規定とは裏腹に…ル・マンBoP「あまりにもトヨタが強かったから」競技よりエンタメを優先したと小林可夢偉
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国際自動車連盟(FIA)とフランス西部自動車クラブ(ACO)がル・マン24時間レースを前に性能調整(BoP)を実施した理由について小林可夢偉は「あまりにもトヨタが強かったから、ル・マンでレースを楽しくするため」だったと説明した。
第91回ル・マン24時間レースを前にWEC委員会は、プジョー、ヴァンウォール、グリッケンハウスの3台を除くハイパーカークラスの各車の最低重量を引き上げた。開幕3連勝を誇っていたトヨタ GR010 Hybridには全車最大となる37kgものハンデが課された。
ハイパーカー | 最低重量(kg) 変動 |
最大出力(MJ) 変動 |
トヨタGR010 Hybrid | 1080 +37 |
908 +4 |
フェラーリ499P | 1064 +24 |
901 +2 |
キャデラックV-Series.R | 1046 +11 |
904 +1 |
ポルシェ963 | 1048 +3 |
910 +0 |
プジョー9X8 | 1042 +0 |
908 +0 |
ヴァンウォール・ヴァンダーヴェル 680 | 1030 +0 |
901 +0 |
グリッケンハウス007 | 1030 +0 |
913 +0 |
レース10日前という土壇場で発表された今回のBoPについてチーム代表兼ドライバーの小林可夢偉はトヨタイムズとのインタビューの中で、主催・運営側が競技よりエンターテイメント、ショーを優先したためだと説明した。
「そもそもこのBoPが何故、行われたのかというのが分からず、まずそれを聞きに行かないといけない、ということで話をしに行ったのですが…」と小林可夢偉は語る。
「簡単に言うと、このBoP、アジャストメントを入れたのは、あまりにもトヨタが強かったから、ル・マンでレースを楽しくするため、って言われたんですよね」
BoPの目的について2023年のWEC競技規定およびル・マン24時間レース特別規定書は、ル・マン・ハイパーカー(LMH)とル・マン・デイトナh(LMDh)という「異なるエンジニアリング設計の車両が同じカテゴリーで競えるようにすることにある」と定めている。
しかしながらル・マンを前に実施されたのは、異なる規定車両間のプラットフォーム調整のみならず、個々のマシンの競争力平準化に及んだ。ルール変更を伴わないBoPの解釈変更といったところだろうか。
主催者は、開幕3戦を終えて「LMHグループ内のパフォーマンス差が当初の予想よりも大きいことが判明」したため「プラットフォーム間のバランスをとるだけでは、BoPが意図する最終目標を達成するには十分ではない」と判断。「BoPの変更とプラットフォーム間のバランス調整が同時に行われた」と説明している。
BoPに関して競技規定は原則的な事柄しか定めておらず、「システムを考案し、変更する権限を有する唯一の機関」であるWEC委員会が柔軟に運用できると解釈できるような形を取っている。
イベントに先立ち「ル・マンでは様々なことが起こり得る」としていた小林可夢偉の予想は悪い意味で的中した。ショーとしての体裁を優先した主催者のスタンスはトヨタ陣営にとって納得できるものではなかった。
「この100周年にピンポイントを合わせてクルマもドライバーもメカニックもエンジニアも、勝つためにこれだけ準備を重ねてきたのに、レースを楽しくするからという理由でそれをそんな簡単にやるのかということで相当戦いました」と小林可夢偉は語る。
「僕らとしては納得いかないし、その状況をもちろんモリゾウさん、佐藤社長にもお伝えしました」
「トヨタとしては、どうしてあげたらメカニック、エンジニア、チームの人たちが、こういう状況の中で勇気が持てるのかを考えるのが第一という事で、僕はオーガナイザーと最後まで戦うという意志を以て、レースがスタートするまでずっと連絡を取り、ミーティングを重ねていきました」
「もちろんモリゾウさんもミーティングに加わってくれて、内山田元会長も言ってくれて…そういったアクションが、一緒に戦ってくれているという思いをチームに与え、モチベーションを引き上げたと思いますし、それがワンチームの力になったのかなとも感じます」
小学高学年の児童一人分に相当する37kgという重量増は事前シミュレーションを超える影響を与えた。「走って1周した瞬間に、これはキツイなというのを正直感じました」と小林可夢偉は振り返る。
「重いウエイトを積んだ事でタイヤに対する負担が今まで以上に増えて、乗った瞬間、シミュレーション以上のダメージが出ているなというのを感じました」
1周辺り1.2秒とも推計されたハンデを負ったトヨタは、レースを通して首位争いを繰り広げたもののペースに苦しみ、フェラーリが81秒793差を付けて100周年記念大会を制する結果となった。
342周に渡るレースはル・マンでの6連覇を逃したこと以上の失望をトヨタに与えたことだろうが、それでも「これからの未来はモータースポーツが本当にモータースポーツであるための100年にしたい」という想いと共に死力を尽くした小林可夢偉は、レース後のインタビューの中で笑顔を見せた。
小林可夢偉は「政治的に戦うのではなく、純粋にスポーツ選手として、スポーツとして、そしてチームとして、このル・マン24時間に挑むというスタイルで一生懸命にチームを盛り上げ、最大限の力を出し切れた」として、「トヨタってこういうチームだよね、というイメージは世界中に伝えられたと思います」と付け加えた。