
7度のF1王者が直面する”赤い壁”─ハミルトン苦戦の実態と、フェラーリSF-25の課題
メルセデスを離れ、フェラーリに加入したルイス・ハミルトンは、新天地で早くも厳しい現実に直面している。期待を背負って乗り込んだマラネロの地で、彼はいかなる困難と向き合っているのか。
2025年シーズン、ハミルトンはチームメイトのシャルル・ルクレールに後れを取る結果が続いている。特に直近のサウジアラビアGPでは、ルクレールが3位表彰台を獲得した一方、ハミルトンは7位に終わり、30秒以上の差をつけられた。
この事実は、適応に苦しむハミルトンの状況を如実に物語っている。レース後、ハミルトンは「最悪だった」と振り返り、ルクレールの表彰台を除けば前向きな材料は「ゼロだった」と肩を落とした。
長年にわたってメルセデス一筋でキャリアを歩んできたこともあり、如何に7度のF1ワールドチャンピオンとは言え、新しいチーム環境やマシンへの適応に時間がかかることは予想されていた。
しかし、本人も強い自己批判を展開するほど苦戦を強いられており、さらに早期の好転は難しいとの見方を示している。
Courtesy Of Ferrari S.p.A.
ヘルメットを被りガレージに立つルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年F1サウジアラビアGP(ジェッダ市街地コース)
不安定なリア、ルクレール好みのSF-25
ハミルトンにとっての最大の難関は、SF-25のリアエンドの不安定性だ。特に高速コーナー進入時やブレーキング時にリアの挙動が乱れやすく、そのためコーナー中盤でアンダーステアに悩まされる場面が多い。
ハミルトンは、現行のグラウンドエフェクトカー時代におけるメルセデス各車でも、安定性を欠くリアエンドに苦しめられてきた経緯がある。
フェラーリも近年はフロント側に課題を抱えていたが、フロントサスペンションを従来のプッシュロッド式からプルロッド式に変更するなど、大幅な設計変更を施した結果、ハミルトンにとっては不幸なことに(?)、SF-25ではバランスが根本的に変化した。
フロントの応答性が鋭くなったこのマシンは、ルクレールのドライビングスタイルに、より合致しており、これがハミルトンの苦戦をさらに際立たせている。特に予選では、両者の差が顕著に表れている。
ハミルトンはこれまで、幾度となく逆境を乗り越えてきたが、現時点で明確な解決策は見いだせていないと言い、「これが今年一年続くことになる。ただ、ただ辛いシーズンになるだけだ」と悲観的だ。
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上海インターナショナル・サーキットでリードするルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年3月22日(土) F1中国GPスプリント(上海インターナショナル・サーキット)
車高変動に潜む課題とスプリント好走
SF-25は作動領域が極めて狭く、わずかな調整やコンディションの変化がパフォーマンスに大きな影響を与える。特に車高の変化に対して非常に敏感であり、パフォーマンスの変動が激しい。
この特性は、リアサスペンションの設計とディフューザー形状に起因していると考えられている。バーレーンで投入された新型フロアによって若干改善されたものの、依然として課題は残っている。
SF-25は燃料満タン時にはパフォーマンスが落ち、燃料が減るにつれてパフォーマンスが向上していく傾向がある。搭載燃料量の変化に伴って車高が変化するためだ。
そのため、搭載燃料量がレースの約3分の1となるスプリントレースではポテンシャルを発揮しやすいようだ。中国GPのスプリントでハミルトンは見事なポール・トゥ・ウインを飾った。次戦マイアミGPでもスプリントが予定されており、そのパフォーマンスが注目される。
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トップチェッカーを受けフェラーリSF-25の上に立ち観客の声援に応えるルイス・ハミルトン、2025年3月22日(土) F1中国GPスプリント(上海インターナショナル・サーキット)
フェラーリの改善計画と今後の見通し
プランク(車体底面に取り付けられる板材)の摩耗が規定値を超過したことで、中国GPではハミルトンに失格処分が下された。これを受け、フェラーリは現在、理想よりも高い車高設定を強いられており、その結果として理想的なダウンフォースを妥協せざるを得ない状況にある。
このため、より高い車高でもダウンフォースを維持できる新型フロアの開発が進められているとも伝えられているが、導入は第9戦スペインGPが見込まれており、次戦マイアミ、エミリア・ロマーニャ、モナコの各GPでは既存パッケージでの戦いを強いられる見通しだ。
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鈴鹿サーキットのパドックに立つルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年4月3日(木) F1日本GP