死闘も僅か80秒及ばず…ルマン24連勝記録途絶えたトヨタ、雪辱誓う小林可夢偉と平川亮
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昼夜を通じて死闘を繰り広げたもののフェラーリに対して僅か80秒及ばず、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)のル・マン24時間レース6連覇の夢は叶わなかった。チーム代表兼7号車ドライバーの小林可夢偉は「無念」と振り返った。
2023年FIA世界耐久選手権(WEC)第4戦として行われた第91回ル・マン24時間レースはフェラーリAFコルセ51号車499P(アレッサンドロ・ピエール・グイディ、ジェームス・カラド、アントニオ・ジョビナッツィ)に軍配が上がった。
順位 | ドライバー | チーム | 周回 | トップとの差 |
1 | #51 フェラーリAFコルセ/ フェラーリ 499P |
アレッサンドロ・ピエール・グイディ ジェームス・カラド アントニオ・ジョビナッツィ |
342 | |
2 | #8 TOYOTA GAZOO Racing/ トヨタ GR010 HYBRID |
セバスチャン・ブエミ ブレンドン・ハートレー 平川亮 |
342 | 1:21.793 |
3 | #2 キャデラック・レーシング/ キャデラック V-Series.R |
アール・バンバー アレックス・リン リチャード・ウェストブルック |
341 | 1 Lap |
4 | #3 キャデラック・レーシング/ キャデラック V-Series.R |
セバスチャン・ブルデー レンガー・バン・デル・ザンデ スコット・ディクソン |
340 | 2 Laps |
5 | #50 フェラーリAFコルセ/ フェラーリ 499P |
アントニオ・フオコ ミゲル・モリーナ ニクラス・ニールセン |
337 | 5 Laps |
R | #7 TOYOTA GAZOO Racing/ トヨタ GR010 HYBRID |
マイク・コンウェイ 小林可夢偉 ホセ・マリア・ロペス |
103 | – |
キャデラック、フェラーリ、プジョー、ポルシェを含めた過去最多の16台のハイパーカーが参戦したル・マン24時間の100周年大会はトヨタとフェラーリの一騎打ちとなった。
ペースという点では、イベント直前の土壇場に発表された性能調整(BoP)、豊田章男会長が言うところの「不公平とも思えるポリティクス」により、最低重量で16kg有利なフェラーリが優位に立っていたが、8号車が僅か1分21秒793遅れで2位フィニッシュした事からも明らかなように、TGRは最後まで肉薄し続けた。
3-5番手からレースに臨んだ2台のGR010 HYBRIDは、豪雨に見舞われるなど大荒れの展開となったレース開始後3分の1を通して終始、上位争いを繰り広げたが、スタート8時間後の深夜0時を過ぎたところでトヨタガレージは失意のどん底に突き落とされた。
僅差の2番手を走行していた小林可夢偉の7号車は、最高速80km/h制限のスローゾーンを前に、グラフ・レーシング39号車、JMWモータースポーツ66号車、そしてアルピーヌ35号車が絡む玉突き事故に巻き込まれた。後続からの追突によるダメージは深刻で、ピットに戻れずリタイアを余儀なくされた。
一件について小林可夢偉は「信じられないような不運」と振り返り、「スローゾーンへ入る前の準備エリアで前の車両が速度を落としたので、ペナルティを避けるためにこちらも速度を落としたところ、後方から追突されました」と説明した。
「車両のダメージは大きく、ガレージに戻る術はありませんでした。それまで力強くレースが戦えていただけに、本当に厳しい結果となってしまいました」
僚友ホセ・マリア・ロペスは「可夢偉に責任はないし、あの状況で彼が判断を誤ったわけでもない」とした上で「僕ら7号車にとってはまたも残念なル・マンになってしまった」と付け加え、マイク・コンウェイは「序盤の難コンディションの中でも健闘し、ミスも無く上位争いに加わり続けた。最速ではなかったかもしれないが全力を尽くした。アクシデントでレースを終えることになり残念だ」と語った。
6連覇の望みを一手に背負う事となった孤軍奮闘の8号車は、残り6時間を前に首位を走行していたものの、デブリによるフロントスプリッターの損傷とリアタイヤのパンクに見舞われ、これを交換。リードを失い2番手に後退し、フェラーリ51号車を31.728秒差で追いかける展開となった。
フェラーリ陣営も順風満帆だったわけではない。19時間目のピットストップの際にクルマに火が入らずタイムをロス。トヨタに対する1分ほどのアドバンテージは消滅し、残り4時間の時点でトヨタ8号車はその差を1.577秒にまで縮めた。
残り2時間を切った直後、トヨタは4スティント連続走行と大健闘したブレンドン・ハートレーから平川亮へとドライバーを交代。最後のランを託された平川亮はフェラーリを猛追し、その差をジワジワと詰めていった。
だが、アルナージュコーナーで痛恨のクラッシュを喫し、コース脇のバリアに衝突。損傷した車体前後の交換を強いられた。幸いにもラップダウンは避けられたが、15秒のギャップは3分20秒にまで拡大した。
一件についてハートレーは「亮は最も大変な状況でのドライブだった。フェラーリとのギャップを詰めるために最大限にプッシュしろと言われてリスク覚悟でアタックしたんだ。彼を責める事はできない」と擁護した。
また平川亮は「ル・マンで勝つために全力で戦いました。今日のレースを分析し、改善すべき点を見出さなくてはなりません。個人的には、自分自身のミスから学び、さらに強くなって戻って来たいと思います」として、「本当に頑張ってくれたセバスチャンとブレンドンに感謝します」と付け加えた。
残り25分という最終盤、最後のピットストップを行ったフェラーリ51号車に、発進できず再始動を余儀なくされるトラブルが襲ったが、2分30秒あった差が54秒にまで縮まったものの奇跡は起こらず、51号車の最後のランを担当したピエール・グイディは再びリードを広げ、マステン・グレゴリーとヨッヘン・リントが栄冠を勝ち取った1965年以来、58年ぶりの総合優勝をフェラーリにもたらした。
小林可夢偉は「本当に厳しい結果となってしまいましたが、8号車は最後まで全力で戦い、2位でフィニッシュしてくれました」と振り返る。
「チームとしてできることは全てやりましたし、クルマから最大限のパフォーマンスを引き出し、ドライバーもベストを尽くしてくれました」
「チームは今までに無いほど団結して、みんなで勝利を目指し、共にレースを楽しみました。この無念を晴らすためにも、もっと強くなって戻ってこなくてはなりません」
「応援してくれた全ての方々に感謝いたします。本当にたくさんのメッセージを頂き、皆様の大きな支えがあることを感じました」
セバスチャン・ブエミは「勝てるだけの圧倒的な速さはなかったが、全力で戦い続け、最後までライバルを追い詰めた。フェラーリは僕らより速かった。追随するためにはハードにプッシュしなければならず、マージン無しでのアタックを強いられた。勝つためにできることはやり尽くした。後悔はない」と総括した。
8号車は2位チェッカーという残念な結果に終わったが、首位を走るドライバーズタイトル争いで2位との差を25ポイントに拡げた。
一方、マニュファクチャラーズタイトル争いで首位につけるTGRは、2位フェラーリに18ポイント差まで迫られた。シーズンは残り3戦。次戦モンツァ6時間は4週間後の7月9日(日)に行われる。