん、あと数周あればもっと良いタイムを出せたと思うけど、F1マシンに乗るのは今回が初めてだったし、走行経験もかなり限られている状況だった」

「それに、今回のシルバーストンで言えば、F1は僕が乗っているF2より13〜14秒も速いんだ。とんでもない差だよ。準備が限られていたことを含め、色んなことを踏まえれば、今日の出来にはかなり満足してる」

チーム代表も絶賛する若き才能

チーム代表のクリスチャン・ホーナーも、その走りを高く評価した。

「彼はまだ17歳という若さながら、才能溢れるドライバーだ。この難しいコースでクルマに飛び乗り、(フェルスタッペンとの差を)0.5秒に収めたのは見事だった。フィードバックも明確で的確だったし、間違いなく将来有望な逸材だ」

リンブラッドは現在、ルーキーイヤーながらもFIA-F2選手権でランキング6位と、上位を争っている注目株だ。今回のFP1出走のために、特例を使ってスーパーライセンスを取得した経緯からも、レッドブルが如何に彼を重要視しているかが窺える。

チーム代表者会見に出席するクリスチャン・ホーナー(レッドブル代表)、2025年7月4日(金) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

チーム代表者会見に出席するクリスチャン・ホーナー(レッドブル代表)、2025年7月4日(金) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)

恐れを知らない積極的なアタック

最初のアタックではフェルスタッペンから1.8秒遅れと大きく出遅れたが、2回目のアタックでは一気に0.6秒短縮。特にターン3では、ブレーキングを遅らせすぎてコースオフするほど、積極的に攻めていた。

リンブラッドは、セッションを通して全力でプッシュし続けていたと明かしたが、同時に自身の「プッシュレベル」はF1の水準にはまだ遠く及ばないため、たとえ攻めすぎたとしても、マシンの限界を超えてクラッシュするような危険はなかったと説明した。

「今のF1マシンは、僕が普段ドライブしているF2とはまるで次元が違う。だから、マシンの限界に達する前に、自分自身の“メンタルリミット”の方が先に来ると思ったんだ。つまり、どれだけ攻めても常にマージンがある状態。そう考えたからこそ、とにかく思いきりプッシュし続けたんだよ」とリンブラッドは明かした。

データが示す内容も興味深い。ラップ前半のセクターでは、フェルスタッペンに対してわずか0.1秒差。タイムを失ったのは、主に度胸が問われるコプス、ベケッツ、チャペルの高速セクション、そして最終の低速セクションだった。

レースエンジニアのリチャード・ウッドと話をするアーヴィッド・リンブラッド(レッドブル・レーシング)、2025年7月4日F1イギリスGP フリー走行1(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

レースエンジニアのリチャード・ウッドと話をするアーヴィッド・リンブラッド(レッドブル・レーシング)、2025年7月4日F1イギリスGP フリー走行1(シルバーストン・サーキット)

「もう一度走りたい」─F1への強い渇望

すぐにでもまたF1マシンに乗りたくなったのでは?と問いかけられたリンブラッドは「もちろん!セッションが終わった直後に早くも、もう一度走りたいと思ったくらいだからね」と笑顔を見せた。

「F2をドライブした後はなおさらだよ。酷く遅く感じてしまった。F1マシンに乗れる機会なんて、そうそうあるもんじゃない。だからその機会をもらえたことに本当に感謝してる。今はF2で結果を出して、F1に上がれるように懸命に努力していくつもりだ」

彼の言葉からは、この貴重な機会に対する感謝と同時に、F1への強い渇望がにじみ出ていた。

F1昇格争いでのリードを確実に

前戦オーストリアGPでのアレックス・ダン(マクラーレン)の鮮烈なセッションデビューほどの衝撃はなかったかもしれないが、リンブラッドの走りは確実にF1パドックに爪痕を残した。

今回の走行を経て、リンブラッドはF1昇格争いにおけるリードを確実なものにしたと言っていいだろう。レーシング・ブルズやレッドブル・レーシングの来季以降の再編が予想される中、その有力候補として名前が挙がるのは間違いない。

まだ17歳。その挑戦は始まったばかりだ。F2でのタイトル獲得、そしてF1フル参戦の実現に向けて、アーヴィッド・リンブラッドの今後から目が離せない。

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